最終話 運命
「今日はごめんね、伊吹さん。付き合った途端に独占欲丸出しで、みんなの前で醜い嫉妬ばっかりしちゃって……。恥かいちゃったな……」
お店の前で解散して二人で寮へと帰る帰り道、田沼さんは歩きながら猛省をしていた。
「嫉妬は恥なんかじゃありません!……私はヤキモチ妬いてくれてる田沼さんを見てすごく嬉しかったです……。ヒヤヒヤはしたけど、本当に好きでいてくれてるんだって実感して感動しちゃいました……。それに、何度も言いますけど、私はいつでもどこでも田沼さんしか見てないですから!安心して下さいね!」
「……それは分かってるんだけど……でも嫌なの。例え伊吹さんがなんとも思ってなくても、誰かが伊吹さんを想ってるだけでも嫌……」
「……田沼さん!やばいです!今のすっごいきゅんときちゃいました!!」
「もぅ!真剣に言ってるのに!」
田沼さんは私を叱りながらも、目と目が合うと優しい笑顔を見せてくれた。
「ねぇ、伊吹さん。今度また伊吹さんが大食いするところ見せて」
田沼さんは今、ちょうどいい感じに酔っている。じゃなきゃ、いくら二人きりだったとしてもここまで素直にお願いなんてしたりしない。いい傾向だ。
「いいですよ!ちなみに、私の大食いって性欲と連動してるので、もし田沼さんが貢献してくれたらより食欲旺盛なところ見せられますけど、どうですか?」
「貢献て例えば?」
「例えばそうだなぁ、私が食べてる目の前で、性欲を助長するような際どいコスプレをしててもらうとか。バニーガールとかいいなぁ〜!田沼さん絶対似合いそう!」
少し粗い目の網タイツに田沼さんのムチムチとした足が覆われているのを想像して、たまらなくなる。
「絶対無理」
妄想をバッサリと袈裟斬りされ、私の夢はあっさりと打ち砕かれた。流れに乗らず嫌なことはきっぱり断固拒否とか、ちゃっかり余計な理性は残していて小憎たらしい。
「減るもんじゃないのに……」
「何かが減る気がする」
「チッ……」
「あ!今舌打ちしなかった?!」
「しましたよ!だって夢すら見させてくれないんですもん!いいじゃないですか!少しくらいタガ外しましょうよ!お酒入ってても外れないなんて、田沼さんのタガは他にどうやったら外れるんですか?!」
私が聞き分けのない子どもみたいにすねてすごむと、田沼さんは少しだけ申し訳なさそうな顔をした。
「……しいて言えば、私も伊吹さんと同じで大食いと連動してるところがあるから……沢山食べるとこ見せてくれた後だったら、いつもよりそうゆう気持ちになるかな……」
「えっ!?……つまり、大食いの最中じゃなくて見た後だったら、通常モードより性欲が増して多少のタガも外れることですか?!」
「せっかく遠回しな言い方したのに、事細やかに要約してくれたんだね……」
性癖の片鱗を話してしまったことに少し後悔してるような田沼さんを見ていたら、私のセンサーがピーンと反応した。
「……ちょっと待って下さい……てことは田沼さん、ぺこりんの大食い動画見た後もいつもムラムラしてるってことじゃないですか……?」
「ぺこりん?!ないない。それはないよ!」
「だって!私なんか比べ物にならないくらいぺこりんの方が食べるもん!」
「そうだとしてもぺこりんは本当にないって!」
「信用ならないですね。長年動画を見続けてるくらいだし、実際かなり夢中だし!」
「本当にないって!」
断言する田沼さんをまだ信じ切れない私は、敢えて責める目をした。思ったよりもダメージを与えられたようで、まゆ毛をハの字にさせ悲しい表情を浮かべる。
「……本当にないのに。だって……」
「だって?」
「…………ぺこりん、ブスなんだもん……」
「…………え?」
「誤解しないでね?!決して悪口じゃないから!ただ事実を、ありのままを述べてるだけだから!」
