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【第2話】寄生虫のような人生を生きたファンボーイの願い

「三世紀に及ぶ戦争の末、大陸は四つの領域に分割された。その名も、信仰者の地、魔族の地、中立地帯、そして呪われし地。中立地帯にはあらゆる種族が住んでおり、大抵は罪を犯して追放された者たちだ。呪われし地には誰も住んでおらず、各種族の貴族たちが追放される場所でもある。そしてその四領域はさらにいくつかの国に分かれている。今お前がいるのは、信仰者と魔族の間に挟まれた小国ヴァレン。魔法使いたちが特に強力な国だ。」


黒沢は、目の前の白いソファに腰かける青い目のエルフ――総司令官の視線を真っすぐに見つめていた。


「説明ありがとうな。で、本題だ。ヘナリアはどこだ?」


エルフはため息をついた。「その…同じ女神のことを言っているのか?」


「他にヘナリアがいるなら知らないが、あの女に勝手に呼び出されてここに来たんだ。全然知らねーよ。」


「君は勇者として召喚されたんだ。」


黒沢の服装は真っ白なジャケットに金の十字の刺繍が入った礼装。シャツ、ネクタイ、ズボン、靴も全て白で統一されていた。


「ま、服のセンスは認めるよ。礼くらいは言っておく。ところで…名前は?」


「レゴラスだ。」


その名前を聞いた瞬間、黒沢は彼の目をじっと見つめた。


「お前…俺より先に来た勇者って、まさかお前か?」


レゴラスは首の後ろに手をやって、少し照れたように笑った。「あはは…そうだ。」


黒沢は前のローテーブルを足で蹴り上げ、そのままレゴラスの顔面にぶつけた。テーブルは砕けたが、レゴラスの顔には傷一つつかなかった。


「落ち着けって。」


レゴラスはソファに座ったままだが、黒沢はすでに立ち上がっていた。


「ここに勇者がいるなら、なんで俺が呼ばれたんだよ?」


レゴラスは深く息を吐き、脚を組み直した。


「この世界の元になってるゲームで、俺はリリース当初に100%クリアした初のプレイヤーだった。それで女神ヘナリアに召喚された。俺が来た時にはすでに魔王が世界を荒らしていた。俺は五百年戦って、ようやく役目を終えたんだ。君は、次の勇者ってわけさ。俺は報酬を得て隠居した。君も言われた通りにすれば、それだけで報酬が手に入る。」


黒沢はしかめっ面でレゴラスを睨んだ。


「しょうもねぇ人生送ってたんだな、トールキンの信者くん。」


レゴラスの顔が一瞬固まったが、立ち上がらなかった。


「女神の加護なしじゃ生き延びられないぞ。それに…死んでも元の世界には戻れない。全く別の場所へ行くことになる。」


「なんでそんなこと知ってんだよ?」


「俺の任が終わってから君が来るまでに二百年経ってる。他に誰も召喚されなかったとでも?」


黒沢は女神が自分の前にも勇者がいたと語っていたのを思い出した。


「じゃあ、ヘナリアの話が嘘じゃなければ…確かに、他にも来てるかもな。」


「つまり…やることは一つだ。敵を倒し、強くなり、レベルアップしろ。魔王が現れるタイミングは誰にも分からないし、今の魔族はそこまで強くない。今が強くなるチャンスだ。」


黒沢は少し首をかしげて考え込んだ。


「確かにな。でも、オレンジ髭のドワーフとエルフが仲良くしてるのを見て吐き気がしたんだよな。」


レゴラスが勢いよく立ち上がった。黒沢の目の前に仁王立ちになった。


「今…なんて言った?」


黒沢は明らかに背の高いエルフを見上げる形になったが、目をそらさずに言い放った。


「トールキンの友情冒険譚なんてクソくらえだ。俺はベルセルク信者だ!」


黒沢の拳がレゴラスの腹にめり込んだ。レゴラスはたまらず一歩後退し、うめき声を漏らしながら前屈みになった。


「てめぇ…!レベルいくつだよ!」


レゴラスは叫びながら剣を抜き、黒沢の首を狙って振り下ろした。しかし黒沢は素早くかわし、一歩踏み込んで懐に入った。レゴラスがバックステップで距離を取ろうとした瞬間、黒沢の飛び膝蹴りがレゴラスの顔面に炸裂した。


