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ラスボスに転生した大魔法士が、導く未来  作者: 桜月すず
第一章
3/10

2 これから


「し、失礼します!」


 足音が聞こえ、ノックの後に入室の許可を貰う声に、一言返すとドアが外から開いた。

 レオーニが部屋から出て行ってから数分しか経っていないのに早い。少し息が上がっているので急いで来てくれたらしい。


 手には水差しを持っているので、どこかに向かう途中で呼び出してしまったのかしら。


「どこかに持っていく途中だった?」

「い、いえ、目が覚めた時に喉が渇いているかと思いまして…」


 どうやら私の部屋に、持ってきてくれようとしていたらしい。一度、目を覚ました時も桶とタオルを持っていたのが見えたから、もしかすると体を拭いてくれようとしていたのかもしれない。

 

 今までとても酷い扱いをしていたのに、わたしのことを考えて行動をしてくれていたのが純粋に嬉しくて、「ありがとう」とお礼が口からすぐに溢れた。

 他の使用人は、私の事を避けているだろうことにも既に気が付いているので、それでも側にいてくれたエナには感謝しかない。こんな人が近くにいることは、貴重であると知っているから。


 自然と溢れた言葉に、目を丸くし固まってしまった。思い返せばエナに対して、というよりも使用人に対してお礼の言葉を言ったことがあっただろうか。今世の記憶を辿ってみるけれど、全く思い出せないということは無かったのだろうと思う。

 前世の記憶思い出すと前で、精神年齢が普通の子供だったとしても物心がついている年齢なのに、と今までの自分に呆れてしまう。

 

 これからは今まで言ってなかった分も、言葉や行動で示して行く!と両手を握り、心の中で固く決意をする。

 このまま使用人達に避けられたままでいるのは、やっぱり嫌だ。子供時代は特に屋敷で過ごすことが多いというのに、周りに信頼されていないまま過ごす事を考えたら辛すぎる。



「入浴の準備をお願いできる?」

「!かしこまりました!」


 まだ固まったままのエナに、苦笑いになってしまいつつ、お願いするべく声をかける。

 ハッとして意識がこちらに戻ってきた後に、急いで用意を始めてくれた。


 本当に前世を思い出す前は酷かったわね、エナがお礼を言われただけでびっくりしていることから考えても、相当だろうと思う。

 そんなことを考えながら待っていると、入浴の準備ができたと、知らせに戻ってきてくれたので、もう一度ありがとうと伝えたのだった。




 高級そうな四つ足のバスタブで、暖かいちょうど良い温度のお湯に浸かりながらこれからのことを考える。二人分の記憶はあるが、人格は長く生きた方の前世が強い。むしろ幼い令嬢の性格最悪な人格は、ほぼ無いのではないかと思う。


 ふと、一人になり落ち着いてみると本当に不思議に思うことが多い。そもそも転生しているこの状況をどうやってとか、どうしてとか考えても分かるはずがないのだけれど。


 でも、私であることには変わりないことは確かね。うん、前世で大好きだった魔法を極めよう!お父様も家にあまり帰ってこないし、好きなことを好きなだけやっても大丈夫なはずだわ!


 前世を思い出したものの、リリーアの記憶も持っていので屋敷での生活には困らないと思う。


 あとは、可愛い弟と仲良くなりたいわね!一ヶ月ほど前から、時々誰かに見られているような視線を感じることがあった。レオーニが公爵邸に養子として来た時期と同じなので、おそらく彼だと思う。一回視線を感じた方に振り向いて見たら、慌てた様子で駆けていくレオーニの姿が見えたこともあったのだ。


 今まではなぜ見られているのか分からなかったけれど、精神年齢が成人している今の私の考えだと、レオーニは寂しかったのではないだろうか。

 

 そうよね、家族から引き離させてしまったんだもの。レオーニがどこの家から来たのかも全く知らないが、四才の子供が実の親と離れて暮らさなくてはいけないのだから、寂しいに違いない。



そして______




リリーア自身も、とても寂しかったのだ。




 前世を思い出した、今だからこそわかる。幼かったリリーアは、この感情が何かも理解はできていなかったけれど。そして周りにいる大人達に、行き場のない感情をぶつけていたのだ。