「……イベント行きまくってグッズまで買い漁ってたのに、しっかりとなかなかなこと言いますね……」
「だって、ぺこりんのことは大食い選手として純粋に応援してたんだもん!女の子として見てたわけじゃないし!……だから実際、ぺこりんのステージは見れたものじゃなかったし……」
確かに、一緒にイベントに行ったあの日も、田沼さんはライブが始まった瞬間に会場を出た。
「……そうゆう対象で見てないなら、それはそれで安心はしましたけど」
私が納得すると、田沼さんも安心したように微笑んだ。
「……ちなみに言っておくけど、私は自分がぺこりんよりもさらに下層のブスだってちゃんと自覚してるから!調子乗ってるとか思わないでね?」
「もぅ!田沼さんはブスなんかじゃありません!田沼さんは超絶可愛い私の彼女なんです!ブス呼ばわりするのはぺこりんだけにして下さい!」
「……そう言ってくれて嬉しいけど……ごめん、今の言い方……もしかして、伊吹さんもぺこりんのことブスだって思ってるの……?」
「それは……はい。私の目から見ても普通にぺこりんはブスです」
「……意外。伊吹さんブス専だから可愛いく見えてるパターンなのかと思った」
「だからブス専じゃないですって!……ただ、なんて言うんだろう……ぺこりんて、ブスはブスでも応援したくなるブスっていうのかな?心の綺麗さが顔に出てるブスっていうか……矛盾してますけど、可愛くないのに可愛い気のあるブスなんですよね……」
「……伊吹さん、さすがにいくらなんでもブスブス連呼し過ぎ……」
「突然我に返って何を引いてるんですか?!そもそも一番初めは田沼さんがブスって言い出したんですからね!?田沼さんのせいですよ!」
「そうだった?」
「そうです!私は自分発信でブスなんて言葉絶対口にしませんから。聞かれたから真面目に見解を話しただけです!」
私が歯切れよく言い切ると、田沼さんは身に覚えがあるような顔をした。
「あ、ごめん。ちょっとコンビニでお手洗い借りてきてもいい?」
話をそらすようにそう言って、私の返事を待たずにちょうど通りかかったコンビニへと逃げ込む。
「あー!ずるーい!」
後を追って店内に入る。ちょこまかと棚の間を縫い、まるで迷路を解くようにトイレへと向かっている田沼さんをすぐに見つけた。その後ろ姿を見てたら、自然とニヤけてしまってもうなんでもよくなった。
特に用のない店内で、私は手持ち無沙汰の時間を埋めようと、無駄にウロウロしながらバッグからスマホを取り出した。すると、ペンッ!と私の真後ろでメンコに似た音がした。
「おねえさん!」
振り返るより先に後ろから強めに肩を叩かれてびっくりする。
「これ落としましたよ!」
拾ってくれたのはちょうど私と同い年くらいの女の子で、彼女が手にしていたのは私の社員証だった。
「すみません、ありがとうございます」
受け取ろうとしたまさにその瞬間、彼女はまるでイタズラのように一度差し出した私の社員証をひょいっと自分の方へ戻し、顔を近づけてまじまじと見始めた。
「あ、あの……?どうかしました?」
「あっすみません!つい会社名が目に入って!おねえさん、GREEN&LIFEさんの社員さんなんですね!」
「えっ?……あぁ……はい」
「あの、社長さんはお元気にされてますでしょうか?」
「……元気……ですけど」
「よかった!出来ましたら社長さんに『また時間のある時にでも寄って下さい』って伝えて頂けませんか?」
「……分かりました。それでええと……すみません、お名前は……?」
「あー!そうですよね、ごめんなさい!アオイって言ってもらえれば分かると思います」
「アオイさん……」
社長……あんな穏やかそうな顔して、こんな若い女の子と知り合いってどうゆうこと?!『寄って下さい』って、『葵』って、絶対どっかの店で指名してる子じゃん!!
普通に引くわ!!