「お前の時代にはPvPサーバーなんてなかったろ、バーカ!」


吹き飛ばされたレゴラスが尻もちをつく。黒沢は無表情で彼を見下ろしていた。


「『神と魔』――ゲームのタイトルにしてはありがちだが、このゲームの良いところは、毎年革命的なアップデートがあるってことだ。お前の頃はレベル上げとPvE中心だった。でも今はPvPがメインになった。動きのバリエーションも大幅に増えた。」


レゴラスは床に座りながら、左手の掌にゆっくりと魔法陣を刻んでいた。


「で、それを俺に語る理由は?」


黒沢は腰に手を当て、前傾姿勢でにやりと笑った。


「だって、こういうお決まりが大好きなんだよ。見てみろよ。今からお前の命を奪う俺に対して、必死に掌に魔法を刻んでる。実に様式美ってやつだ。」


レゴラスが掌を黒沢に向けると、未完成のペンタグラムから赤い魔法の触手のようなものが伸び、黒沢の四肢を絡め取った。中央の魔法陣からは無数の回転する歯がついた巨大な筒状の顎が出現した。


「自業自得だな。」


レゴラスが一歩踏み出すごとに顎が黒沢に近づいてくる。だが、その瞬間、レゴラスの足元が白く光り、彼の瞳孔が広がった。


「な…!」


次の瞬間、魔法陣が逆流するように爆発し、レゴラスの魔法は崩壊。黒沢は手首をさすりながら、うめき声を上げるレゴラスの前に立っていた。


「分かったか?クリティカルヒットじゃないとお前にダメージを与えられなかった。クリティカルは最大HPに基づいてダメージを与える。お前の時代にはなかった仕様だ。」


そして、黒沢は足早に部屋の窓辺へ。外の城下町を見下ろした。


「さて、ここからどうやって逃げるか…」


黒沢は周囲の足音に気づき、すぐに部屋の中を見渡した。窓の外には階段と城壁、そして城の周囲を囲む川が見える。どうやら逃げ道は限定されているようだ。タイミングを誤れば、階段にぶつかって即死もあり得る。


扉が蹴り破られ、兵士たちがなだれ込んできた。彼らは目の前の光景に絶句する。レゴラスは血まみれで倒れ、もう一人の「勇者」は窓辺に立ち、外をじっと見つめていた。


「おい、そこのお前!」


隊長が怒鳴ったが、黒沢には聞こえていない。彼はただ、ジャンプの角度と川への着地ポイントを計算していた。


そして次の瞬間、黒沢は窓枠に足をかけ、躊躇なく飛び降りた。


隊長がすぐさま窓に駆け寄り、下を覗いたが何も見えなかった。


「おい、部隊を分けろ! 城の排水路と外の森に続く川を探せ!」


一方、黒沢は一階下のバルコニーの縁にへばりついていた。


「ふぅ…やれやれ。医務室を探して始末しなきゃ。」


バルコニーの縁を越え、隣の開いた扉へ忍び込んだ。中の会話を聞きながら、彼は気配を探っていた。


中では、レゴラスが担架に乗せられ、治療を受けていた。看護師の一人が不安そうな声でつぶやいた。


「レゴラス様、大丈夫でしょうか…」


もう一人のぽっちゃり体型の看護師が、冷静な口調で答える。


「大丈夫よ。この治癒包帯を使えば、一週間もすれば動けるようになるわ。」


「でも、その前にあの男がまた来るかもしれませんよ…」


「大丈夫よ。彼は“勇者”なの。勇者は勇者にしか止められない。もしレゴラス様が無理なら、別の勇者が彼を見つけてくれるはずよ。」


黒沢は思った。


(やっぱりか…他にも勇者がいるってことか。PvPサーバーで3年間トップにいた俺をここに送った理由がなんとなく分かってきた。たぶん、他の勇者を“狩る”ために呼ばれたんだな。)


看護師の動きと位置を耳で探りながら、黒沢は気配を殺していた。


その時、ぽっちゃり看護師が言った。


「…もう出てきていいわよ。」


(バレてた!?)


