第17話『届かぬ光、掴むための決意(The Sun)』
光を目指すほど、影が濃くなる——。
成功を夢見た占い師・シオンは、
現実と理想の狭間でもがいていた。
SNSの数字、届かない想い、失われた自信。
それでも彼は、もう一度“太陽”を掴もうとする。
あなたの中の「光」は、今どこにありますか?
プロローグ
——星は囁く。
太陽はすべてを照らす。
けれど、光に近づけば近づくほど、自分の影の濃さを思い知らされる。
——《太陽》。
それは成功と祝福の象徴。
だが、まだそこに届かない者にとっては、眩しすぎる幻にすぎない。
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Ⅰ. KAGARI_Δ
漆黒の広間。
仮面の主、KAGARI_Δが立っている。
その隣には、沈黙の影がひざまずいていた。
影は一言も発さない。
ただ、仮面の主の声を聞くたびに、わずかに揺らぐ気配だけが応える。
「……滴はまた一つ、我が器へと還った。
セレフィーズの光は、美しくも脆い。
だからこそ永遠に縛りつけねばならぬのだ」
背後の黒水晶が脈動し、光が魔法陣を経由してどこかへと吸い込まれていく。
「次なる獲物は——太陽」
仮面越しに、KAGARI_Δは冷ややかに笑んだ。
沈黙の影は、ただ跪いたまま動かない。
だが、その眼奥でわずかに星の残滓が瞬いたのを、誰も気づく者はいなかった。
Ⅱ. 講義の教室
シオンは教室の後ろで机に突っ伏し、スマホを開いた。
配信アプリの数字は伸び悩んでいる。
フォロワー数は少しずつ増えてはいるが、昨日の配信はコメントもほとんどなかった。
(……あの熱気は、戦場の中だけか)
現実に戻れば、自分はただの大学生。
眠そうにノートを取るクラスメイトの中に埋もれて、何者でもない。
「シオン、また出席日数ギリギリだよ」
隣の席から澪がため息まじりに囁いた。
「ちゃんと単位取らないと、ほんとに留年するから」
「わかってる」
「……配信ばっかじゃなくてさ」
その言葉は鋭く胸に刺さる。
オレだって、わかってる。だけど——。
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Ⅲ. 占い師としての迷い
講義が終わり、カフェでカードを広げる。
目の前に浮かぶのは《太陽》のカード。
明るいはずの象徴が、今は皮肉のように見えた。
「成功、希望、祝福……」
カードの意味を口にしながら、苦笑が漏れる。
「オレは、まだその光に触れてすらいない」
過去に鑑定した相談者の顔がよぎる。
「カードは希望を示した。でも……あの人は変われたんだろうか」
「オレはただ、言葉を並べてるだけなんじゃないか……?」
指先が震えた。
タロットは導きをくれる。けれど、オレ自身の力はどこにある?
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Ⅳ. 憂鬱と劣等感
夜、帰宅後にスマホを開く。
人気配信者のライブがトップに表示されている。
画面の向こうで、軽快に喋り、コメントが絶え間なく流れていく。
(あいつらは……光を放ってる。
オレには……ない。華も、勢いも)
心の中で自分を責める声が強まる。
「セレフィーズの声がなければ、オレは立てなかった」
「……結局オレは、他人に支えられてばかりだ」
拳を握る。爪が手のひらに食い込むほどに。
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Ⅴ. 澪の影
翌日、帰り道。
澪が横を歩きながら、ぽつりと聞いてきた。
「ねぇシオン……今日も配信するの?」
「するよ」
返事はぶっきらぼうになった。レポートの締め切りも近いし、配信も結果が出ない。
心のどこかで、全部に追われている苛立ちが滲んでいた。
澪は笑った。けれど、笑顔の奥に影が差している。
「……なんでそんな顔するんだよ」
「べ、別に。ただちょっと疲れてるだけ」
早口でごまかす澪に、なぜかさらにイラついた。