「……あれ?もしかしておねえさん、私のこと、どこかのキャバ嬢だとか思ってません?」
しまった、ガッツリ顔に出てた……
「……違うんですか?葵さんて、源氏名じゃないんですか……?」
「アハハ!違いますよ〜!アオイは苗字です!色の『青』に井戸の『井』で青井です」
「あ〜!青井さん!……それは、大変失礼しました……」
私は青井さんに頭を下げながら、エロじじい扱いをした社長にも心の中で謝罪をした。
「いえいえ。私も説明不足でしたから!だけど、源氏名に間違えられたのはさすがに初めてですよ〜!」
青井さんも何かの飲み会の帰りなのか、初対面とは思えないノリで私の勘違いに爆笑した。
「ほんとスミマセン……でも、じゃああの、社長とはどういったお知り合いで……?」
「……実は……お恥ずかしい話なんですけど……私以前、そちらの会社の面接をばっくれちゃったことがあって……」
「え……」
「……と言っても悪意のあるバックレじゃないんです!ちょっと事情があって……」
「事情……」
「向かってる途中の道で、たまたま少し前を歩いてたおばあちゃんが突然倒れちゃったんです。駆け寄ったら意識がなくて、転倒の際に頭を打ったのか額から流血もしてて……。その時、回りには自分以外他に誰もいなかったので、かなり気が動転してしまって……それでもとにかく慌てて救急車だけなんとか呼んで、すぐに来てくれたんですけど、足元に散らばった荷物を拾って流れるように私、そのまま病院まで付き添っちゃって……そうやって色々と必死になってるうちに、気づいたら面接の時間が過ぎてたんです……」
「……それは、大変でしたね……。でも、そんな状況でそうゆう行動を取れるなんて、素晴らしいと思います!……それでそのおばあさんは……?」
私がそう言うと、彼女は嬉しそうに笑った。
「大事には至らなくて幸い無事でした!その後ご家族が来られて、次の日には退院出来たそうで……」
「それはよかったです……」
「その後改めて連絡した時、社長さんも今のおねえさんと同じことを言ってくれたんです……。連絡もなしにすっぽかした私を一つも責めたりしないで、それどころか私の行動を褒めてくれて。なんの面識もないそのおばあちゃんの安否まで気にしてくれました。社長こそ人格者だなぁって思って、改めてここで働きたい!って思ったんですけど、希望してた事務員の職はすでに別の人に決まってしまっていて……」
「…………」
「連絡もしなかった自分のせいですし最もなんですけど、社長さんはすごく申し訳なさそうに謝ってくれて、代わりの就職先まで知り合いのつてを辿って紹介してくれたんです。それで今私、そのおかげで植物園に勤めてるんですけど、人も環境もすごくいい職場で、社長さんには心から感謝をしてるんです……。前に一度、散歩がてら様子を見に来て下さったので、それでさっきは『また寄って下さい』って……」
「……そうだったんですね……あの、ちなみになんですけど、その出来事っていうのはいつ頃のお話でしょうか?」
「今年です。私、社会人一年目なので!」
その言葉を聞いた私は、青井さんの両手を両手で握り、感激に沸いた。
「ありがとうございますっ!!」
「……はい?」
青井さんはだいぶ困惑していたけど、私はその手を離さなかった。
「あなたが……あなただったんですね!!」
「え?!あの……?」
その時、
「……伊吹さん?何してるの?」
その声に振り向くと、トイレから出てきた田沼さんが遠くで仁王立ちをしていた。その視線の先には、青井さんの手を包む私の手があった。再びその表情を伺う。田沼さんはほっぺを膨らませ、私を睨みつけていた。
そんな絵に描いたような怒り方ある?!
もぅ、本当に田沼さんはキリがないほどに可愛い。
「田沼さん!この方は女神様なんです!」
言葉が足りない私の説明に、田沼さんはさらにほっぺを大きく膨らませ、何も言わずに店の外へ出て行ってしまった。
焦った私は高速の早口で、代わりに入社したのが自分だったこと、私も今の職場が大好きで、青井さんに感謝しているということを伝えた。すると、青井さんもまた、交差したお互いの奇跡に驚きながらも喜んでくれた。
青井さんと別れ急いで店を出る。暗い道の先に目をこらし走り出そうとしたところで、
「伊吹さん」
「田沼さん!」
出てすぐのドアの脇に立っていた田沼さんが私を止めた。
「待っててくれたんですか?」
「本当に置いていくわけないでしょ」
それでもまだ機嫌が悪いままの田沼さんと、再び夜の帰り道を並んで歩き出す。
