はずれの大あたりくじ
恋愛模様はもちろんですが、どちらかというと各登場人物の心情を大切に、人間関係の葛藤を主に書いていきたいと思っています。よろしくお願いします。
その子のことを初めて見たのは、入学式だった気がする。
式のための集まった体育館。先に整列していた隣のクラスの三十数人の中でその子が目に入ったのは偶然だったんだと思う。
決して派手な顔立ちではないけど整った横顔。それに、緊張したように真っ直ぐ整列している姿が印象的だった。
なんとなく、可愛い子だなって思った。
それだけ。特にその子と仲良くなりたいだとかそんなことは思わなかったから。
ただ、今思えば、ずっと頭の片隅にその子が残っていた気もするけど。
◆◆◆
「それじゃあ文化祭の実行委員を決めるぞー。1回、2回程度らしいが一応夏休みの間も集まりがあるから、そういうのも参加できる奴に頼むなー」
担任の気だるげな声が教室に響く。クラスのみんなも面倒くさそうに、口々に何かを言っている。
それもそうだ。つい先週、体育祭の実行委員決めをしたばかりなんだから。
体育祭の実行委員決めもかなり時間がかかった。確か、6限目のホームルームの時間いっぱい使ったっけ。
「せんせー!体育祭の実行委員と一緒じゃダメなんですかー?」
「おい!悟志」
お調子者の多田野が手を挙げると同時に担任に質問をする。
それを多田野の隣に座っている笹山が困り顔で止めていた。
「ダメに決まってるだろ。同じ日に集まりがあるかもしれないし。それに、体育祭と文化祭の実行委員やって、部活と課題もやってたら、それだけで夏休み終わるぞ。さすがにかわいそうだろうが」
担任が黒板横の席に座ったまま手を左右にひらひらと振る。
「あたりまえだろ!俺ばっかに面倒ごとをやらせるなよ。そういう悟志がやればいいだろ。お前、文化祭楽しみ~っていってたじゃん」
「いやいや、オレは文化祭そのものが楽しみなんであって、委員会とかいう難しいことはできないから」
教室内で話しているのは多田野と笹山だけで、他のクラスメイトは自分が委員候補にならないように存在感を消すのに必死だ。
かく言う私もそうなんだけど。
「想像してたけど、やっぱこのクラス全然決まらんよな。普段賑やかなくせに、こういうときだけきっちり静かになる」
担任が頬杖をつきながら苦笑いをする。
確かに普段は賑やかでお調子者の男子たちが、今は別人のように静かになっている。
委員会が面倒なのはわかるけど、こうもあからさまだと正直ちょっとださい。
いつもうるさく感じる多田野の存在がこうもありがたく感じるとは。
「学級委員、前でて仕切って決めてくれ。学級委員と体育祭の委員、あと応援団の6人は外して、残った奴らで決めてくれ」
「…先生は何するんですか?」
残念ながら指名されてしまった学級委員の2人が席を立って黒板の前に立つ。
このクラスが始まった4月に決めた学級委員。この2人が立候補してくれてすぐに決まった。後から聞けば、内申にいいからとか言ってたっけ。
「俺か?俺は…」
担任がいつ取り出したのか分からないハサミを私たちに見せつける。
「最後の5分までに決まらなかった時のために、くじ引きを作ってるよ」
担任の悪そうな笑顔に教室が凍り付いた。
このまま誰も名乗り出なければ、完全に運で決まってしまう。
「体育祭の時は笹山と成田が折れてくれたからなー。まだ折れてくれるような奴がいるのか、それとも最後は運になっちゃうのか。先生は楽しみだよ」
最後の方はもう棒読みだった。
クラスを見回してみると、立候補するか迷っているのかそわそわしてる人、我関せずといったように机に伏せてる人、色々。
楽しそうなのは担任だけ。
「それじゃあ、立候補してくれる人いますか」
学級委員の曽根がクラスを見回す。当然誰も手を挙げない。