黒沢は驚いた。気配を完璧に隠したつもりだったが、相手はただ者ではなかった。


「気配に敏感なのか、それとも…勘か?」


看護師は微笑んで首を横に振った。


「どちらでもないわ。あなた、彼を殺しに来たんでしょう?」


「そうだよ。察しがいいな。」


「じゃあ…これは女神ヘナリア様の命令なの?」


「まぁ、要約すればそうだな。俺は“人間との戦闘経験がある者”としてここに送られた。ってことは、他にも勇者がいるんだよな?」


看護師は視線を落とした。


「お願い…例外にしてあげて。レゴラス様がいなければ、この国は他国にすぐ侵略されてたわ。」


「心配無用。俺は勇者だ。罪のない人間は殺さない。だが、これだけはやらなきゃならない。」


彼女が背を向けた瞬間、黒沢は彼女の首筋に手刀を打ち込み、ゆっくりと床に倒した。


レゴラスの前に立ち、かつての勇者を見下ろす。


「言っただろ。クリティカルヒットじゃないとダメージにならないってな。」


拳を胸に叩き込んだ。返り血が彼の顔と胸に飛び散った。拳を引き抜くと、手にはレゴラスの心臓が握られていた。


《おめでとうございます!経験値ボーナスにより、レベル50に到達しました!》


《古き勇者の心臓を手に入れました。スキルは過去のステータスからランダムに選択されます。》


《獲得スキル:バブル / ジャンプ / スモークカーテン》


表示された文字はすぐに消えたが、その内容は脳裏に深く刻み込まれた。


「なにこれ…ランダムかよ。しかも少なっ。新しいスキル作れるのか?いや、今はそんな場合じゃねえ。」


黒沢は手の中の心臓が消えたことに気づいた。


「消えた?まぁ…そのうち必要になったらまた現れるだろ。」


血まみれのまま、彼は再びバルコニーへと戻った。


バルコニーに戻った黒沢は、まだ手に付いた血を気にすることなく、次の行動を考えていた。廊下を通るわけにはいかないし、川にも飛び込めない。思考の迷路をさまよう中、不意に耳元で声がした。


「しーっ!こっちよ!」


声は左から聞こえた。ゆっくりと視線を向けると、緑の髪を肩まで伸ばし、額の広い、大きな青い瞳の女性が手招きしていた。


「早く、こっちに来て。ここから逃がしてあげる。」


膝丈のブーツに、軽い革鎧、背中には二本のショートソード。フードをかぶったその姿は、どう見ても怪しかった。だが、黒沢は迷わず、隣のバルコニーへ飛び移った。


「うわぁ、何の躊躇もなく飛んで来たね。よっぽど切羽詰まってるってことか。」


「……俺が血まみれなの、怖くないのか?」


「大丈夫、大丈夫。ちゃんと分かってるよ。」


彼女は黒沢の肩に手を置いた。


「この城には、王族専用の秘密の通路があるの。そこを使えば逃げられるわ。でも、条件が一つあるの。――私も一緒に連れてって。」


黒沢は即座に、彼女の額に指を突きつけた。


「君、冒険好きの王女だろ?」


的を射たその言葉に、彼女は驚きで目を丸くした。


「えっ、なんで分かったの…?」


黒沢は両手で彼女をそっと押し、二歩後ろへ下がらせた。


「ただのカンだよ。……けど、当たってたな。まぁ、ここに来たのは元々このルートを使って下に降りるためだし。」


黒沢はバルコニーの縁まで下がり、身を乗り出した。


「ちょ、ちょっと待って! まだ名前も聞いてないんだけど!」


黒沢蓮くろさわ れんだ。」


それだけを残し、黒沢は頭からバルコニーの下へ飛び込んだ。

お読みいただき、ありがとうございました。

文章を書くことにはある程度慣れていますが、正直なところ、ひとつ大きな問題があります。

それは――日本語で作品を創ったのは今回が初めてだということです。

だからこそ、どんな批評でも素直に受け止めますし、傷ついたりしません。

どうか、率直なご意見・ご感想を遠慮なくお聞かせください。


(では、次の章でお会いしましょう!)

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