「……どんな事情があったか知らないけど、なんだったとしても、他の子にあんなことはしないで」
「はい!分かりました!」
「何そのいい返事!しかもどうして笑ってるの?全然反省してない!」
「そんなことないです!反省してます!」
「うそ!すっごい笑ってるもん!」
「……でも田沼さん、さっきの人は本当に特別なんです」
「……どうゆうことなの?」
「だってあの人は、私と田沼さんを出会わせてくれた運命の女神様なんですから!」
私は事の経緯をすべて話した。昨日はセックスを優先して話せなかった、田沼さんに出会うまでに起こった出来事のすべてを。
話していくうちに膨れたほっぺは元に戻り、田沼さんもその運命に何かを感じずにはいられないようだった。
「昔、『運命を信じるか信じないか』って誰かに聞かれたことがありました。その時はピンと来なくてよく分からなかったけど、今は私、田沼さんと出会ったことだけは絶対に運命だって信じてます。初めから私たちは、人生のどこかで必ず出会う運命だったんだって……なんか分かるんです」
前後に人がいないことを確認してから私は田沼さんの左手を繋いだ。田沼さんは突然繋がれたことにびくっとしたけど、私と同じように回りを見渡してから、恥ずかしそうに握り返してくれた。
「この先も心配なんかなんにもいらないですよ?出会った時からずっと、私には田沼さんしか見えてないですから。……大好きです」
「……声が大きいよ」
素直になるのが難しい田沼さんは、うつ向いてつれない返事をする。でも、もう内側で繋がっている私にはそれが別の言葉に聞こえる。
そうして酔っぱらい二人、いつもよりだいぶ時間がかかってようやく寮のアパートに帰ってきた。
「このままうち来る……?」
住人に見られることを警戒してか繋いでいた手は離されたけど、その代わりにそう尋ねられた。ちょっと疑ってたけど、田沼さんはちゃんと約束を覚えていたらしい。
「……はい。じゃあお邪魔してもいいですか?」
私は息を飲んで答えた。もう時間はとっくに夜中の0時を過ぎている。私たちは極力会話をせず、静かに階段を上り田沼さんの部屋へと入った。
部屋に入るなり、田沼さんは服のまま倒れるようにベッドに横になった。
「大丈夫ですか?!」
まさか、ここに来て限界が……?
そんな……!
「お茶とか飲みます?!」
「……いいから……伊吹さんも早く来て」
嘘……
酔いどれ田沼さん、想像以上に積極的だ……
「……はい」
気が引ける気がしながら、私も服のままで田沼さんの隣に横になった。すると田沼さんは左腕を回し、私を抱き枕のように抱え込んだ。体の半分が重なるような密着度で、私の胸の上に田沼さんの顔が乗っかっている。斜め下を見下ろすだけで、田沼さんの芸術的な谷間とほくろが最高の角度で見えてしまい、そのきつそうな空間に指を差し込みたくなる衝動にかられた。その気持ちをぐっと抑え、もう一度田沼さんの顔を見る。
「ちょっと……」
絶望的なことに、田沼さんはスースーと寝息を立てて寝ていた。
「た、田沼さん?!」
すごく気持ちよさそうに寝てるところ可哀想だと思いながらも、私は肩を揺らして起こそうとした。だって、このまま寝られたら一番可哀想なのは私だ。
約束したのに!!
ずっと楽しみにしてたのに!!
「田沼さん!田沼さん?!」
ぐらぐらと揺り起こす。
……だめだ……起きない。
起きる兆しが全くない……。
私の上で穏やかに眠る田沼さんを見てるのは死ぬほど幸せだったけど、田沼さんの香りとやわらかい体の感触で、狂いそうになるほど性欲は爆上がりしてゆく。それを抑え込むのも死ぬほどきつかった。
……10分後。
「……もうダメ我慢出来ない……このままだと私……本当に一人でイっちゃう……」
眠りが深いことをいいことに、私は心の声を外へ出してしまった。
その時、俄然眠ったままの田沼さんがさらにぎゅっとくっついてきた。もしかしてエッチな夢でも見てる……?
おっぱいはもっと腕に押し付けられ、やわらかい唇が私の首すじに触れる。……そんなことされたらもう本当に限界だ……
「…………た……田沼さん……」
私は決して起こさないように、愛しいその名前を叫んだ。鉄筋のように硬直してゆく体で田沼さんを強く抱きしめる。その時……
「……伊吹さん、もしかしてイキそうなの?」
「ぎゃあっ!!」
あと5秒というところで、突然パチっと目を開けた田沼さんがストレートに聞いてきた。さっきまであんなに起きなかったのに、なんてタイミングで目覚めるの?!
