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第29話 ありのまま




「……やっぱり、伊吹さんにされるのは恥ずかしい……こんな可愛い子に……」



 性癖丸出しにおっぱいを味わっていると、田沼さんは左腕で目を隠しながら言った。言ってる割にはもう抵抗する気はまるでないし、隠れていない口元からは時折快感の声を出してくれている。



 田沼さんの左腕を外し、枕元にあった右手と一緒に頭上に重ねて押さえつける。そして、一瞬で両腕の自由を奪われたことに驚いて開いたその口の中に舌を入れた。



「んっ……」



 味わいつくされた胸をさらけ出されたまま(はりつけ)にされ、さらに好き勝手なキスをされながら苦しそうに声を漏らす田沼さんを見てると、感じたことのない満足感を感じた。



「……私は、他の人には見せられない田沼さんが見たいです……恥ずかしがりながらでもいいから、私にだけはさらけ出して下さい……」



 田沼さんは頑張ってそらさずに私の目を見つめていた。その唇に中指を当ててみる。不可解な行動にきょとんとしていた田沼さんは数秒後、私の意を汲み取って中指を舐め始めた。



「すごいえっちな舐め方……」



 思ったことがつい声になって出た。指を舐められてるのに、別の場所を舐められてるみたいに感じてしまう。夢中に舐め続ける田沼さんもまた恍惚な表情を浮かべていた。



「赤ちゃんみたい……こんな田沼さんの姿、私しか見れないですね。うれしい……」



 私がそう言うと耳はもっと赤くなった。私はもうじっとしてられず、中指を与えたままで田沼さんの体の色んな場所にキスをしていった。



 お気に入りの胸元のほくろ、両方の乳首、脇腹、おへその横……と、少しづつ下へと降りてゆく。そして骨盤の上にキスをしている時、同時に可愛らしいパジャマのズボンを脱がせようとした。すると、田沼さんは突然舌の動きを止めてそれを阻止した。



「ちょっと待って!」


「……まさか、最後まで脱がないでセックスするつもりなんですか?」


「……そうゆうわけじゃないけど……今、何しようとしてるの……?」


「何しようとって、わざわざ聞くんですか?野暮ですよ?」


「………だって、伊吹さんて何しでかすか分からないから……」


「……きっと、分からないでいた方が気持ちいいですから」



 待ち切れなかった私は、油断した田沼さんの隙を狙ってパジャマを太ももまで下ろすことに成功した。



「やだ!」



 両手で顔を覆いながら田沼さんは叫んでいた。私は聞き入れずに内ももの肉を掴んで少し外へ開き、もっとよく見た。



「すごい……まだ触ってないのにこんな……」



 伸ばした指が濡れた。

 私は息を飲んだ。

 ほとんど導かれるようにして中指を根本まで沈ませると、指の体積分の水が溢れて滴った。一滴でももったいなくて舌ですくおうとしたその時、田沼さんが泣きそうな顔で止めに入った。



「そんなの絶対だめ!!汚いから!」


「お風呂に入ったばっかりなのに?」



 私は笑って尋ねた。田沼さんは何も言えずに顔を覆い隠したまま耐えている。



 とろとろになっている部分に顔を近づけてゆく。舌先が触れた瞬間、田沼さんは腰を浮かせて大きな声を出してくれた。



「汚くなんかないです……田沼さんが私のことを想って出してくれたんだもん……」



 舌を這わせ、出来るだけ時間をかけるようにゆっくりと舐め上げていった。

 もう田沼さんは止めたりしなかった。顔を覆っていた手はそれぞれ枕カバーの角をねじるように強く握り、息を荒げながら覚悟を決めていた。



 舌が一番上まで到達してしまったら、またあごを引いて下から同じことをする……何度も何度も一回目のように同じことを繰り返す。



「こんな可愛い伊吹さんが……私の……舐めてる……」


 