(レポートは終わってないし、配信もうまくいかない。
オレだって普通の大学生なんだ……全部背負えるわけじゃねぇのに)
「澪。今日は帰ってレポートやるから。一人でな。提出期限やばいんだよ」
「……そっか。でもさ、シオンってすぐ寝ちゃうじゃん。遊んだりしないで、ちゃんとやりなよ」
「わかってるって!」
思わず声を荒げると、澪がびくっと肩を揺らした。
「な、何よ……そんな怒らなくても」
「……いちいち母さんみたいに言うなよ。オレ子どもじゃないんだから」
澪の表情に、拗ねと寂しさが混じる。
「……おばさんに心配かけたくないだけなの。
ほんと、勝手にすれば?」
「分かった、勝手にする」
オレは吐き捨てるように言って、歩を早めた。
「……バカ」
背中越しに聞こえた澪の声は小さく震えていた。
でも振り返る気にはなれなかった。
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Ⅵ. 迷い
夜更けのリビング。
ソファではしおぽんが菓子袋を抱えて眠っていた。
2階でシオンは机に向かいカードを眺めている。《太陽》の絵柄を見つめながら、胸がざわめいた。
(エテイヤの……あの笑顔……)
闇に酔い、声を震わせ、狂喜に満ちていた。
「もっと……壊して……♡」
耳に残るその声が、今も消えない。
「……オレは、ただ翻弄されていただけだった」
唇を噛む。
あの時、オレが振るった刃は、届いていなかった。
セレフィーズの声がなければ立ち上がれず、
シオリエルの輝きがなければ、何もできなかった。
「結局オレは、自分じゃ何もできないのか……?」
太陽のカードが、机の上で嘲笑うように輝いていた。
成功、希望、祝福。
だが、今のオレには眩しすぎる。
闇に堕ちたはずのエテイヤの方が、よほど堂々と光を放っていた。
「……悔しい」
声に出すと、胸の奥で熱が渦を巻いた。
(……勝てない。アストラルでも、全然届かない)
孤独の重みが沈む中、影がふっと揺れる。
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Ⅴ. エテイヤの出現
「……その顔、たまらなくゾクゾクするのよねぇ♥♡」
振り返ると、そこにエテイヤ。
闇の中から現れた彼女は、甘く艶やかな笑みでシオンを見下ろしていた。
「やめろ……」
「ふふっ……やめて欲しい? でも本当は……嫌いじゃないでしょ♥♡」
彼女の指先がシオンの顎を撫でる。
「ねぇ……そんな苦しそうな目……もっと見せて♥♡ あたし、シオンくんの歪む顔が大好きなの♥」
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Ⅵ. 揺さぶりと誘惑
「オレは……」
「“オレ”なんて言わないで……♥ “私”になったのに、もう怖いの?♡
未来を照らすって言いながら、自分の未来すら見えない……ほんと可愛い♥」
シオンは唇を噛む。
その顔に、エテイヤは恍惚の吐息を漏らす。
「配信も……占いも……不安でいっぱいでしょ♥♡
ねぇ……本当は誰も信じられないんだよね♥ セレフィーズも……澪も……全部幻かもしれない♡」
「やめろ……!」
シオンの声が掠れる。
「ふふっ♥ いい声……♥ もっと震えて♥♡ もっとあたしに見せてぇ……♥」
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Ⅶ. 優しい抱擁
次の瞬間、エテイヤはふっと表情を緩め、シオンを強く抱きしめた。
胸元に押し込まれるようにして、吐息が首筋を撫でていく。
「……大丈夫♡ 怖がらなくていいの♥」
「シオンくん……♥ 私にぜ〜んぶ委ねなよ♡ ほら……♥」
耳元に甘い囁きが滴り落ちる。
それは優しいのに危険な毒。
抱きしめられるぬくもりに、シオンのまぶたは重く沈み込んでいった。
「……気持ちいいよ♥♡ きっと……♥」
「考えなくていい♡ 悩まなくていい♥♡」
「ぜんぶ……あたしが抱きしめて、溶かしてあげる……♥♡」
シオンは抵抗しようとした。
