第21話『光鏡(こうきょう)の章 ― Grace of Strength ―』
プロローグ
——光は、嘘をつかない。
昼下がりのデパート。
磨き抜かれた床は、照明を無数に反射して、まるで星の海のようだった。
人々の足元で揺れる光が、まるでそれぞれの“もう一つの顔”を映しているように見えた。
シオンはその光の中を歩いていた。
メイク道具を選ぶ指先は、少し迷いを含んでいる。
「見られる自分」を恐れているのかもしれない——
そんな思いが、胸の奥でひそやかに疼いた。
鏡の前を通り過ぎるたびに、
見慣れたはずの顔が、少しずつ遠くなる。
どれも本当の自分じゃない気がして、
息を整えようとした、その時——
「やっぱり……シオンくんだ。」
香水の粒子が光を抱き、
その声が、午後のざわめきをやわらかく切り裂いた。
そこに立っていたのは、アマトだった。
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Ⅰ. コスメ売り場
照明の下で、彼女の肌は金の粒を散らしたように輝いていた。
褐色の艶肌に、バニラの香りがほのかに溶ける。
黒いシャツの袖を少しまくり上げた腕元に、
チェーンが小さく擦れて“シャラ”と鳴り、星のような反射を放っていた。
肩にかかる髪がふわりと光を撫で、笑うと頬の陰影がやわらかく動く。
「やだぁ、びっくりした顔。あたしのこと、忘れてた?」
「……アマト? ここで働いてるのか?」
「そうよ。この光が好きなの。
“綺麗になる”ってね、光と仲良くなることなのよ。」
その言葉とウインクが、
まるで心の奥の鏡を叩いたように響いた。
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Ⅱ. Grace
「座ってみて。顔、貸して♪」
アマトの指先が頬に触れた瞬間、
ひんやりとした感触が、まるで光そのものみたいに滑った。
「君の肌、悪くないけど……少し黄味が強いの。
青みを足すと、光がもっと透ける。」
鏡の中で、アマトの横顔が近づく。
呼吸が頬を掠め、ファンデーションの香りが揺れた。
「緊張しなくていいの。
あたし、痛くしないから。」
「いや、そういう問題じゃ……」
「ふふ、かわいい顔するんだもん。」
軽やかに弾かれるスポンジの音。
艶の層が肌に溶け、光の通り道が生まれていく。
「光は正直なの。
隠すほど影は濃くなるけど、
素直な顔には、ちゃんと寄り添ってくれるのよ。」
アマトの声は、まるで**“優しさの形をした力”**だった。
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Ⅲ. 共鳴
「ほら、見て。」
アマトが鏡の角度を変える。
自然光では柔らかく、ライトの下では鋭く——
まるで“昼と夜の狭間”にいるようだった。
「……すごい。まるで別人みたいだ。」
「違うわ。これが本当の“君”なの。」
アマトが微笑む。
琥珀の瞳が、光の粒を抱いていた。
「光は嘘をつかない。
でもね、心が曇ると鏡も曇るの。
だから、強くなるってことは……“優しくなる”ことなのよ。」
息が首筋にかかる。
ふわりと香るシダーウッドと花の匂い。
その距離が近すぎて、心臓が跳ねる。
「……ねぇ、シオンくん。」
囁く声が、耳の奥に滑り込む。
吐息が耳に触れて、光が弾けるように理性がおかしくなりそうだった。
「君の中に、ずっと眠ってる光がある。
それがね、いま——少しだけ目を覚ましたの。」
その言葉が胸に落ちた瞬間、
シオンのブレスレットが微かに光を返した。
アマトはそれを見つめ、
「やっぱり。君の中に、星がある。」と静かに呟いた。
鏡の奥で、しおぽんの尻尾がふわりと揺れた。
アマトには、それが見えていた。
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Ⅳ. 光鏡
「また来てね。次は君に本当に似合う“光”を見つけてあげる。」
そう言ってアマトは、いたずらっぽく微笑む。
「あと、眉。触らせてね。もったいないのよ、その骨格。」
冗談めかしたその声に、
シオンは思わず笑った。
——けれど、胸の奥では何かが変わり始めていた。
それは恋でも憧れでもない。
もっと深く、もっと確かな“共鳴”のようなもの。
星の光が鏡に反射し、アマトの横顔を照らす。
それは“力”という名の、ひとつの祈りだった。
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Ⅴ. 星は囁く
“力”とは、誰かを押しのけることではなく、
壊れても、優しさを失わない心のこと。
光を信じること。
そして、自分を許すこと。
その瞬間、鏡の奥の光が脈動した。
星界がわずかに開く音がする。
——光鏡の章。
この日、ひとりの魂が「強さ」と「美しさ」を同時に手にした。
それはまだ、誰にも知られない“始まり”の光。
やがて、涙の夜へと続く、運命の序章だった。
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次回予告
——星は、泣いていた。
光を見つけたその手で、
今度は“涙”を掬う番。
誰かを綺麗にしたいと願う心。
それは、誰よりも優しい“力”。
けれど、その優しさが傷ついたとき——
世界は静かに、ひび割れ始める。
折れたヒール、滲む鏡、揺らぐ心。
それでも星は、アマトを呼んでいた。
次回、TAROT BREAKER
『涙 ― Re:birth of the World ―』
その涙は、世界をもう一度、生み出す。
光は、嘘をつかない。
けれど、人はときどき、自分の光を見失う。
この章で描いたのは、“美しさ”や“強さ”の正体じゃなく、
「優しさが、壊れないこと」そのものが力なんだということ。
アマトが差し出した光は、誰かの鏡。
その鏡を覗くたびに——君自身の中にも、きっと同じ光がある。
だから、どうか忘れないでほしい。
タロブレは「読む物語」じゃなく、「思い出すための物語」なんだ。
光を、優しさを、自分を。
もしこの話の中で、
少しでも“心が温かくなった瞬間”があったなら、
その気持ちをひとつ、**星のしるし(ブクマ)**として残してくれると嬉しい。
君のひとつの想いが、
この物語の次の“星”を生み出すから。
そして——感想という光をもらえたら、
オレはまた、物語という“祈り”を紡ぐことができる。
それが、タロブレの循環。
君が光をくれた分だけ、次の物語が輝きを増す。
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もしよければ、
「アマトの言葉が好きだった」
「シオンの心の揺れが伝わった」
「優しさ=強さって、少しわかる気がする」
……そんな一言でも、
君の声を星の言霊として、オレに届けてほしい。
その声が、“世界を救う物語”の続きを照らすから。