 田沼さんは独り言のように呟き、ガチガチに力が入った体とうっとりとした瞳ですべて受け入れていた。



 私が快感を与えるたび、肩には田沼さんの短い爪が刺さって鈍い痛みが走った。

 それでもひるむことなく続けながら私は、この夜と一緒に肩の傷も一生残ったらいいのにと考えていた。

 ずっと私の中だけで信じていた繋がりが体に刻まれて目で見れるようになったとしたら、なんて素敵なことだろう……



 そんなことを口にしたら、きっと田沼さんはまた「やっぱり伊吹さんて変」って言うんだろうな。それを想像すると、幸せで体が塗られていくような感じがした。




 田沼さんの爪がもっともっと強く食い込むようにと、私は田沼さんの体を延々と虐め続けた……





***




 真夜中の中でも一番静かな時間帯、私と田沼さんの息づかいだけが聞こえていた。



「大丈夫です……か?」



 途中、涙の懇願で結局電気を消された薄暗い部屋の中、隣で仰向けになる田沼さんに話しかけた。



「大丈夫じゃないよ!」



 田沼さんは怒ったように私に言った。



「えっ、大丈夫じゃないんですか?!どうしました?!」


「……伊吹さん……変態過ぎる」


「えー!!?」


「…………あんなこと、いつもしてるの?」


「……『あんなこと』って、どのことですか?」


「…………もういい」



 背を向けてしまった無防備な田沼さんに後ろから抱きつく。



「……私、自分からしたの初めてで……欲望のまま夢中になり過ぎてあんまり記憶にないんですけど……嫌でしたか……?」


「……嫌なんてないけど」


「よかった」



 何も身に着けていない体でくっついていると、改めてじわじわと幸せに包まれてくる。

 


「……田沼さん、すごく綺麗でした……田沼さんは心も体も世界一綺麗です」




 心からそう思って背中にキスをして、頬をくっつけながら皮膚を手のひらで堪能した。



「……私はそんなんじゃない」



 体の中で響いた声が、ぴとっとつけた耳に直接届く。



「え?」


「……伊吹さんは私をかいかぶってる。私は全然綺麗なんかじゃない。ずるいところだってあるし」


「田沼さんにずるいところ?例えば?」



 私は全くピンと来なかった。

 すると、田沼さんは寝返りを打って私に向かい合って話し始めた。



「……今日だって、Kのことを伊吹さんに頼んで外で待ってた時、私、正直少し期待してた……。このことがもう一度何かのきっかけにならないかとか……。お礼になんかするって言ったら、伊吹さんからもう一回何か言ってきてくれないかとか……。自分の勇気が出ないからって他力本願でずるい考えで……」


「え……じゃああの()()って誘惑だったってことですか?!」


「……誘惑ってほどまでじゃないけど……」


「でも、例えばですよ?あの時もし私が肩叩きじゃなくて『ハグさせて下さい』って言ってたら?」


「……それは……してたと思う」


「えーー!!!じゃ、じゃあ……『キスしてもいいですか?』だったら?」


「……完全に否定は出来ない……かも」


「うわぁー!!!じゃ、じゃあ!『おっぱい見せて下さい』って言ってたら?!」


「それはないでしょ」


「それはないんかーい!!」



 流れ的にアリかと思ったのに肩透かしをくらった。



「……でも、もったいないことしたなぁ……思い切ってもっと違うことを言ってもよかったんだ……」


「……そこ後悔するの?結局はしたっていうのに」


「それはそうなんですけど、単純に、イケた時にいかなかった自分が悔しいというか……」

 

