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【第4話】地鳴り!敵か味方か、それが問題だ!

小柄ながらも、彼女の足取りには一切の無駄がなかった。腰まで伸びた銀髪を揺らしながら、黒い瞳の虹彩の内側には薄紅のリングが浮かんでいる。まるで王女のような美貌を持ちながらも、きらびやかなドレスではなく、全身を覆う黒革の戦闘服に身を包んでいた。


胸元を横切るように固定されたベルトには投擲用のナイフが収まり、肩から足元までたなびく黒いマントが風に揺れている。革製のブーツの踵には、星型の回転スパイクが取り付けられ、静かに、だが確実に地面を踏みしめていた。


彼女は、街の入り口に立つ掲示板の前で立ち止まり、金のピンで止められた依頼書に目を通した。


『洗濯物泥棒のゴブリン』『川に潜む人型モンスター』『キャラバンの子供失踪事件』──いずれも報酬は微々たるもので、魅力に欠ける。しかし、その中で唯一目を引いたのが、子供失踪事件だった。依頼人は失踪した子供たちの家族で、報酬はすでにギルドに預けられている。生死を問わず発見できれば報酬を受け取れるという。


彼女はその依頼に一瞬心を動かされたが、追跡能力に乏しい自分では達成は困難と判断し、諦めた。彼女が望むのは、単一目標の討伐──できれば高額報酬のつく危険任務だ。だが、そういった案件は今、掲示板にはなかった。


ため息をつき、彼女は小さく頭を垂れた。

……やっぱりギルドに登録しないと、マトモな依頼は回ってこないわね。でも登録すれば、目立つ。せっかく撒いた追手にもまた見つかるかもしれない。どうする? 今後……


その時だった。地面が轟音とともに揺れ動いた。建物が軋むほどの揺れに、誰もが地震とは思わなかった。二本の足で立っていることさえ困難な異常な振動。人々は空から何かが降ってくることよりも、城壁の外から迫る“何か”の存在に怯えていた。


ただ一人、その振動の発信源が、城壁から少し離れた森の入口付近、川のほとりにある巨大な木の根元であると察した者がいた。


銀髪の女は怒涛の勢いで地を蹴った。踏み出した地面は砕け、走るたびに身体から電気の軌跡が放たれ、彼女の通った道には白い閃光のラインが残っていく。


加速しながら右足を前に踏み出し、腰を沈めてその足に重心をかけると、次の瞬間、大地が爆ぜた。彼女の身体は城壁の上へと一気に跳躍し、見張りの兵士たちは驚愕して一歩後ずさった。


「な、なんだお前は!?」

「ここは立ち入り禁止だ!」

「名を名乗れ!」


どんな問いかけにも答えず、彼女は迷いなく城壁の向こう側へ飛び降りた。


落下する途中で体勢を水平にし、双脚で城壁を蹴ると、さらに加速して異常振動の発信源へと飛んだ。


そこにいたのは、まるで蛇のような柔軟な体躯に、三角形の頭部を持つ奇妙な獣。体表には鱗のような黒い装甲がびっしりと敷き詰められ、その姿はまるで甲冑を纏った竜のようだった。特に短い前脚には大きな鉤爪があり、後脚はやや長く筋肉質。足先は小さく、捕獲よりも跳躍に特化している構造だった。


城壁の兵士たちはその異様な存在を見て、警鐘を鳴らし始めた。市民は地下避難所へと急ぎ、衛兵は迎撃の準備に取りかかる。


だが、銀髪の女は怯まず、怪物の顔面へと思い切り蹴りを叩き込んだ。

怪物の喉が膨らみ、不快な唸り声が響く中、彼女は次なる攻撃の構えを取った。


怪物は地面に這いつくばったまま、目を閉じて何も見ていない。にもかかわらず、その巨大な尾だけが鞭のように振り回され、空を裂く音が響いていた。


「厄介ね……。ただかわすだけじゃ終わらない。目を閉じて腹ばいになるってことは、腹部が弱点ってこと。しかも、それを理解できるほど知能がある……あるいは、そう訓練されてる。」