「それじゃあ推薦とか」
今度は沢渡さんが。これも当然誰も手を挙げない。
今この瞬間推薦なんてすれば、確実に実行委員に決まる。そうなれば文化祭が終わるまで、いや、もしかすると数年先まで恨まれてしまう可能性がある。
「じゃあもう、くじ引きで決めてもいいですか?」
終了5分前と云わず、沢渡さんが提案する。
「いいと思いまーす!みんな、恨みっこなしだぞ!」
多田野がそう言うと、クラスの数人は小さな声で返事をした。
私はというと、別にどうでもよかった。面倒だからやりたくはないけど、絶対に嫌だというほどでもないし。
かと言って、ここで手を挙げてみんなにとって都合のいい人になろうとも思わない。
「というわけで、先生。もう手っ取り早くくじ引きしましょう」
「おお。潔いな。少しだけ待ってくれ。あとこの紙を切ったら完成だから」
担任はザクザクと紙を切っていく。そして切った紙を2つの箱の中に無造作に入れた。
「男女1人ずつ選ばないといけないからな。こっちが男子でこっちが女子」
そう言いながら担任はまず右手に持っている箱を、次に左手に持っている箱を掲げて見せる。
「1枚ずつ『あたり』って書いてるくじが入ってるから、それを引いた2人が実行委員で決まりなー。じゃあテキトーに並べ-」
担任が右手に持っている箱を曽根に、左手に持っている箱を沢渡さんに渡す。
「紫音、私らも前いこー。あー、あたりませんように」
前の席に座っている花蓮が立ち上がって、お祈りをするみたいに両手を合わせている。
「言うて暇じゃん、私ら」
花蓮と私、それに青葉と茉莉は帰宅部仲間で一緒によく遊ぶ。
夏休み中の部活もない私たちは、それだけ見れば実行委員にピッタリではある。
「えー、やだよ。私、バイトしたいし旅行とかも行きたいもん。紫音だって実行委員になっちゃたら笹山と予定合わなくなるかもじゃん」
「あー…」
考えてもなかったな、そんなこと。
笹山祐。私の彼氏、たぶん。
高校に入って同じクラスになって、5月くらいに告白された。私の何が彼のお気に召したのかは分からないけど。
手っ取り早く彼女が欲しかったとか、周りに何か言われてとか、そんな感じだったのかもしれない。そんなタイプの人には見えないけど。
私だって、さすがに1か月で人を好きになんてなれないから、流れで付き合っただけだから、正直なにもわからない。
「花蓮、紫音、ファイトー」
列に並ぶ私たちに声を掛けてきたのは青葉だった。
青葉は『はずれ』と書かれた紙を私たちに見せるようにプラプラと振っている。
「うわ、いいな。緊張してきた」
背中の向うから花蓮の声が聞こえる。
そういえば、今日の占いは最下位だったな、なんてことを思い出した。
別に普段から占いを気にするタイプではないんだけど、最下位だとちょっと落ち込むし、少しでも嫌なことがあれば占いが頭をよぎる。自分でも調子がいいとは思うけど。
そんなことを考えているうちに、花蓮がくじを引く番が回ってきた。
「よーーーっし!これに決めた!」
花蓮が気合十分に箱からくじを引き、そのままの勢いで二つ折りにされているくじを開く。
「いよっしゃはずれだ!!」
元気に大きくガッツポーズを決める花蓮にクラスメイトが笑う。
花蓮はいつも元気いっぱいで、素直で、うらやましい。
「坂井、うるさいぞ」
担任が呆れた様子で花蓮を注意する。花蓮は軽くすみませんと謝るだけ。
さて、次は自分の番だ。私の後ろに並んでいるのはあと3人。
今までの女子の様子から察するに、あたりを引いた人はいないみたい。
つまり、私があたりを引く可能性は結構高い。
さっきまでどっちでもいいな、なんて思ってたけど、いざ実際に実行委員になったらって考えるとやっぱりとてつもなく面倒くさい。
「和泉さん、どうぞ」
