表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/15

第五話:黒き森の小屋 ~中がどうしてこんなに広いのか?~

本作をより深く楽しんでいただくために、ぜひ過去のエピソードもご覧ください。

そして、ブックマークやコメントをしていただけると嬉しいです。

皆さまの応援が、物語を紡ぐ原動力になります。心より感謝します!

葉の一枚もない黒色の木々の間を縫うように続く、曲がりくねった狭い小道。その道を進むヴァナとクロサワは、まるで自然の中の散歩をしているかのような感覚だった。茂みもなく、草もわずかに一、二センチほどしか育っておらず、まるで街中の石畳を歩いているような快適さだった。


クロサワは少し頭を下げて地面を見つめた。赤く光る跡が、あの老人の足取りを深く、しかもまばらに示していた。


ゲームで最初から自動的に付与されるレベル1のパッシブスキルが働いてるみたいだな。追跡スキルが楽々使えてる。でも、あのファンボーイを殺したとき、心臓はすぐに消えてた。たぶんインベントリに送られたんだろうけど……インベントリの操作ができない。おかしいな。パッシブスキルを全部ちゃんと活用できるようになれば、きっと役に立つはずだ。


ヴァナは、何の迷いもなくこんなにも正確に追跡を続けるクロサワに驚いていた。しかし、それを表情に出すことはなかった。外から見れば、彼女は常に冷静で無感情なように見える。


すごい……追跡に関してはまるで天才ね。もしかして昔は狩人だったのかも? もしそうなら、一緒に行動して金を稼げるかもしれない。この大陸を離れるにはたくさんのお金が必要だし……


クロサワは歩きながら、隣を歩くエルフの女性が何を見ているのかを理解するのも悪くないと考えた。


「足跡が深くて間隔が広い。かなり変わった走り方をしてたんだな」


「え? それ……私に言ってるの?」


クロサワは右手の人差し指で地面を指さした。だがヴァナの視点からは、乾いて埃っぽい地面以外は何も見えなかった。


「つまり、あの老人は走って逃げたってことね……それは危険だわ。子供たちに何かした可能性もある」


「たぶんもうやってる。もしかしたら死体を物色してるところかもな」


ヴァナは顔をしかめ、クロサワの襟元をつかんだ。


「やめて! そんな恐ろしいことを考えて何になるの? 何の根拠があってそんなこと言うの?」


だが、クロサワは襟をつかまれても動じず、落ち着いた声で答えた。


「なぜ俺を殺さなかったと思う? 匂いを隠すための袋を取りに行くために、俺をあそこに隠したんだ。つまり、この辺には危険な捕食者がいて、あの爺さんは死体の匂いをごまかす方法を知ってるってことだ。どう考えてもただの人間じゃねぇ。あの野郎は間違いなく人食いだ。お前も少しは頭を使えよ」


ヴァナはクロサワの襟を乱暴に手放し、視線をそらして前だけを見つめた。


子供……それが彼女の弱点かもしれない。なら、それを利用して仲間に引き込めるかもな。計画を一人で進めるのもつまらないしな


クロサワは何も言わず、足跡を追い続けた。やがて彼の視線の先に、片目だけの、屋根の半分が崩れ、煙突もない木造の小屋が見えてきた。小屋の周囲には半径六メートル以上、一本の木すら生えていなかった。空からは、まるでスポットライトのように太陽の光が降り注いでいた。しかも草は生き生きとしており、膝の高さまで伸びていた。


ヴァナの鼻先に、強烈な悪臭が漂ってきた。その匂いは彼女にとってあまりにも濃厚で、まるで紫色の霧となって視界に現れるかのようだった。匂いの元は、約十メートル先の小道にあるらしい。


クロサワはヴァナの目に宿る怒りと、険しい表情を見て立ち止まった。


「どうした? 何か問題でも?」


ヴァナは左手の人差し指で小屋を指し示し、右手で鼻と口を同時に押さえた。


「臭い……濃くて、腐敗したような匂いがする。あそこには何か……大きくて、古いものがいる」


クロサワは、エルフが黒魔法を感じ取るだけでなく、基本的な五感も鋭いことを知っていた。


今こそヴァナの心を掴むチャンスだ


彼は足を速めた。


「おい、何してるの?」とヴァナが声をかけたが、彼は止まらなかった。


クロサワは膝まで伸びた草をかき分けて進み、木の扉の前に立った。そして、その扉を一蹴りで蝶番ごと吹き飛ばした。扉は奥の空間へと落ちていった。そしてクロサワは、言葉を失った。


身を乗り出して下を覗くと、そこには果てしない円筒形の空間が広がっていた。軸に沿って回転する無数の扉……周囲は淡いピンク色に染まっており、上を見上げても、白く円形の天井しか見えなかった。


なぜ……いつもの「よくあるゲーム展開」にならないんだ? なんだよ、これは……


クロサワは前に一歩踏み出した。しかし、足元に「バブル」スキルを使って、分厚く大きな泡を出現させた。そして次の一歩でも同じサイズの泡を生み出し、二つの泡の位置を入れ替えながら自由自在に移動できるようにした。