 子供の性格の善し悪しは、家庭環境が大きな要因になることがあると、どこかで聞いたことがあるけれど、本当にそうなのかもしれない。


 母親は物心つく前に病気になり、ここ王都のシルビー公爵邸からかなり離れたところにある別荘で療養をしている。まだ病気が発症してはいなかった頃、公爵家では珍しく母が自ら育てたいと希望したことにより、乳母はいなかった。


 そして、父は理由は知らないが公爵邸にいることが少なかった。最愛の妻が病気に罹り別荘へ行き家に帰っても母がいない為か、仕事が忙しくなってしまったからなのか、その他の理由があるのかは分からない。

 たまにリリーアと一緒に食事をすることがあっても親子のような会話はなく一言二言話すだけだったのだ。

 もう少し小さい頃は、抱っこをせがんだり、話を聞いて欲しくて一生懸命話しかけていた時期もあったけれど、親子らしい反応を返して貰った記憶がない。

 そんな父の様子から、愛されてはいないのだろうと思っているリリーアも自分から話しかけようとはしなかった。というよりも、冷たい反応を返されるのが怖くて話しかけられなくなってしまったのよね。


 父も母も不在の家で、乳母もいないとなれば愛情を注いでくれる人はいない。使用人はあくまで雇い主と主人なのだから。

 乳母をたてず、自分で育てようと愛情を注いでくれた母がいたけれど、物心つく前なので幼かったリリーアは覚えていない。

 メイドが交代で面倒を見てくれていたが、成長と共に我儘になっていく子供に主人といえど、愛情をもって接しようとは思えなかったのだろう。

 そこで叱ったり注意をしたりする大人が近くに誰かいれば違ったのだろうけれど、メイドにそのようなことはできない。我儘が激しくなっていくリリーアに、距離を置いた態度をとってしまっていた。


 そんなふうに愛情を感じず、日々を過ごしていて寂しさを感じない子供がいるだろうか。

 胸に穴が空いたような気持ちになり、俯き両手を胸の前でぎゅっと握ってしまう。

 この気持ちはやっぱり寂しさだ。5歳はまだまだ子供で甘えたい年頃だがその気持ちの行き場がなかった。そのため感情のコントロールができず、かまってもらいたい気持ちもあり我儘という形で出していたが、公爵家という環境から周りの対応も難しかったため、過度の我儘ぶりを発揮するだけで使用人達も離れていってしまったのだと思う。


 ふぅ、と長い息を吐き出し上を向いた。この寂しさはすぐに埋まることはないだろう。

 よくよく考えて見ると、お父様が悪い気がするのよね。お母様が療養に行くことになったのなら新しく乳母や専属のメイドをつけてくれたらよかったのだ。近くに寄り添ってくれる大人が1人でもいるだけで、親からの愛は感じずとも全く違かっただろう。

 お父様は口数が少ない上に、あまり表情にでないため何を考えているのか本当にわからない。今さら恨んでも仕方がないので過去は振り返らないことにして、屋敷に必ずいる家族の、弟のことを考える。すると空いた心の隙間が少し埋まる気がした。


 でも、この寂しさをレオーニが感じることがないようにしなきゃ。

 それにしても可愛かったなぁ、とさっき会った弟を思い浮かべる。なんであんな可愛い弟を無視していたのか。絶対仲良くなる!そしてお姉様と呼んでもらう!

 自然と表情が緩みながら、どうやって仲良くなろうか考えつつ、それに…レオーニに対して確認しないといけないことがある。


 使用人からの信頼を得る事、魔法を極める事、弟と仲良くなることを決意し、汗を流しスッキリしたところで、室内用の動きやすいドレスに着替えた。いつもならメイドに着替えさせてもらうが、全て1人で済ませる。逆に精神年齢が大人になったことにより、着替えさせてもらうのは恥ずかしい。貴族だと大人になっても全部メイドにやってもらう人もいるらしいけど、それは人によるらしい。

 着替えた後浴室のドアの前で、おそらく呼ばれるのを待っていたエナに声を掛ける。


「図書室に行ってくるわね」



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