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12.それぞれのその後・再びシャトレ伯爵

 楯突いたらよかったのだろうか、と足元の大理石で作られた床をみつめながらシャトレ伯爵は心の中で自問自答した。


 哀しそうな、心底困り切った……隠せない程の悲壮感を色濃く漂わせた乳兄弟であり親友であり、主である王を見遣る。


 意外に人の好い王は、自分の言い出したわがままによる結果を悔やんでいるのであろう。 

 渋った親から引き離したにもかかわらず、息子王子の暴走、婚約破棄、挙句の行方不明という結果を招いてしまったことに申し訳なく居た堪れないと感じているに違いなかった。


 だが実のところは、『頼れない』と娘に決断をさせた自分たちが悪いのだ。


 ぶつけようのない戸惑いを言い訳に、離れて暮らす娘に愛情も信用も与えることが出来なかったということなのだから。離れて暮らす娘に、せめて大切に思っているのだという気持ちくらいは、きちんと示すべきだったのに。


(……今更『だった』といって、どうなるものでもないのだが)


 城からほとんど出たことがないという娘は、ひとり何処へ行ったのだろう。

 当初、もしかしたら心を寄せる相手と駆け落ちをしたのではないかという意見も出たのだが……調べても調べても、そういった他者との交流が皆無だという事が判明した。

 探せば探す程、全くの無駄のない、厳し過ぎる規律の中で暮らしていた娘。


(いったい、どれだけの我慢の中で過ごしていたのだろう……)


 賢いと言われる娘は、お世辞抜きで本当に賢いのだろう。

 それは聞こえて来る王城での仕事ぶりを語る担当者の嘘偽りない声や、学園創立以来、飛び級で初めて卒業した人物ということからも、それが嘘でも誇張でもないことがうかがえた。


(きっと、チャンスとばかりに抜け出したに違いない)


 それどころか。

 もしかすると、チャンスを掴む為に淡々と準備を重ねていたのかもしれないと伯爵は思っている。


 今までの行動から見ても、多分衝動的に王城を出たのではない筈だ。自分達に気取られないよう、アドリーヌが綿密な計画と強い決心の上で行動していると確信している。

 きっと、このまま探さずに静かにしてあげた方がよいのであろう。


(だが、せめて安全なのかどうかは確認したい。もし困っているのならば、今度こそ手を差し伸べる為に)


 ただのエゴかもしれないが。

 そう思っては、どうしたらいいのか未だに思いつかずに、弱り切って迷うばかりの自分に苦笑いをしたのであった。

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