エピローグ
こちらで最終話となります。
最後までお読みいただきましてありがとうございました!
人里離れた山の麓の家から甘い香りが漂って来る。
今日のおやつはカップケーキだ。エヴィはバターを混ぜ、小さな型に生地を流し入れる係をした。
依然大半を作るのは魔人であるが、少しずつかき混ぜる姿もマシになって来たと本人は思っている。
庭なのか畑なのか草むらなのか判断に困る薬草園の端に、エヴィが昨晩食べたオレンジの種を撒いていた。
そしてフンス! と大きく鼻息を吐くと、大きく身体を動かしながら大声を出す。
『春を齎す愛と豊穣の女神よ、季節を紡ぎて花々を咲かせん。フル・ブルーーーーム!』
植物の成長を速める詠唱である。
魔法陣を描くでもない、おかしな格好をつけた詠唱が発動する訳もなく、音をたてて木枯らしが吹き抜けて行った。
お使いなのだろう。薬袋を持って近くを通りがかったハーピーの子どもが、ちらりと右手を突き上げたままのエヴィを見る。
おばば様の薬は人間だけでなく、魔族たちにも愛用されているのだ。
彼らは人間に見つからないように、こっそりと山小屋に訪れるのである。
「……何やってるの?」
「魔術って難しいですぜ、ですわ……」
「何だか言葉もおかしくない?」
人間だったら五歳位だろうか。そんな幼いハーピーの子どもが、ため息をつきながらそう言った。
項垂れるエヴィを横目で見ては、仕方ないなと言わんばかりにもう一度ため息をつき、男の子がサラサラと何かを唱えた。
すると、密やかに何かが弾ける音がしては。
……小さく芽が出て来たではないか。
「!!」
「……僕はまだあんまり魔力がないから、これだけだよ?」
「ぼうや、ありがとう!」
エヴィは彼に抱き着いて、いい子いい子をする。
ハーピーの子どもは恥ずかしそうに顔を引き、羽根をバタつかせながら帰って行った。
「バイバーイ!」
エヴィは大きな声で言いながら、子どもが見えなくなるまで手を振る。
(……ハーピーって女性の姿だって何かで読んだけど。ちゃんと(?)男の子もいるのね)
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「ちょっと、待ちな!」
そこへおばば様が、しわがれたダミ声を響かせながら扉から出て来た。
『ゲコゲコ!!』
するとガマガエルが数匹、凄い勢いで飛び出して来る。
「コラ、待てぇ!」
モンスターのような形相でそう言いながら、一匹をむんずと引っ捕まえる。
『ゲ、ゲコーーーーッ!!』
一瞬、叫ぶ(?)カエルを振り返りながら、振り切るように他のカエルがぴょんぴょんと跳んで行く。
ニヤリ、おばば様が捕まえたガマガエルに威圧感マシマシで睨みを利かせた。
またも脂を頂戴しようという寸法だ。
「おーい、エヴィ。もうすぐ焼けるぞ」
ピンクのフリフリエプロンを付けた魔人が扉から顔を覗かせた。
直後、カエルとおばば様を見て、彼は太い眉を顰めている。
「おい、ババア。カエルなんて掴んでないで手を洗え! 手ぇ!!」
「……うるさい魔人だねぇ! そのおかしな髪の毛を引っこ抜くよ!」
『ゲコォ……』
ふたりと一匹が、緊張感を持った様子で視線を合わせている。
「はーい、ですぜぇ!」
エヴィは輝く笑顔で返事をすると、オレンジの芽を今一度見ては、言い合いをするふたりのもとへと走り出した。
いつかのキツネだろうか。木陰のキツネが踵を返しては、振り返って小さく左右に首を傾げた。
お読みいただきまして、またご感想、評価、ブックマーク、いいねをいただきまして
誠にありがとうございました。
少しでもお楽しみいただけましたなら幸いです。
こちらの続編もございますので、お時間がございましたら
是非エヴィたちに会いにいらしてくださいませ。
合わせましてお楽しみいただけましたら嬉しいです(^^)




