2023年8月15⑦
あれから6時間が経った。今日で9人目の侵入者が現れた。だかその侵入者にはどこか見覚えがある。
「また来たか」
侵入者は夕方きた高校生の一人であった。友人に宝箱を開けるように発破をかけていたうちの一人だ。
「あった…宝箱……」
宝箱を見た瞬間、高校生の顔が急に明るくなった。自然と笑みがこぼれながら宝箱に近づいていく。
もしかしたら、宝箱を開けた子があのあとにスクロールを開いてスキルの手に入れたのかもしれない。それで自分が宝箱を開けておけばと後悔して、一人で抜け駆けしてきたのかもな。
高校生は警戒心もなく早歩きで宝箱の手前に膝をつくと、勢いよく蓋を開けた。期待を膨らませているのか、高校生はバッと口と目を開けながら中身を確認する。
「うぇっ!?すっすげぇ!!え?剣じゃん!?」
なんと高校生があけた宝箱には全長1mほどのロングソードが入っていた。
「やば…絶対強いじゃん」
高校生がロングソードの鞘を抜くと鋭い両刃が現れた。しかもその刃は黄色く光を放っている。絶対に、レア武器だ。
「ちっ…運のいい奴め……」
ダンジョンの有益性が社会に広まるのはいいが、強力な武具はいずれダンジョンの脅威になる。それに単純に高校生のガキがそんな強い武器を手に入れてイキってるのも気に入らない。
そのままジグザグ通路に入って落とし穴で死んでくれないだろうか……どうやらダメらしい。一瞬だけ通路の入口に視線を向けたが、不意にスマホの画面を覗いた彼はすぐにダンジョンを出ていった。
まぁもう夜の10時だ。それに流石に一人だけでダンジョンの奥に入り込むほど馬鹿ではなかった。
「また来たか」
高校生を見送った数十分後、今度はスーツ姿の男が中に入ってきた。男はスマホを眺めながら宝箱を確認する。
「ここか…あれ?繋がらない?」
ダンジョンの中では電波は届かない。男は何回かスマホの画面の更新を試みたが、すぐに諦めたようだ。
宝箱はすでに変えてある。サラリーマンが開けた中身は残念ながら?魔石であった。
まぁ魔石も新エネルギーになる資源だ。潜在価値は十分にある。でもまだそれを知らない人類にとっては謎の石ころでしかない。
サラリーマンの男はスマホを見つめながら眉間にシワを寄せると舌打ちをした。
スマホの画面を見てみると、どうやら先程来た高校生のSNSを見ていたようだ。おそらくこのサラリーマンはこの近くに住んでいるか働いているのだろう。
彼が上げたロングソードの写真を見て来たようだ。
だがサラリーマンが手に入れたのは一個の魔石。むしろ確率的にこれが普通だ。先程まではただのまぐれにすぎない。
だが男はそれに納得できないようらしい。男は立ち上がるとジグザク通路の入口をジッと見つめた。スマホのライトで照らしても見えるのはたかが数メートル。
だが男は先に進むの決めたようだ。男はライトで天井と床を交互に照らしながら、足場の悪い通路をゆっくりと右に進んでいく。
そしてすぐに曲がり角にぶつかった。このさきになにがあるのか…男はモンスターの奇襲に警戒しているのか、スマホのライトで照らしながら、顔の半分だけを覗かせて曲がり角の先を確認する。
スマホのライトでは通路の先を完全に照らすことはできないが、少なくとも近くにモンスターがいないことを確認した男は曲がり角を曲がると、壁に手をかけならが、またゆっくりと進んでいく。
だが少しだけ気づくのが遅かった。新たに見えた曲がり角から顔を覗かせようと一歩足を前に出したときだった。
「あっ??」
その瞬間に男の右足はその反発力を失った。不意をついていきなり床が消えたせいで、男は前に転ぶようにその穴に落ちていった。
自分が落とし穴に落ちた。そう気づいたときには男の口めがけて直径5cmの針が突き刺さろうとしていた。
『侵入者を殺害しました。ダンジョンポイントを1000P獲得しました』
「あらら…残念」
殺すつもりはなかったが仕方がない。そのまま大人しく帰っていれば良いものを、欲に飲まれたらこうなるのだ。
さて時刻は23:55分。あと数分で1日が過ぎる。今のところ眠気は一切ない。俺は維持費の削減のために宝箱と吹き矢をダンジョンボックスにしまった。
これで維持費は174Pだ。やはり宝箱一つで50Pはかなりでかい。
とりあえず日付が変わるまで待とう。維持費の節約が有効かどうか確かめたあとは、また宝箱と吹き矢を同じ場所に設置して、あとは眠気が来るまで現状維持だ。
そんあことを考えていたら遂に日付が変わろうとしていた。自分がダンジョンに巻き込まれて半日がった。たったの半日で二人の人間を殺した。でも罪悪感は一切生まれなかった。
自分はもう人間ではないのだろう。精神が人間を殺すために完璧に合理化されてしまったのだろうな。
あと四秒で一日が終わる。そして8月16日の24:00分になった。
『日付が変わります。6時間のセーフティータイムが発動しました。この期間、侵入者はダンジョンに入ることが出来ません』
