表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラスボスに転生した大魔法士が、導く未来  作者: 桜月すず
第一章
2/10

1 思い出した記憶


ズキッ


うぅ、痛い……

ここはどこだろう?


 強い頭痛に額を片手で抑えながら、目が覚めた私は周りを見渡した。全く見覚えがない空間が広がっている。おそらく、このふわふわな感覚はベッドの上みたいね。白い清潔で高級そうなシーツに包まれているので、今まで寝ていたらしい。


 今はお昼頃なのか、大きな窓のカーテンの隙間から眩しい光が差し込んでいて、高級そうな家具を輝かせていた。


「え……」


 段々と頭痛が治まってきたので、額に当てた手を下ろしたら視界に入ってきた手に目を見開き、数秒の間固まってしまった。


 いつも当たり前のように見ていた手の大きさじゃない。慌ててバタバタッと足音を立てながらベッドから降り、先程視界に入っていた、大きな鏡のドレッサーの前に駆け込んだ。


「っ?!えぇぇ、なな、なんで?!」


 銀色に少し青みがかったサラサラストレートの長い髪に、スカイブルーの宝石のようなキラキラした大きな瞳の美少女が鏡に写っていた。


__コンッコンッ


「リリーアお嬢様!お目覚めですか?!」


 ガチャと音を立てて、窓とは反対側にある扉が開いた。

 髪を左右で二つに編んでいる茶色の髪に、髪と同じ色の瞳をもつメイド服を着た女の子が、ドアをノックする音の後に部屋に入ってきたのを、丸い目のまま視線を合わせる。手には水が入っている桶と、そこにタオルが掛かっている。


 ズキッ、声が聞こえた後また頭痛がしたと思ったら、体が重くなり意識が保っていられず、その場に倒れてしまった。

完全に意識を失う前に、メイド服の女の子がとても慌てた様子で駆け寄ってくるのが薄ら見えた。




 夢を見ているのだろうか。

 初めはぼんやりと、そして段々と鮮明に、記憶が合わさっていくのを感じる。


これは___


二人分の記憶だ。


 私は大魔法士だ。だったというのが正しいのかもしれない。幼い頃から魔力の量がずば抜けていて才能もあったこともあり、大魔法士の称号をもらうまで時間は掛からなかった。成人になる前に、自ら立ち上げた魔法士団の団長になった程である。団員達にも慕われていたと思う。


 白銀のストレートの髪を靡かせ、前髪は目の上で切り揃えされていて、白い布地に青と金の綺麗な刺繍が入った、団員達が作ってくれた、団長専用だというローブを羽織った姿が、よく鏡越しに見慣れた姿だ。


 そうそう、成人になる誕生日を迎えて団員達にお祝いをしてもらったわよね!


 そして、先程ドレッサーの鏡で自分の姿を見た時は全くわからなかった記憶も思い出してきた。

 記憶が混濁しており、一時的に忘れてしまっていたみたいね。確か、今は五才だ。名前はリリーア・シルビー。シルビー公爵家の長女だ。


 うわぁ、子供にしても性格が最悪ね、と大魔法士の記憶を思い出した私は思った。前世で過ごした時間の方が長い為、リリーアの記憶はどこか他人を見ているように感じてしまっているようだ。


 思い出した記憶の中でわたしは、我儘すぎる子供だった。好き嫌いが激しかったリリーアは、嫌いな食べ物が出てきた時には料理人を呼び出し頭から食べ物を被せ、庭園の花壇に萎れた花を見つけると、こんなの私に相応しくない!と花壇を足で踏み荒らし、何か気に食わないことがあるとすれ違った使用人に暴言を浴びせ跪かせていた。


 中でも一番酷い扱いを受けていたのは、茶髪に茶色の瞳のメイドのエナである。先程、部屋に訪れたのはエナだ。

 半年前、道で膝を抱えて座っているエナを馬車の中から見つけ、何を思ったのか屋敷に連れて帰ってきた。もちろん、あの頃のリリーアは身なりが汚いものと同じ馬車に乗ることは許さなかったので後から歩きで来させた。その後、お父様に言って屋敷のメイドにしてもらったのだ。

 十五才でこの屋敷にきたが、屋敷に来たばかりのころは実年齢からニ、三才下に見えたほどに小柄だった。今も半年前よりはマシになったものの、それでもまだ十五才には見えない。


