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八百万の目

作者: セイタ

「ここが私たち新しい家ね」

若い女性は嬉しそうに男性に話しかける。

「庭も広いしな」

 男性がそういうと女性はニマりと笑い家の中へと入っていった。

それからというもの話し声だの笑い声だの退屈のない日々が続いた。


 三つ春が来たある朝子供の泣き声が聞こえて来た。それからというもの家の中からは泣き声だの怒鳴り声だの笑い声だのさらに明るくなった。


 ランドセルを背負った小さい少女は私の足元でボール遊びをしている。


 暑い夏に日は家族そろってバーベキュー。立ち上る煙が臭いったらありゃしない。


 綺麗な制服で身を包んだ少女は家族で私の足元で写真を撮っている。


 ある時には家の中から怒鳴り声が聞こえた。しばらくすると玄関から走り出す少女の背中を見た。


 少女はいつの間にか女性へとなりその家から出てってしまった。


「さみしくなるな」

おじさんが私の足元に背を持たれながらそう言いだした。

「・・・えぇ」

消えそうな声でそうおばあさんは答えた。


 今までの騒がしい日々が嘘だったように静かになる。

ある夜、サイレンのうるさい車が家に来た。

何人もの大人たちがおばあさんを担架に乗せていった。

つぎの日、懐かし顔をした女性が家に入っていくのを見た。


 全身を黒い服で身を包み多くの人が泣きながら家に入っていく。

中にはあの女性も。


 おじいさんがしばらく家にいたが間もなく黒い服の人々が多く家に入っていった。


 女性は私の足元に腰を掛ける。

「・・・」

何も話さず静かに黄昏る。

家の中から男の子が顔を出した。

無表情だった女性の目に光が戻っていくのを見ていた。


 それからというもの女性と男の子がこの家に住み着くことになった。

また騒がしい日常を見ることになった。


 ある日、家中が赤く熱い炎で包まれる。鳴り響くサイレンが近くに近づく。銀色の鎧のような恰好の人たちが家に水を掛ける。

一年後には新しい家が建った。

庭が縮まったように感じ窮屈だった。


少年はランドセルを捨ていつの間にかスクールバッグを背負っている。いつの間にか制服を捨てスーツを着るようになり、家から出て行った。


 女性はもうおばあさんになっていた。また静かな日常へと変わっていく。

「・・・」

静かな日々に終止符が打たれる。また黒ずくめの人々が家に入っていくのだ。

少年は男性へとなり頬には涙が流れ落ちていた。


 男性は私の足元で庭ではしゃぐ男の子を見つめている。男性は男の子が遊ぶのが少し窮屈なのではないかと感じているようだった。

中から女性が出てきて、男性のもとへと近づいてきた。

男性は私の足にそっと触れながらささやく。

「この『木』伐採するか...」


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