尾の攻撃を避けるために、彼女は後ろに跳び、横に回避し、時には跳躍中に片手で尾を押さえて空中でバランスを取った。


「この種は長く眠り、肉も食べない。なのに、ここにニグラムがいる……おかしい。大地を汚染する何かがある。調べる必要があるけど、まずはこいつを倒さなきゃ。」


彼女はニグラムの頭頂部に飛び乗り、迫り来る尾をかわしつつ、瞬時に反対側へ飛び移った。だがその瞬間、怪物は口を大きく開き、彼女を丸呑みにした。


――地響きと激しい打撃音の中、川辺の草陰に潜んでいたクロサワは鼻呼吸に切り替えた。


この揺れ……あいつ、今どこかで何かと戦ってるな。上半身はなんとか動くけど、足はまだ痺れてる……。もう少し戦っててくれれば、こっそり逃げて中立地帯まで辿り着けるかも。だが、その前に、ヘナリアが俺に何を求めてるのかはっきりさせたい。魔王が生まれなければ……やるべきことは一つしかない。《PKプレイヤーキル


ニグラムの体内で、彼女は投擲ナイフを上下に一つずつ喉に突き立てた。


「《刃の交差 ― 槍!》」


二本のナイフの間に青い雷光が走り、それは巨大な半透明の槍へと形を変えた。槍の中心を握り、ぐるりと一回転させると、ニグラムの動きはピタリと止まった。


彼女は通常サイズに戻した槍を前歯に突き立て、下顎を足で押し下げ、ついに脱出に成功した。


……やっぱり、このニグラムは異常だった。刺激した原因がここにあるに違いない。俺は一人じゃない。もし罠だったら、戦ってる最中に襲ってきただろう。ってことは、俺を観察してる熟練者がいるってことか……


一方、銀髪の女が戦っていた場所から少し離れた場所には、一人の老人がいた。肩には黄色い袋を一つ、だがその中には複数の袋が重なって入っており、中からは獣の肉や血の匂いを隠すための香草が詰め込まれていた。


老人は、木の根元に隠してあった“獲物”の場所へと戻る途中で、戦闘の余波に巻き込まれたように現れた銀髪の女と鉢合わせた。


「おい! 帰れ、ここには何もない! 町はあっちだ、行け、今すぐ!」


突然現れた老人に、女は驚きのあまり体の芯が凍るような感覚を覚えた。


「わ、私は……」


「お前? 何がお前だ! ここには何もない、食い物もない、勇者もいない、誰もいない! 帰れ!」


(食い物? 勇者? 神? この老人、何を隠してる……? しかも袋の中は香草でいっぱい……)


「その袋……何が入ってるの?」


老人は肩から袋を外し、背中に回した。


「どの袋のことだ? 袋なんかない! 食い物を入れる袋もないし、肉を切るナイフも持ってない! でも町にはある! そう、町だ! 行け、行け、町へ行け!」


女は背後に転がるニグラムの死体を指し、冷静に言った。


「肉は美味しいわよ。必要なら、あれを分けてあげる。血抜きだけしっかりしないと……」


「嫌だ! 交換なんてしない! 川で釣ったんだ、俺が釣ったんだ! 竿で釣ったのは俺だ、お前じゃない、俺だ!」


その異常な執着に、女はニグラムの咆哮でも感じなかった緊張を覚えた。


「その“食べ物”って……人間?」


老人は首をかしげ、右目は左へ、左目は右へと泳いでいた。


「人間? 魚だ、魚! 腕があって足もある、大きな魚! 俺の魚だ、神様がくれたんだ! 帰れ、やらん、誰にもやらん、俺と孫たちのものだ!」


その言葉に、女の脳内に電流が走った。街の掲示板で見た「キャラバンの子供失踪事件」の一文を思い出した。


「隊が小規模だったため、山賊もいない黒の森ルートを選びました。森を探索してください。」


「……てめぇッ!」


女の横蹴りが老人の肩を捉え、彼の体は黒い木にぶつかったあと地面に崩れ落ちた。呻き声を上げながら倒れたまま、老人はなおも呟いていた。


「……食べ物……俺の……孫たち……食べなきゃ……」


木の根の陰から聞こえていた老人の声がぷっつりと止むと、クロサワの口元には自然と笑みが浮かんだ。しかし、周囲にはまだ第三者の気配がある。カッコつけなきゃならない。


もう、足も動く……今がチャンスだな。


隠れ家を覆っていた草木を蹴り飛ばして飛び出し、銀髪の女の前に立った。


「さっきの爺さんをやってくれて助かった。」


真っ白なシャツにズボン、ジャケットまで一切汚れていない男の姿を見て、女は手招きした。右手にはまだ槍を握っている。


クソッ……本来この場面、俺が主役のはずだったのに……。でもここで引き下がるかっての! 俺は主人公なんだ、絶対に!