とつぜん聞こえて来たアナウンスに首がビクッと揺れた。6時間のセーフティーモードだと?そんなルールまであるのか。となるとこの時間だけは気を張らずにゆったりできるか…まぁネットもゲームもないこの部屋では固い椅子に座るぐらいしかないがな。
俺は無意識にダンジョン画面を見た。ダンジョンポイントの残高は昨日からマイナス174Pの22402Pとなっていた。やはりオブジェクトを日付が変わる前に仕舞っておけば維持費を節約できるのか。
これは良いことを知れた。俺はそう思いながらクエスト欄を開いた。ダンジョンクエストを見るとあらかたクリアしていたが、”モンスターを造ってみよう”と”ボスモンスターを指定しよう”に”ボスモンスターを操作してみよう”の三つのクエストがまだ残っていた。
このクエストの内容的に、作り出したモンスターのうち、ボスモンスターに指定した個体はダンジョンコアである俺が操作できるのだろう。
これがあればこの小さな部屋からしか出れない俺も多少の気分転換にはなるだろうか。
俺はまだ一体もモンスターを創造していない。ダンジョンクエストをすべてクリアしたらどうなるかも知りたいし、6時間も暇が出来てしまったからな。眠たくなるまでモンスターを操作して遊ぶのもありだ。
俺はモンスター欄を開いた。モンスターの種類はトラップ特化のデバフによって一系統一種類しかない。それも一番最初にある弱いモンスターだけだ。
まあ弱いと言ってもあくまでも、最後の方にある高ポイント消費モンスターを比べたらであるけどな。筋肉ゴリゴリのボディービルダーや朝〇龍クラスのバケモノはともかく、一般の生身の人間なら大半はかんたんに殺せると思う性能をしている。
俺が作れるモンスターの想像ポイントは"???系統"を除いてどれも200P。ちなみに???系統は最低でも10万P必要だ。俺が作れる一番最弱種で他の系統の最上位種とおなじステータスを有している。
俺は各系統のモンスターを見ながら考えをまとめていく。まず洞窟エリアの設置可能モンスターはスライム系、ビースト系、虫系、水系、エレメント系、アンデット系、悪魔系、ドラゴン系、???系になっている。
環境ボーナスは"暗闇"とスライム系、ビースト系(ゴブリン種)のステータス+5だ。
環境ボーナスの恩恵や、扱いやすさで言えばビースト系統から選べる人形のゴブリンだ。身長は130センチメートルと小柄だがかなりの筋肉質。実際に俺が作れるモンスターの中では筋力はトップクラスになっている。ただ人形はとうぜん人間相手に動きは読まれやすい。あとゴブリンのスキルに"強靭"というものがあるが、これは出血ダメージを抑えるものらしい。だが所詮はなんの変哲のない肉体に過ぎない。銃弾を眉間に撃ち込まれたら即死だろう。
目先の脅威は銃火器を扱える自衛隊。自衛隊の武器を想定したモンスターの方がいい。
となるとエレメント系かアンデット系、もしくはドラゴン系だ。この系統はどれも体力や頑丈がつよい耐久性だ。それにスキルも魅力的に思える。
例えばエレメント系の"ドロヌーマ"は"物理耐性3"と"炎半減"を持っている。対銃火器にはもってこいだろう。
アンデット系のゾンビは動きが遅くなるかわりに体力が増える"アンカー"と、出血ダメージを減少させる"強靭"をもっている。これも弾数が限られている自衛隊に対して持久戦に使えるかもしれない。
ドラゴン系のコモ・ドラゴンは物理と熱に強くなる"竜の鱗"と回復ポーション以外では治癒できない毒を有する"毒牙"をもっている。
まぁ残された三つのダンジョンクエストをクリアすれば3000Pが手に入るので、???系統以外の9種類ヲ一体ずつ作成しても1200Pのお釣りにはなる。だがどうせ作るなら無駄なポイントは消費したくないし、そんな多くのモンスターを扱い切れる自信もない。
とりあえずはエレメント系のドロヌーバにしよう。
『ダンジョンクエスト" モンスターを造ってみよう"をクリアしました。ダンジョンポイント1000Pを獲得しました…ダンジョンクエスト" ボスモンスターを指定しよう"をクリアしました。ダンジョンポイント1000Pを獲得しました』
ドロヌーマを作成し、ダンジョンコアが鎮座する小部屋の前にある大部屋に配置した。そしてドロヌーマを長押しすると"ボスモンスターの指定"タブが出てきたので早速押してみる。
その瞬間、視界が反転した。俺は気づいたら鍾乳石の大部屋に居た。立っているはずなのに視界がかなり低い。下を見ると最初モンスター画面で見た通り、ドロヌーマは上半身だけが地面から生えていた。
足の感覚がない。これどうやって歩くんだ?そう思って試しに体を左右に揺らしながら前に進もうとするとスムーズに進むことができた。
しかし前に進もうとしたのに、体が向かった先は体から少し左にズレていた。もしかして自分の視点の先に動くなのだろうか。
俺は試しに限界まで右を見つめなが体を揺らして進んでいく。するとやはり体は右にカーブしながら進んでいった。
面白いな。このドロヌーマだけの仕様なのかは分からないが、なんかゲームのキャラクターを操作しているみたいだ。
慣れれば人形よりも上手く扱えるかもしれない。