1~少年の失敗と、少女の成功
ーしくじった。
ーなぜあんなまきびしに引っかかったのか
ーなぜ声を出してしまったのか
あのまきびしはおそらくアイツが仕込んだんだろう。アイツなら俺の侵入経路も予測してるだろうし、ごまかしも上手かった。直前でしか気づけなかった。
いや、後悔しても遅いだろう。もうじき死ぬ。
体に当たる雨の音すら聞こえなくなってきた。ほぼ身内に殺されるのは悔しいが、仕方のないことだ。
さっさと地獄に行くとしよう。
、、、
あー、こんなことで死ぬのか俺。 せっかく中忍まで最速で上り詰めたのに、稼ぎまくってある程度貯まったら野菜でも育ててゆっくり暮らしたかったのに、、、
師匠にも申し訳なさ過ぎる。人間として扱ってくれたのはあの人が初めてだったのに、、、
「くや、、し、、」
こうして「クロ」と呼び名をつけられた男は意識を失った。
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ー何でこうなったの
雨降る森の中を走りながら少女は答えの出ない問いを己に投げかける。
無能だから? 相伝魔法が使えないから?
「何で、、どうして、、!」
「姉さん~ どうして逃げるんですかぁ~ 父上が呼んでいますよぉ~」
笑いながら5匹ほどのオーク、いや、獣魔が弟とともに追いかけてくる。
弟は問題なく相伝魔法を使い、獣魔を召喚して見せた。自慢の弟だ。
昨日までは
昨日聞いてしまったのだ。父上が弟を使って私を殺そうとしていることを。
ついでに化けの皮が剥がれた弟も見た。私が鈍感だったのかもしれないけど。
「もう、、だめ、、」
ハァハァと息をしながら木に寄りかかってしまう。足が震えてもう走れそうにない。屋敷からどれだけ走っただろうか。
「もうだめなら、、最後に一回」
そうしておまじないのように何千回と言ってきた言葉を言う。
この相伝魔法は召喚するだけ。だから詠唱も一つだけ。
「相伝・召喚魔法位1 魔獣召喚ッ!!」
その瞬間、16年もの間反応がなかった左手の紋様が鈍くも光った。
読んでくれてありがとうごじゃいます