「脈は安定してる……恐怖心はなさそうね。こんな状況に慣れてる……でも、服装が変。生贄の服装だわ。なぜ?」


その言葉に、クロサワの背中を冷たいものが伝った。


「い、生贄? それって……?」


「バカなふりはやめなさい。どの生贄よ? もちろん、魔の力を引き出すための、人間を捧げる生贄のことよ。」


……ふざけんな。あのファンボーイ野郎、俺を本当に捧げようとしてたのか……。殺して正解だったな。


クロサワは肩をすくめ、喉を軽く鳴らし落ち着いた口調で言った。


「だから、手のひらに印を刻もうとしてたのか……最後までやらせなかったのは、むしろラッキーだったんだな。」


「生贄が自分を捧げようとした相手を殺した……? しかも逃げ延びてる。老人の話によれば、川を渡ってきたらしいけど……まさか、あの街から来たって言うの?」


「そうだよ、名前すら覚えてない街さ。」


「バカ言わないで。誰かに囚われるくらいの力しかないのに、どうやって殺したの? しかも、奴隷の刻印付きで?」


クロサワは喉元に当たる槍を右手でそっと押さえた。


「刻印なんてない。こっちの世界に来た瞬間、化け物と戦わされてな。それを倒した直後、レゴラスっていうエルフが現れて、王城に招かれたんだ。だからそろそろ、その槍どかしてくれないか?」


女は槍を下ろしたが、眉をひそめて声を荒らげた。


「あいつは偽物よ。エルフなんかじゃない。ヘナリアの願いで、見た目だけがエルフに“似ている”だけ。」


クロサワは驚きを隠せなかった。まさかこの異世界で、生のエルフに会えるという夢が偽物だったとは──。


「そうか……夢が砕けたな。まあ、少なくとも共通の敵がいたわけだ。」


「いた……?」


クロサワはポケットに手を突っ込み、飄々とした態度で答えた。


「レゴラスはもういない。殺した。川は逃走ルートとして使った。けど、その後体力が尽きた。」


「兵士たちが川を調べてたのは、そういうことか……でも、どうやって渡ったの?」


「それは……企業秘密ってことで。で、君の名前は?」


「ヴァナよ。あなたの名は?」


その瞬間、クロサワは迷った。本名を言うべきか、それとも──?


勇者に狙われるような存在になるためには、“クロサワ”であることを隠すべきかもな……。ゲームプレイヤーだとバレたら、距離を置かれる可能性もあるし……名前は変えるか。ただし、あくまで自然な偽名に。


考える時間はなかった。女が不審に思う前に、彼は手を差し出した。


「ジェイムズだ。よろしくな、ヴァナ。……さて、俺はそろそろ自分の道に戻るとするか。」


だが、ヴァナはその手を放さなかった。


「あなた、ただの生存者じゃない。技術もある。あの老人、子供たちについて話してた。失踪依頼の子供たちと一致するわ。せめて、彼らを探すのを手伝って。」


この女……強すぎて助けなんか必要なさそうなのに、俺に道案内を頼むってことは、方向音痴か? ふっ、まあ、仲間を得るには悪くない展開だな。


「いいよ、協力する。でも、あの爺さんは……消えたな。」


ヴァナは振り返り、実際に老人が姿を消しているのを確認した。


「見つけられる?」


「もちろん。足音は間隔が広くて重い。どこへ行ったか、すぐ分かるさ。」


「じゃあ、行きましょう。」


「おう。」


ヴァナと並んで歩き出しながら、クロサワは胸の中でひそかに闘志を燃やしていた。


この女……どこまでも出しゃばってくるな。だが、主役の座は渡さねぇ。俺の方が目立ってやる……! ついでに、女エルフの相棒が俺に惚れる展開もアリだな……フフフッ!


読者の皆さん、こんにちは。

毎話のあとに何かを書き残すのは、もしかすると少し鬱陶しく感じるかもしれませんね。まるで皆さんからの反応を無理に引き出そうとしているように見えるかもしれません。でも、僕の本当の願いは、皆さんからのフィードバックを受け取って、より良い物語を書けるようになることでした。


もし、この物語を読んで、少しでも一日の疲れやストレスを忘れられたなら──

それだけで僕はとても幸せです。


どうか、お体に気をつけて。

そして、人生を愛してください。

皆さんのことが大好きです!

心からの感謝を込めて……。

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