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なんか二重音声聞こえたな

「まあ、そこらへんを深掘りするつもりはないよ。俺は、君が犯人じゃないってことを確かめたかっただけだから」


ちはやの顔を見た菊倉は、なんとも言えない、曖昧な表情を浮かべていた。


「無駄話して悪かったな。ただ、確証が欲しかったんだ。榎を攫うとしたら、君しか思いつかなかったから」

「失礼な話ですね」


とは言いつつも、ちはやは心の中で舌打ちしていた。当たらずとも遠からずである。


ちはやが幼い頃からじっくりと育んできた御鹿の精神(こころ)を、簡単に揺らがせてしまう存在がいることは、ちはやの危機感を大いに募らせたからだ。

それならいっそ甘名やよいから離してしまった方が良い……そう考えないこともなかった。


菊倉は、「うーん」と目を瞑りながら言う。


「とすると、榎を攫ったのは、ヤツの父親に恨みがある奴……ってところかな」

「貴方は、故人をご存知なのですね」

「死んでないだろ榎御白は」


呆れたように言う菊倉。「俺の恩人だぞ」とも付け加える。


「恩人、ですか?」

「ああ。インド洋でうちの会社の船を、海賊から救ってくれたんだ。おかげで、一世一代の重要な取引がトばずに済んだ」

「そのことに恩を感じて、私と御鹿様を引き剥がそうとしている、と」

「理解早いな、だいたいそんな感じだ。榎には、それとなく匂わせてみたら、マグロに興味を持っている奴って思われたのに」


苦笑しながら言う菊倉。一方、ちはやの心中は穏やかではない。


やはりあの父親は害悪でしかない。余計なことを。


「っと、話を戻そうか。犯人が御白さんに接触したい人間だとしたら、まあ九十九パー、御白さんに恨みを持つ人間だろうな」


耳が腐っていく感覚を覚える。まさか榎御白を「さん」付けで呼ぶ人間がいるとは思わなかった。


ちはやの表情には気付いているのだろうが、菊倉はなんともないように話を続ける。


「なにせ、御白さんは、百年以上続いた会社を経営破綻に陥らせたんだから」

「……」


ひとつ、ちはやの脳内に可能性が過ぎって消えていった。まさか、あるわけがない。


「俺としても、あんなに優秀な人が、なんで会社を傾かせたのか疑問に思っちゃうよ。わざとなんじゃないかと思うレベル…………まじ?」


人を見る目はあるらしい。菊倉は、ちはやの表情を読んで、固まった。


「だとしたら、復讐説は大いにあるよなー、あー、なんか、ちはやちゃんが御白さんを故人扱いする気持ちわかる気がしてきた」

「貴方はアレの味方なのでは?」

「そうなんだけどさー、さすがに、榎がかわいそうっていうか」


菊倉は頭を抱えて唸っていた。人並みの良心があるようだ、かわいそうに。


「まあ、とにかくだ、復讐説があるんだったら、頼れるツテはあるよな」




「嫌そうな顔するなよ」


とある家の門の前。ちはやの、顔に出していない表情を勝手に読む菊倉。ため息を吐きつつ言う。


「だって、ここしかないだろ。気持ちはわかるよ? でも、いちメイドに徹して人生舐めプしてるせいで、自分ちの権力を大っぴらに使えず、ぺらっぺらのホットケーキを食ってるちはやちゃんが頼れるのは、ここしかないんだよ」


宥めるようで煽っている。ちはやは、怒りに任せてインターホンを押した。


しばらくして、落ち着いた男の声が聞こえてくる……


『はい、どちら様でどぅわっふぁあ!? な、なんでここに佐鳥様が!?』


こなかった。ちはやのことをカメラで視認したであろうインターホンの向こうの使用人は、思い切り動揺していた。


ちはやは、すうと息を吸って。


「あの、私たち、泥棒猫(やよいさん)に会いに来たんですっ」

「なんか二重音声聞こえたな」


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