田沼さんは頭だけ起こして私の下半身を確認した。下着の中へ右手を差し込んだまま固まった姿を見られ、さすがの私も恥ずかしさで張り裂けそうになる。
「……一人でそんなことしなくても、私がしてあげる」
「え……」
「……それとも一人の方が気持ちよかった?」
そう言って田沼さんは、暴力的なほどにいやらしい体を私にすりつけてきた。今回は確実に確信犯だ。分かってても抗えない。
「そ、そんなことない……ですけど……だって、田沼さん約束してたのに寝ちゃうから……我慢出来なくて……仕方なく……」
すると田沼さんは突然笑い出した。
「ごめんね?ちょっとこらえきれなくて!」
その反応の意味がよく分からない……。
「だってね、すごく可愛かったから。……私が寝た後、どうするのかなー?って思ったら、伊吹さんそのまま一人で始めちゃうんだもん」
「……もしかして起きてたんですか?!まさかずっと寝たフリしてたんですか?!」
「言ったでしょ?私は伊吹さんが思ってる以上にズルい人間だって」
「……完全に騙されました……まさか田沼さんがそんなことしてくるなんて思わないし……」
「……私は、伊吹さんが思ってるような人間じゃないよ。……嫌いになった?」
「嫌いになるわけないじゃないですか!私の好きはそうゆう次元じゃないですから。ナメないで下さい!」
私が怒った口調で言うと田沼さんは嬉しそうに微笑んだ。
「本当にごめんね?騙すつもりじゃなくて確かめたかったの。約束通り、私の意識がない時は好き勝手しないでいてくれるか。でもちゃんと約束守ってくれたね?」
「もちろんです。私は言ったことは守ります。裏切ったりしませんから」
「……今だけは裏切ってくれてもよかったけど」
「えっ?!」
小さく呟いた後、田沼さんは顔をそらした。そのせいで緩くなったガードを簡単に突破して、私は田沼さんの下着の中へと右手を滑り込ませた。
「やっ!やだっ!何してるの!?」
田沼さんは慌てて私の手首を両手で掴み、必死に阻止しようとした。その行動の意味が私にはもう分かっていた。
「私思うんですけど、田沼さんと私って本質的なところが結構似てますよね。ほら……自分はまだ何もしてないし、されてもないのに、私がしてるのを感じとっただけでこんなに濡れちゃってる……。田沼さんも人のこと言えないですよ、私と同じ立派な変態です」
証拠をつきつけるように指を動かし体に教えこむ。もう何も反論出来る要素のない田沼さんの顔つきが、私の与える快感でゆっくりと変わってゆく。
「ねぇ……伊吹さん……もっと……もっとして……」
私の手の甲に自分の手を重ねておねだりをする。私は一度上体を起こし、田沼さんを真上から見つめた。そうしてるだけで、しつこいくらいに何度でも伝えたい言葉がまた出そうになる。その時、
「……好き…………大好き……」
とろけるような目をしながら私の頬に触れた田沼さんが、私が言おうとした言葉を口にした。
運命を信じてはいたけど、夢見ていた愛おしすぎる現実を前に、言葉より涙がこみ上げてくる。
「……かわいいね……すぐ泣いちゃう」
田沼さんは私の涙を指で拭った。
ぼやけた視界に田沼さんの笑う顔が滲んでいる。襲ってくる色んな感情でどうしようもなくなって、私はその愛らしく肉々しい体を力いっぱいに抱きしめた。
濡れた頬のままキスをすると、田沼さんは私の襟元を右手でぎゅっと握った。まるで心臓を握られているような気持ちでもう一度見つめる。
「あ、ごめんなさい……田沼さんの顔も濡れちゃいましたね」
私の涙で濡れた頬を今度は私が拭う。すると、指にまた一つ雫が流れてきた。
「大丈夫ですか……?」
どんな涙か分からず心配になった。
「……自分の人生に……こんな幸せなことが待ってるなんて思ってなかった……」
「田沼さん……」
「今まで、ずっと自分を否定して生きてきた……このままの私を好きになってくれる人なんてこの世に一人もいないと思ってた……」
「……私は出会った瞬間からずっと、そのままの田沼さんが大好きです……。だから、私の前ではいつもありのままでいて下さい」
相づちの代わりに見せてくれた笑顔は、今までで一番自然な笑顔だった。
つられて自分まで笑顔になる。
「……ねぇ、伊吹さん?」
「はい?」
「……笑ってるだけじゃなくて、早く続きもしてほしい……指が止まってるから……」
「あっすみません!……てゆうか田沼さん、いきなりだいぶ素直になりましたね」
「……だって、伊吹さんがそうでいいって言った。だめなの……?」
少しつついただけですぐまたむぅと唇をとがらせ、不安の入り混じった顔をする。
「……ううん。ありのままの田沼さんが一番かわいいです!」
【誰がなんと言おうと田沼さんが一番かわいい】
おわり




