第二話
ある邸宅で行われているガーデンパーティーではところどころにガゼボが設置され,参加者がゆったりと飲食や会話が楽しめるようになっている。イギリス風庭園に合わせたテーブルやイスにクロス,そして随所に色鮮やかな花々が飾られ,季節は秋に向かっているというこの時期でも何も寂しさを感じさせない。
そんな空間に見目麗しい若い男女が二人…。
「まあ、あの時兄を呼んできてくださったのは桂木様でしたの?」
「ええ、玲さんには怖い思いをさせてしまって…僕がもっと早く気づいていれば」
とその向かいの席に洒落たチーズのピンチョスと格闘する四葉が一人。
どうも一口で入りきらなそうだったので,どこから食べればいいのか勘案している。
「いいえ、あのような場が不慣れで…初めにしっかりとお断りできなかった私がいけなかったんです。そうすれば四葉ちゃんにケガをさせることもなかったのに」
「そうだ、君、あの時のケガはもう大丈夫?」
おっとこちらに話の矛先が向いたようだと四葉は口の中の食べ物を慌てて飲み込んだ。
「…っ、はい、おかえさまで」ので,言葉を噛んでしまった。
「ふふっ、タイミングが悪かったね。どうぞ」
美形の男子は優しく微笑んでドリンクを渡してくれる。
「ありがとうございます…」
子供のすることのようでバツが悪く,四葉は少し赤面してしまった。
この美形の男子は桂木 慧人というらしい。玲とは顔見知りのようだったが,四葉には先ほど名刺を渡してくれた。
そこには「Kホテルグループ」という世間知らずの四葉でも耳にしたことのある社名が印字されていて,美形でおそらく御曹司…漫画の世界のようだと四葉は思った。
そもそも四葉は桂木だけでなく,藤堂製薬の令嬢である玲とも本来なら知り合えるような立場の人間ではない。
先月,別の主催者によるパーティーで,玲が酔っ払いに絡まれていたのを四葉が助けに入ったという出来事があった。そして偶然居合わせた今日のパーティーで声を掛けてもらったのだ。
「あの時はとても驚いたよ…まさか螺旋階段から落ちてくるなんて」
その時のことを思いだしたのか,桂木は少し呆れた顔で四葉を見た。
そう,酔っ払いの男性に絡まれて薄暗い庭に(ホテルの結婚式場を借りた夜のパーティーで,ガーデンスペースもあった)引っ張られていく玲を発見した四葉は,上のテラスから降りる螺旋階段から玲たちの目の前に転がり落ち,周囲の注目を集め玲子を助けたのだった。
「そうなんです!私ももうびっくりして…しかもどうしてそんな危ないやり方でって聞いたらこの子なんて言ったと思います?」
「体育の柔道で受け身が上手いって先生に言われたから、なんて!」
少し秋めいてきた空に桂木の笑い声が響いた。