 紅茶が少しでもぬるければカップごと投げつけ、ヘアセットで櫛に髪が引っかかれば雨の中外に立たせ、少しでも失敗すれば食事抜きにしていた。本当に言い切れないぐらい酷いことをしている。カップを投げたときにはアザにもなってたはずだ。

 誰もお世話をやりたがらなかったため、孤児で拾われた身の立場の低いエナに、ほとんどの世話係を押し付けられていたのだろう。公爵家の長女なのにメイドや次女の専属も付いていないのは、そういった理由もあったのかもしれない。


 よく半年も側にいてくれたわよね。

 我儘すぎるのに貴族の、それも自分が働いている屋敷のお嬢様だと誰も注意しないのか…


 とりあえず、大魔法士の時の記憶はあるけど、この我儘お嬢様が今の私ってことよね。

 ということは前世が大魔法士で公爵令嬢として生まれ変わり、記憶が戻ろうとした時に頭に負荷がかかってしまい倒れてしまったみたいだわ。


 前世の記憶があるということは、一度死んでしまったんだろう。うーん、でもなんで死んでしまったのかは思い出せない。

 一番新しいと思われる記憶は、団員達に成人になる誕生日をお祝いしてもらったことである。それ以降の記憶は霧がかかっているみたいに全く思い出せなかった。


 どういう訳で転生したのかはわからないが記憶が戻ったことはありがたく思う。転生なんて大魔法士の称号を貰った前世の私でも自分でやろうと思って出来ることではない。おとぎ話や伝説の中の話だ。


 二人分の記憶を思い出したところで、ふっと意識が戻るのがわかった。




 目を覚ますと、頭痛は全くなくむしろ頭がすっきりしていた。


 上半身を起こすと、右手が重いことに気がついた。視線を移すとわたしより小さな手が重なっていて、手の先を視線で辿ると、綺麗で艶のある黒髪が視界に入った。


(弟もいたんだった…)


 ベッドの脇に椅子を持ってきて、腕を伸ばして私の手に重ねられていた。


 一ヶ月前、父のディアス・シルビーが連れてきた四才の弟。リリーアとは一才違いで、血は繋がっていない養子だ。シルビー公爵家には長女のリリーアしか子供がいないため、後継ぎにと幼い頃から教育するため養子として連れてこられたらしい。

 誰も教えてくれなかったから、メイド達の噂話で聞いたんだけどね。お父様も連れて来て、弟になるレオーニだってしか言わないから。ほとんど家に帰ってこないし。


 動いてしまったからか、ゆっくりと弟のレオーニが目を開けた。タレ目ぎみの若い木の葉のようなリーフグリーンの大きい瞳と目が合った瞬間にびくっと反応し、重ねられていた手を胸の前に引いた。どうやらわたしが目を覚ます前に、部屋から出ていくつもりだったらしい。席を立とうか迷っているらしく目を泳がせておろおろしている。


 レオーニに対しては向こうから近づいてこないということもあったが、リリーアも無視をしていた。たまたま廊下ですれ違っても見えていないかのように全くの無視である。廊下を歩いていると角や柱の影から視線を感じることはあったけれど。

 だからこんなにも近くにいるのは、わたしの方も驚きが大きかった。


 でも、驚いた姿やその後の潤んだ目での上目遣いでこちらの反応を探っているところが、大魔法士の記憶を思い出した今、とても可愛く見えてしまう。だって、精神年齢は成人している大人だもの。

 無意識のうちに手が伸びて、小さな頭を撫でてしまった。気づいた時には手が頭に乗っていたので、まあいいかと思い今までの距離感を気にせず撫で続けた。レオーニは丸い目をしてるけど。


「どれぐらい寝てたかわかる?」


「……目を覚ましてから半日ぐらいだと思います」


 カーテンの隙間から差し込んでいた眩しい光はオレンジ色に変わっていたため、今は夕方ぐらいかなと予想をする。


 意識がはっきりしてきたことにより、体がベタベタして気持ち悪く感じてきた。寝ている間に大量に汗をかいてしまっていたらしい。

 うぅ、お風呂に入りたい。


「エナを呼んできてもらってもいい?」


 いつも入浴の準備をしてくれていたエナを呼んで来てもらうようにお願いすると、コクンッと頷きで答えてくれ、部屋から出ていった。きっと呼んで来てくれるだろう、四才にしてはしっかりしている。


ドアが再びノックされるまで、そう時間は掛からなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