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閑話 おばば様と魔法、そして黒歴史

 エヴィがまだアドリーヌと呼ばれていた頃、魔法を目の前で見てみたいとずっと思っていた。不思議な現象や楽しい事、奇想天外な出来事をこの目で見られたら、何て素敵な事だろうと思っていた。


 かつて一度だけ会った事のある魔法使い……魔女と言った方が良いのであろうか。

 それは勿論おばば様だ。


 何故旅の一座に混じっていたのか聞けば、何の事はない、本来一座に混じって来る筈だった占い師(本職は魔法使い)の都合が悪く来れなくなってしまい、魔法使いのネットワークで代打を頼まれたからだそうだ。


 魔法使いは身バレする事を危惧して、大体その不思議な力を利用しても怪しまれない事……占い師や薬師、祈祷師や何でも屋等を生業にしている事が多いという。

 勿論全然関係のない職業に就き、普通の人間に交じって生活している人もそれなりにいるらしい。


 おばば様によれば、魔法使いの多くは気難しく人間嫌いで厭世家であるという事だ。

 よって自分のペースで仕事が出来る上、少々離れたところで暮していても不思議に思われないような仕事に就くのが大半だという事である。




「……ほおぉぉぉぉ!!」


 おばば様が得体のしれない薬を作っている様子を、ボロい……いや、シンプルで年代物の椅子に腰を下ろして見学していたエヴィ。


 今おばば様は、大きな鍋に薬草その他を入れて薬を作っている。

 ……中を覗き込めば、えげつない程のま緑色の液体がボコボコと泡を立ち、怪しい臭いを発していた。

 そして、呪文を唱える。


「やって来た来た、餡! ポン! タン!」


 途端、鍋の中身が眩い光を放ってはすぐに収まった。

 何かのお薬の完成である。


 よく効く薬師のおばば様の薬だが、何の事はない。普通の薬を作る際に、回復魔法と治癒魔法を重ね掛けするからで。

 よく効く薬師の薬というのは、たいてい魔法で効果を底上げされているからだと魔人が語っていた。


 目の前でそんな魔法の数々を見ることができ、非常に感動&有難いのではあるが……


「……なんでそんな(変な)呪文なのでしょう?」


 若干不満気な声のエヴィを、ほうきを片手にピンクのふりふりエプロンをつけて掃除をしていた魔人と、小さな薬瓶に薬を小分けにしていたおばば様が見遣る。


 ――やって来た来た、あんぽんたんって。

 デキる魔法使いのイメージぶち壊しである。



「……まあ、魔法はイマジネーションだからねぇ。ぶっちゃけ、詠唱なんて本当はなんでもいいんだけど」


 え~~~~~っ?


「じゃあ、なんでそんな変な呪文なんですか?」

「そんなに変かねぇ」

「その程度の魔法なら面倒臭いから、無詠唱ですりゃいいのに」


 お互いが言いたい事を言いながら腕を組んで首を傾げる。

 ……魔人の『♪俺様のパ~ワ~ッ!』もどうかとは思うのだが。


 一応教科書的な詠唱はあるそうなのだが、自分が一番しっくりする詠唱の方が魔法の強度が上がるらしく、ある程度に達した魔法使い達は適当に改ざんして詠唱しているのだそうだ。


「じゃあ、エヴィはどんな詠唱が『変』じゃないんだ?」


 言ってみろと言わんばかりの魔人の口調に、おばば様は同意するように頷いた。

 う~~~~む。

 エヴィも唸りながら考える。


 そう、魔法使いと言えば。

 神の名前や精霊の名前を言いながら――多分発動させるためにその人物(?)の名前が必要なのか、力を拝借する為だろう――、カッコいい感じの言葉とポーズを決める感じである。


 勇者達と一緒に魔物討伐に出掛け、大魔術で敵をやっつけるド派手なアレである。

 うーーーーーんと唸りながら、そんな場面を脳裏に描きながら……カッ! と瞠目して椅子から立ち上がった。



『空よ風よ陽の光よ。古より脈々と伝わる光の奔流! アルフヘイムよ、我に力を! ゴット・ファンタシスタ!!』


 大声で詠唱(?)を唱えながら、手足を大きく動かしては『エヴィの考えるかっこいいポーズ』を決める。


 時が止まった。


「…………」

「…………」


 うわぁ……。


 ふたりは何とも言えない表情で、無駄にキリっとした顔のエヴィを見る。

 ――遅い中二病なんだろうか。


 そして小さくため息をついて首を何度も横に振った。


「……ダッセェ」

「長いねぇ。そりゃぁ、攻撃魔法なのかい? そんなん言ってるうちにられちまうよ」


 散々な評価に、エヴィは口を尖らせる。


「え~? そんな事ないですよぅ」 


 外は麗らかな日差しが降り注ぎ、風に乗って上空を飛ぶトンビがのどかな鳴き声を響かせていた。

 ピーヒョロロロ。



 その後暫く、『エヴィ・ゴット・ファンタシスタ』と呼ばれたのは言うまでもない。

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