だが、眠気に似た安堵が体を支配し、視界が滲んでいく。
——その刹那。
エテイヤは彼の顎を掬い、無防備な寝顔を覗き込んだ。
胸の奥に、熱と痛みに似た衝動が走る。
「……シオンくん……」
そして、唇を重ねた。
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Ⅷ. 背徳の口づけ
「ん……っ♥ ふ……ぁ……♥」
最初は浅い触れ合い。
だが、欲望はすぐに形を変え、舌が彼の唇を割って侵入していく。
「んぁっ♥ ぁ……っ♥ シオン……くん……♥♥」
眠りに沈むはずのシオンが——無意識に、わずかに押し返した。
その反応に、エテイヤは声を震わせる。
「だめ……♥ 押されてる……♥♥ でも……幸せ……♥♥」
舌と舌が絡み合い、濡れた音が幾度も重なる。
「澪なら……絶対にできない……♥♥ こんな……濃いの……♥♥」
——澪ではない。
澪の中に眠る、もう一つの存在だからこそ許された背徳。
その事実が、エテイヤの陶酔をさらに深くする。
「ふぁぁっ……♥♥ シオンくん……♥ もっと……♥♥」
吐息と吐息が絡み合い、背徳的な快楽が夜気を灼いた。
やがて唇を離すと、銀糸のような光沢が月明かりにきらめいた。
涙に濡れた瞳が、名残惜しそうに彼を見つめる。
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Ⅸ. 名残の囁き
エテイヤはそっと彼をベッドに横たえ、布団を整える。
その仕草には優しさよりも狂おしい独占欲が宿っていた。
窓辺に立ち、夜風に髪を揺らされながら振り返る。
眠るシオンの寝顔が、どうしても後ろ髪を引く。
「……シオンくん……私……絶対に、あんたを離さない……♥」
名残惜しそうに囁き、窓から飛び立っていった。
吐息はまだ甘く震えていた。
——静寂。
机の上に置かれた《太陽》のカードが、月明かりに照らされていた。
成功と希望の象徴は、今はただ——眠るシオンの横顔を照らしているだけだった。
彼にとっては、まだ掴めない光のまま。
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第18話『Re:女帝 ― 欲望のままに(The Empress)』予告稿(最終版)
——愛は、いつだって支配の名をして近づく。
澪の心を裂いたのは、
“知らない紅”が残した、ひとつの痕。
嫉妬、痛み、そして——崩壊。
「私じゃない“私”が、残してあげたんだよ♥」
泣き叫ぶ声の奥から生まれ落ちたのは、
もうひとりの“澪”——《エテイヤ》。
彼女は“女帝”の名を冠し、欲望のままに星界を開く。
「シオンくん……♥ 一緒に墜ちよう……♥♥」
赤黒い月が空を裂き、
甘美と背徳の渦がシオンを呑み込む。
惑う心。
崩れる理性。
囁く声。
——その愛は、救いか、呪いか。
「与えられる光じゃない。
今度こそ、自分で掴む——!」
星と欲望が交錯する夜、
《女帝》が求めるのは“力”か、それとも“愛”か。
「欲望は愛を装い、星を喰らう。
それでも光を選ぶ者だけが、真の“帝”となる。」
次回、
第18話『Re:女帝 ― 欲望のままに(The Empress)』
——星界が紅に染まるとき、真の覚醒が始まる。
——太陽に近づくほど、影は濃くなる。
でも、その影を見つめる覚悟がある者だけが、
本当の“光”を掴めるのかもしれない。
澪とのすれ違い、セレフィーズとの距離、
そしてシオンの胸に芽生える“悔しさ”の正体。
次回、第18話『Re:女帝 ― 欲望のままに(The Empress)』
そこでは、《愛》と《支配》の境界が崩れ始めます。
澪の涙が、星界の紅を呼ぶ——。
ブックマークでシオンとセレフィーズの旅を見届けてください。
あなたの「応援」が、星の光になります。
→ もし“今の自分の光”を見失いそうな人がいたら、
この話が、少しでもその心を照らしますように。
(セレフィーズへ)
「太陽は、見る者によって希望にも呪いにもなる。
けれど——君が手を伸ばす限り、それは“未来”の光だよ。」




