スキル無双 〜経験値を稼ぎたい奴らが今日も俺を殺しに来る〜
「お兄ちゃん朝だよー、起きてー」
ドンドンドン。
廊下にいる妹が俺の部屋のドアを叩いている。
ここは田舎町にある一軒家。
その二階の部屋のベッドで朝に弱い俺はまだ布団に潜って時間を潰していた。
ドンドンドンドン。
俺が返事をしないでいると、妹はしつこくドアを叩いてくる。
「早くしないとお味噌汁が冷めちゃうよー。一緒に朝ごはん食べよー、お兄ちゃーん」
ドンドンドン。
さらに妹がドアをノックする。
(冷蔵庫の味噌は確かもう切らしてたはずだよな……)
そう思った俺は布団から起き上がり徐にドアを一瞥したあと、部屋の隅っこにある勉強机へ向かった。
「妹か。お兄ちゃんは起きてるぞ。意識はもうハッキリしてる」
「じゃあここ開けてー。何で鍵かけたままなのー? 中入れてよー」
「なあ妹。一つ質問していいか」
「なあにー? お兄ちゃーん?」
「俺に妹はいないはずだが、お前は一体誰なんだ?」
その言葉を放った直後、ドアを叩く音は止まった。
「……」
妹と名乗る人物は沈黙する。さっきまでの可愛らしいモーニングコールはもうしてこなくなった。
俺は予め台所から持ち出していたキッチンナイフを机の引き出しから取り出し、右手でそれを握りしめてドア側への警戒度を上げる。
すると案の定、ドアの向こうの廊下からヴィーン! ヴィーン! と機械音が聞こえてくる。
あの音はまさか……。
俺は危険を察知し、ドアを注視しながら部屋の奥へ少し後退する。次の瞬間、ドアがいきなりガリガリと削られていく。
それはチェーンソーだった。
ぶっとい丸太が倒れそうな大型のチェーンソーだ。
その回転した刃が俺の部屋のドアを貫通し、そのまま真横になぞられていき、ドアを真っ二つにした。
ガラガラと崩れ落ちたドアの先には、廊下でチェーンソーを持って立つワンピース姿のお下げの小柄な少女がいた。
少女の顔は誰かの返り血でも浴びたのか、血で真っ赤に染まっていた。
「よく私が妹じゃないって見抜いたわね。あんたに『幻惑』の効果を与えて妹がいると錯覚させたのに」
少女は忌々しそうに俺を睨みつけている。
「残念だな。俺は『索敵』スキルを覚えてるんだ。敵性反応が出てるお前の赤いシルエットがドアを透けて部屋の中から見えてたからな。最初からお前は警戒してたさ」
「ふーん。そんなの持ってるんだ。みんな騙し討ちで殺しまくってきたけど、あんたには通用しなかったか」
「そうか。みんな可愛い妹だと信じながら殺されていったのか。可哀想に」
「ふ。騙される方が悪いの。この世界で生き残りたけりゃ、まず他人を信じないことね。それが鉄則よ」
「まあそうだな。その意見には同意する」
「ちなみに聞いておきたいんだけど、あんたレベルは?」
「俺か? まだ1だ」
「じゃあ持ってるのは初期スキルか。てことはあんた、まだそのスキル一つしかないってわけね?」
「まあレベル一つにつき、一つのスキルが与えられるからそうなるわな」
「ならいいわ。殺すには問題ないスキルだから」
ヴィーン! ヴィーン!
少女は再びチェーンソーを回転させると、
「きえええぇぇぇぇぇッ!」
絶叫しながら俺に斬りかかってきた。
「はッ!」
俺はナイフを持っていない方の左手を瞬時に少女にかざし、衝撃波スキル『突風』を発動する。
「ぐふッ⁉」
意表を突かれた少女は抵抗する暇も与えられずに後ろへ吹き飛ばされ、廊下へ仰向けになって転がった。
衝撃波で脳震盪を起こしたのか、頭をふらつかせながら倒れてる少女は俺を睨みつける。
「な、何でそんな技を……! レベル1ならまだ持てるスキルは一つしかないはず……! レベル5のあたしならあんたなんかに負けるはずが……!」
「悪いな。俺は本当はレベル9999なんだ。まだあと一万近くスキルを隠し持っている」
「い、一万ッ⁉ あ、あんたそんな化け物だったの⁉ だ、騙したわね……!」
「騙される方が悪い。それにこの世界じゃ他人を信じてはいけない、そうだろ?」
俺はナイフスキル『影落突』を発動。残像を残しながら瞬速で少女の真上へ移動し、空中でピタリと身体を停止させる。そして右手のキッチンナイフを握りながら倒れている少女に垂直落下する。
グサッ!
トドメの一撃を少女の胸に突き立てた。
心臓深くに刃渡り20センチのナイフが貫通。少女は口から血を吐き出したあと、力なく首を横に垂らし息絶えた。
人形のように動かなくなった少女は体を溶かしていき、床に消えてしまった。
二階の廊下には、少女の血溜まりだけが残った。
ここはプレイヤー同士が仮想空間の田舎町で生き残りをかけて殺し合う大人気オンラインゲーム「ぼくの田舎暮らし 〜サバイバルエディション〜」の世界。
俺はこの世界でもう十年以上もプレイヤーを狩りながら暮らしている。
そんな生活を送っている俺は、いつの間にか最強の力を手にするまでに至ってしまったのだ。
俺は再びベッドで眠ることにする。
次に来るプレイヤーを殺すのを楽しみにしながら。
完