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ラスボスに転生した大魔法士が、導く未来  作者: 桜月すず
第一章
9/10

8 弟子の噂話



「せっかく図書室まで行ったのに……」



はぁ、とついため息を吐いてしまう。



 部屋まで駆け戻ってきてソファに落ち着いた私は、目の前のテーブルに置かれた本を見つめていた。

 パーノトキア国について書かれているであろう本を見つけて手にまで取ったのに、置いてきてしまうなんてショックすぎるけれど、また暗闇の中を歩いて取りに行く気持ちにもなれなかった。


 代わりに無意識のうちに手にしたまま持って帰ってきてしまった一冊の本を読もうかなと手を伸ばしかけたとこで、そういえばこの珍しい文字の本を読むのは久しぶりかもしれないと思う。なぜならあまり見かけることがないはずの古代語で書かれているのだ。


 前世も今世も変わらず、日常的に使われているのは一般語というこの大陸の共通語である。

 古代語とは一般語が普及する遥か昔に使われていた言語を示すもので、どれぐらい前まで使われていたのかは定かではないらしい。

 魔法に関する資料は古代語で記されていることが多々あったので、どうしても読みたかった私は独学で覚えることにした。まだまだ完璧ではないけれど、ある程度読めるようになった自信はある。

 わさわざ、日常的に使うことがない古代語を覚えようとする変わり者は私ぐらいだったのかもしれない。そもそも魔力持ちが少ないので、魔法に関する資料を読もうとする人自体が少なかった。

 そんな中、あらゆる時代の解読者達の資料をかき集めてまで覚えようとした私は、本当に魔法に関しては手を抜かないなと自分で思う。



 それにしても大層なタイトルをつける作者もいたものね。

「ふふっ、懐かしいことを思い出したわ」



それは、前世のある日のこと。









◇◇◇








「だーんちょーう!団長!じゃじゃーんっ」



 魔法士団のローブを羽織り、赤毛の子犬のような男性団員が大声で呼びかけ、こちらに走ってきた。肩にかかるぐらいの髪を後ろで1つに結んでいて走ると左右に揺れるのだけれど、それが子犬の尻尾のようだといつも思う。呼びかけられて足を止めた私の目の前まで来たかと思うと、何かを私の顔の前に掲げた。



「近すぎて見えないわ、もう本当にこの子は」と首を後ろに反らしつつ、声には出さずに呆れてしまうのは仕方がないのではないだろうか。



「ブラン、近すぎて見えていない」

 後ろから一緒に来ていた、同じローブを羽織った男性団員がブランと呼ばれた団員の肩を掴み後ろに引っ張った。

 このよく言えば落ち着いていて悪く言えば無愛想な、ストレートの黒髪を耳の上で綺麗に切り揃え、深い海の底のような瞳をしている背の高い方は、副団長のオルだ。



「ごめん、団長!これ見て!」

「今度は何を持ってきてくれたの?」



 ブランは時々魔法に関係するものを発見すると、魔法が大好きな私に見せてくれようと持ってきてくれることがあるため少しワクワクしながら、距離をとって掲げ直してくれたものを改めて見た。



「うーん?ノートかしら?」

 私の目にはただのノートにしか見えなかったけど、ブランが持って来てくれたということは魔法関連だと予想をして、いつものように説明が入るかなと話の続きを待つことにする。



「………」

「えぇと、予言本?」



 キラキラした栗色の瞳を向けてきて、言葉なくノートにおそらく手書きだと思われる文字に人差し指を当てて見せてくれた。



「………」

「これは魔法のノートなのかしら?」

 

 ずっとキラキラした瞳を向けて来てはいるものの全く説明が入らないので困った私は隣にいるオルに、代わりに説明してくれないかしらとチラッと視線を送った。



「いえ、これはただのノートです」

 相変わらず説明不足だわ、と思いはしたが持って来てくれたのはブランなので本人に確認しようと赤髪の団員に再度尋ねることにする。



「このノートは魔法のノートなのかしら?」

「これは僕が手書きで書いた《予言本》です!過去に《予言本》というものが存在し、その本に導かれた発見者は誰よりも幸せに暮らした、という話を聞いたので僕が作ってみたした!探そうと思ったのですが、本当に存在するかもこの時代にあるのかも怪しくて…。でも、団長にはこの世界の誰よりも幸せになってもらいたいので作ることにしました!!」



 そこで自分で作ろうと思うことがなんとも彼らしい。でも未来を示してくれるなんて神の力にも匹敵しそうなものを作ることができるのかしら、と疑問に思ったため掲げらてているノートをじっと観察するが残念ながら普通のノートに文字を書いているようにしか見えなかった。


 眉をたらし困っている私に気が付いたオルが右肘でブランを突いて、その表情からはだから言っただろうと呆れている心の声が聞こえてくる気がする。


 突かれたことで私の表情に気がついたのか、慌てて説明の続きを始めた。



「作ろうと思ったんだけど僕には未来を見る能力もないし、魔法道具として作るのも難しくて……でも師匠には幸せになって貰いたいから!」



 ノートをパラパラめくりながら、そう言う彼は団長ではなく出会った当初の呼び方で師匠と呼んでしまっている。そもそも彼が作成できないのであれば、他の誰も無理なのではないどろうか。もし本当に存在するとしたら、神の落とし物に違いない。


 魔法の能力と魔法道具を作成する能力は全くの別物で、魔法道具を作成する能力がずば抜けていて右に出る者がいない彼でも、未来が分かる魔法道具なんて作ることはできないだろうと思う。



 目的のページに辿り着いたのか、また顔の前にノートを両手で広げて掲げてくれる。今度はちゃんと見える距離だ。


その終わりの方のページには、







『そして幸せに暮らしました。』







 と古代語で書かれていた。小さい子が読む童話のハッピーエンドの終わり方のようだったので、ふふっと笑ってしまった。

 古代語を私は独学で覚えたので、弟子達に教えていたのだけれど、弟子の中で意外にも一番要領がいいブラン以外はある程度読めはするものの、書くことまでできる人はいなかった。



「ふふ、予言本に記されていれば私の未来は幸せね!」

「はい!古代語で書いたので確実です!」



 古代語で書くと言うことで特に何か特殊な力があると言う訳ではないけれど、魔法に関する資料が古代語で書かれていることや、昔ブランへお守りを渡した際に古代語で書いていたので、願いが叶うという意味で書いてくれたのかもしれない。


 自分の弟子ながらなんていい子なのかしらと、嬉しくて顔が緩みながら私と身長があまり変わらない目の前のかわいい子犬のような子の頭を撫でる。

 年齢はそんなに変わらないのだけれど、仕草や行動からそれよりも下に見えてしまうので、可愛くて頭を撫でることが癖になってしまっていた。

 本人はむうっと口を尖らすが避けようとしないので、照れているだけだと勝手に解釈しておくとこにしている。



「これは貰ってもいいのかしら?」

「もちろんです!」




大切な宝物がまた一つ増えた日の出来事である。


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