「ていうか、私のことズルいって思わないの……?そんな遠回しなやり方して……」


「……田沼さん、それはずるいんじゃなくて、どっちかって言ったらエロいです」


「……は?」


「『は?』って!田沼さん、ウケるんですけど!!突然冷たすぎますよ!」


「……あ、ごめんね」


「いいよ」


「えっ?」


「あっ!ごめんなさい!ついタメ口になっちゃった……」


「……別にいいんじゃない?そもそも恋人同士で敬語の方がおかしいと思うし……」


「……ん?恋人同士?」


「……え……、もしかして伊吹さんは付き合うつもりなくてこんなことしたの……?」


「ちっ、違います!そうじゃなくて!だって、付き合うって話はまだしてないし!」


「言わなくたってそうなんじゃないの?普通、こうゆうことしたら……」


「でも田沼さん、付き合ってなくても愛ちゃんとしてたし……」


「…………」



 私は悪気なく田沼さんを完全ノックアウトしてしまった。



「……今のはごめんなさい」


「ううん。その通りだから……」


「でも、嫌みで言ったわけじゃないんです……」


「大丈夫、分かってる。伊吹さんはそんなことしないって。ただ、本当に自分でその通りだなって思っただけ。私ってそうゆうことしてたなって……」



 何か言わなきゃと思うのに気の利く言葉が思いつかない。

 


「だけどね、そんなことしてた私が言っても信用ないかもしれないんだけど……さっきの私は、彼女としてるつもりでしてたよ……」



 田沼さんはそう言って私の右手を握った。

 私は裸のまま、裸の田沼さんを抱き寄せて思いっきり抱きしめた。



「田沼さん!!大好きです!!」


「……私も。伊吹さんが大好きだよ」



 くっついていた体を離し、目の前にいる田沼さんをしっかりと見つめた。



「じゃああの…………私と付き合ってもらえますか?」



 田沼さんも私をしっかりと見ていた。



「……不束者ですが、どうぞよろしくお願いします」


「田沼さんっ!私、一生面倒見ますね!」


「……伊吹さんが見てくれる方なんだ?ていうか一生って、今からそんなだいそれたこと言い切らなくても」


「言い切りますよ!もう一生離さないですもん!田沼さんのこと!」


「……あの、伊吹さんてさ……」



 突然田沼さんが言いづらそうにする。少し怖くなりながら尋ねた。



「え?なんですか?」


「その……根っからのブス専なの?」


「ブス専!?私、ブス専じゃないですよ!」


「……じゃあ、デブ専?」


「デブ専でもないです!」


「……見た目は好みによるとしても、体型は事実だし。私結構太ってるから……」


「田沼さんは全っ然太ってなんかないじゃないですか!私から言わせれば世間の女子が痩せ過ぎなんです。田沼さんはすんごくいやらしい理想の体してます!大きめのお尻とかたまんないです」


「……じゃあこの短い足はどうなの?正直、大きいお尻に短い足ってさすがにスタイル悪いって思うでしょ?」


「そこが可愛いんじゃないですか!」


「……足が短いことは否定しないんだ?」


「……すみません。何度も言いますけど私、嘘はつけなくて……。正直、確かに田沼さんの足は短いです。でも、それこそが可愛いんです!ペンギンが歩いてるみたいで!」


「ペンギンて……あそこまでは短くないし!」


「あ、すねてます?」


「別にすねてなんかない……」



 言葉とは裏腹に、田沼さんは口を尖らせて頬をぷうっと膨らませていた。



「田沼さん、それ続けたら私キュン死にしちゃいますよ?いいんですか?田沼さん、殺人犯ですよ?」


「なんでいきなりそうなるの?!」


「キュン殺しの容疑で逮捕です。ちなみに逃げても無駄ですよ?足が短いからすぐ捕まっちゃいますから!」


「ひっどい!」



 そう言って田沼さんは思わず私の腕をパチンと叩いた。口を大きく開けて笑い、その目は笑い涙で滲んでいる。こんな顔を見せてくれるのは初めてだ。



 これからきっともっと今まで知らなかった田沼さんをもっと知ってゆける……




 これからすべてがはじまる。

 私も一緒に笑いながらそう思っていた。

















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