沢渡さんが私にくじの入った箱を差し出す。
ちいさくありがとうと言ってから、箱に小さく開けられた穴に手を入れる。
うん。きっちり4枚しかない。
意味がないことは分かっているけど、なんとなくその4枚をぐるぐるとかき混ぜてみる。混ざるほどないけど。
混ぜていた手を止める。止めた瞬間に指先に触れた紙を箱から引き抜いた。
「うわ!紫音、かわいそう!」
花蓮の声が聞こえたのと、私がくじに書かれている文字を確認したのはほどんど同時だった。
くじには赤色で太く「あたり」と書かれていた。
「…大はずれじゃん」
「それはあたりだぞ、和泉」
担任の一言で確信したのか、私の後ろに並んでいた子たちの空気が和らいだのを背中で感じた。自分たちの番が来る前にあたりが出てほっとしたんだろう。
「決まったみたいだな。全員席に戻れー。女子は和泉、男子は…誰が引いた?」
「たっちゃんです!」
こういう時に一番に返事をするのは、やっぱり多田野だ。
「赤石か。じゃあ…とりあえず2人とも前に出てくれ。あ、席に戻るな戻るな」
さっき自分が全員戻れって言ったんじゃん。
そう心の中で毒づきながら、渋々黒板の前に立つ。
私と同じじく不運にもあたりを引いてしまった赤石も、嫌そうな顔を隠しもせずに前に歩いてきた。
赤石達己。多分話したことはない。確か、笹山と多田野と同じサッカー部だったはず。
あんまりこれといった印象はないけど、話しやすそうな感じはするから、とりあえずよかった。
「それじゃあ2人に拍手を!おめでとう、あたりの2人」
担任の声を合図にパラパラと控えめな拍手の音が聞こえ始めた。
なにもめでたくないし、なんだこの少し悲しくなる拍手の音量は。
早く席に戻りたいな、なんて考えていると、不意に笹山と目があった。
笹山は眉を下げて困ったように笑った。残念だったね、みたいな顔なんだと思う。多分。
「じゃあ、4人とも席に戻っていいぞ。予定よりだいぶ時間が余ったからな、テキトーに自習でもしててくれ。あ、あんま騒ぐなよ。隣のクラスから苦情が来るのは嫌だからな」
この担任は基本テキトーで、話し方もいつも少しだるそうで全く尊敬できない教師だけど、そのテキトーさがこういう時には最高にありがたかったりする。
「頑張ってね、文化祭実行委員さん!」
花蓮が横向きに座って、私の机に右ひじをつく。ひどいにやけ顔だ。
「あー、よかった。私には友達思いの優しい友達がいて。優しい友達ならきっと色々手伝ってくれるだろうからなー」
演技っぽく言ってみれば花蓮は一瞬黙り込んで、そして大声で笑い始めた。
「もちろん、もちろん。お手伝いできることがあればね。あー、でも私、紫音より優先しなきゃいけないことっていうか、これがなきゃ文化祭が始まんない!てことがあるから。そっち優先しなきゃ」
「…?何それ?」
花蓮が何を言っているのか、純粋にわからなかった。
「なにって、文化祭を一緒に回る彼氏!できれば体育祭までにほしいんだけど、最悪文化祭までには!って思ってるから!今の私の最優先事項!」
「あー…確かに、中学の時からそれ言ってるよね」
花蓮とは中学からの仲だ。
偏差値的に行けそうとか、通学しやすいって理由でこの高校を選んだ私とは違って、花蓮は制服の可愛さと学校行事の豊富さでこの高校を選んだって言ってたっけ。
花蓮の青春への期待と熱量は、私ごときでは計り知れない。
『くしゃ』
握っていたくじが折れて音が鳴る。
『あたり』と書かれた大はずれのくじ。
これが本当にあたりくじだなんて、この時の私は想像もしてなかった。
はじめまして、八我太と申します!
初投稿&長編なので勝手が分からないですが、頑張って書いていきたいと思います!
応援いただけますととっても励みになります!
よろしくおねがいします!