「おい、じじい。どこに隠れてるんだ? ほらよ、飯が歩いてきたぞ」


彼がちらりとさっき入った扉を見やると、扉は他の開きっぱなしの真っ白な空間と同じように、ぐるぐると回る中に紛れていた。


「クソが……」


そのとき、どこからともなく、あの老人の笑い声が頭の中に響いた。


「ハハハハ! 飯だ、飯が来た! うちの孫たちも腹ぺこだってのに、家まで来てくれるとはな。よしよし、その扉に入ってこい!」


目の前の三歩先に、完全に開かれた扉がぴたりと停止していた。中は真っ白で、何も見えない。


「怠けてないで、さっさと入って来いよ、晩飯が待ってるぞ」


突如としてその扉から巨大な手が伸び、クロサワの体をがっしりと掴んで引きずり込んだ。


中は、大きな教室だった。


教壇の前にはあの老人が立っており、その喉元を掴まれたクロサワが引き寄せられていた。彼は視線を左手の生徒席へと向けた。そこには、首のない子供の死体が十数体、きちんと席に座らされていた。


「一度でいいから、俺の勘が外れてほしい」


老人のひげは抜け落ち、下あごは蛇のように大きく裂け、腹のあたりまで開いていた。唾液が頬から滴り落ちている。真っ黒な虹彩の中に、赤い瞳孔がギラついていた。彼は自分の腕ほどもある舌を伸ばし、クロサワの左頬を舐め上げた。その味に驚いたようだった。


「いい味だ……英雄様、甘いなぁ……」


クロサワは一切動揺を見せなかった。が、次の瞬間、老人の腹部から拳が飛び出した。老人が180度首を回すと、そこにはクロサワのもう一つの姿が立っていた。そして、手にしていたクロサワの体は砂のように崩れ落ちていった。


「《霧のミストカーテン》……幻覚を生み出すにはもってこいのスキルだな」


老人が怒りのあまり叫び、腕を振り回してクロサワを教室の黒板に叩きつけた。


老人の体が膨張し始めた。


「この下郎が! 嘘つきめ! 引き裂いてやる! お前の肉を食らってやる!」


どんどん膨れ上がる肉体。筋肉が盛り上がるたびに、頭部がどんどん小さく見え、ついには背中が天井にぶつかるほどの巨体へと変貌した。


最初にこの世界に転移された時、最初に倒したあの魔物……あれが死んだのは俺の力じゃなかった。生まれたばかりのキャラに付いてる一時的な無敵バフのおかげだ。最初は気づかなかったけど、今ならわかる。この化け物は《ロム》だ。貪欲で、鈍重で、愚かなモンスター。でも、こんな空間魔法を使えるなんて……何かがおかしい


化け物が巨大な拳を振り下ろしたが、クロサワは《跳躍ジャンプ》スキルを使って一瞬で姿を消し、背後に回り込んだ。そして「バブル」スキルで化け物の背中に泡を付着させた。


だが、化け物は後方に腕を大きく振り回し、反撃してきた。クロサワは再び《跳躍》スキルで右腰のあたりへと移動し、今度は脚にも泡を纏わせた。


化け物は突然、自身の軸を中心に猛スピンを始め、教室全体を瞬く間に破壊し尽くした。粉々になった空間の破片が黒い空間の中でゆっくりと漂い、首のない子供の死体の断片は、ただの足場と化していた。


化け物はその暗闇の中を完璧に移動していた。まるで空を飛んでいるかのようだった。背中と脚に付いた黄色みを帯びた泡を纏ったまま、クロサワに向かって突進し、拳をその顔面に叩きつけた。


クロサワはバク転しながら宙に舞ったが、背後から現れた化け物が今度は後頭部に蹴りを入れた。だが、泡が弾けて衝撃を和らげた。空気の流れがないため、黄色い粉の粒子は周囲に舞い上がることはなかった。視界は完全に閉ざされた。


化け物は即座に粉の中を抜け出そうとしたが、背後からの一撃を受けて背中に付けた泡も破裂した。これで粉の範囲はさらに広がった。


分厚く、反響するような声が響いた。


「どこだ……どこにいる! 出てこい! 逃げられんぞ!」


クロサワの姿は見えなかったが、声だけは聞こえた。


「ほんと、鈍すぎるんだよ。ここだよ、よーく見ろって」


化け物は、声が粉の中から聞こえてくると気づき、即座に飛び込んだ――その瞬間、永遠の闇を切り裂くようにして現れた一筋の槍が、頭部を貫通した。


槍はすぐに引き抜かれ、闇に開いた白い穴の向こうで主の手の中に小さく収まった。


化け物はまだ息をしていた。気絶していたが、生きていた。


「その目がな……全部バレバレなんだよ。それに、心臓が二つしかないとか……欠陥品にも程がある」


化け物は必死にクロサワの姿を探したが、粉が頭に開いた傷口から体内に入り、数秒で二つの心臓を破裂させた。


そして、すべての闇の空間がまるでガラスのように砕け散り、消滅していった。


クロサワは、木の切り株の上に立っていた。顔を上げると、そこにはヴァナがいた。


だが彼女の瞳には深い悲しみが宿っていた。


彼女が見つめている方に視線を移すと――地面に描かれた《スティグマ》の各端に、杭に刺された子供の頭が突き刺さっていた。中央には胴体、そして最上部にももう一つの子供の頭。


四肢は……存在しなかった。


もし「英雄を倒すと報酬がもらえる」って仕組みの裏に、こんなもんがあるっていうなら……このクソ野郎ども、全員ぶっ殺してやる

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