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11話 漆黒の炎使い ※挿絵あり

 「魔力に過敏に反応するようだ。奇妙な体質だな……」


 声がした方を見ると、小さな女が壁に背を預けて座っていた。フードを深くかぶっていて顔は見えない。

 影が薄くて今まで気づかなかったが、ずっとそこにいたらしい。

 確かに女性は四人いる。

 アイシャにエリザにシエラともう一人だ。

 そのもう一人がこいつか。

 なぜか今まで全く意識していなかった。小さすぎて視界に入らなかったのか。

 声を聞いたのもはじめてだ。


 「はじめて話すな。お前はなんという名前だ」

 「モルモル・メルメル」

 「…………なんだって?」

 「モルモル・メルメルだ」

 「………………そうか」

 「バカにするな」

 「何も言ってないだろ」

 「モルちゃんは、ポピン族なんですよ。ポピン族は皆こういう名前なのよね」


 険悪な空気を察したのか、すかさずエリザがフォローを入れた。


 「ポピン族?はじめて聞いたな」

 「ポピン族は魔法の達人ばかりなんですよ。普段は森に隠れて暮らしてるから滅多に人里には出てこないんですけど」

 「そのポピン族がなんで奴隷なんてやってたんだ?」

 「歩くのがめんどくさくて人間に捕まってみたらタダで運んでくれて船に乗れた」

 「それはよくないな。何かあったらどうする。自分を大切にしろ。親御さんが泣くぞ」

 「バカめ。私にどうこうできる人間など滅多にいない」

 「………………そうか」

 「やっぱりお前バカにしてるな」

 「………………いや?」

 「人間の癖に生意気な……」

 「お前は人間じゃないのか?そのフードとってみろ」

 「我が真の姿を見て生きて帰れた者はいない」

 「わたし生きてるよモルちゃん……」


 何かイラっとしたので無理矢理フードをはぎとった。

 その姿は、特に人間と変わらない普通の子供だった。

 変わっているのは赤いような黄色いような不思議な髪色をしていることくらいだ。


 「普通だな。良かった」

 「子供と言うな。これでも50年生きている。それに、耳を見ろ。少し尖っているだろ。それに、目だ。黄色いだろ。それに、背中には翼斑よくはんがある。翼斑はポピン族が天から降りし天鳥の末裔である証だ。お前達人間とは似ても似つかない」

 「…………そうか……そういえばモルちゃんは魔法が得意だと言ってたな」

 「お前がモルちゃんと呼ぶな。お前など一瞬で灰にしてくれるわ」

 「俺に魔法をうってみろ。死なない程度にな」

 「はあ?お前はバカなのか。我が漆黒の炎にかかれば人間など──」


 俺は嫌がるモルちゃんを小脇に抱えて広場に出た。


 「ほ、本当にいいのか?怪我しても恨むなよ」

 「いい。うて」

 「火の精霊。この者を焼きはらえ!」


 モルちゃんが詠唱すると、周囲の空気が吸い込まれるような突風が吹いて、空中に巨大な火球が現れた。

 そして火球は火の粉を散らしながらうねるようにこちらに向かって飛んできた。

 火球が身体にあたった刹那、獣のように口を開いて全身に燃え移る。

 そして、空気を焼きつくしながら弾け飛ぶように姿を消した。


 とんでもない魔法だ。こんなものをまともに喰らったら死んでしまう。

 しかし、俺はなんともなかった。


 「どどどどどどどういうことだ!お前おかしい!絶対変!」

 「手加減し過ぎだ」

 「もう一回やらせて!次は本気だから!」

 「いいぞ。やれ」


 モルちゃんは再度詠唱を始めた。

 さっきよりも長く丁寧に。

 再び現れた火球は先ほどの火球よりはるかに小さかったが、その色は青く静かに禍々しく輝いていた。

 火球が身体にあたった瞬間、弾けるように世界が白くなり、静寂に包まれた。

 こんなものをまともに喰らったら、骨すら残らないだろう。

 しかし、俺はなんともなかった。


 「はあわわわあわ………」

 「たしかにお前の魔法は凄い。しかし、これでわかった。俺に魔法は通用しないようだ」

 「悔しい!こんなの!絶対!ありえない!」

 「そう怒るな。お前が弱いんじゃない。俺が凄いんだ」

 「ええ…………そうね。お前がおかしいだけでわたしは弱くない。わたしは弱くない。弱くない。弱くない。弱くない……」


 モルちゃんは壊れた。

 見物していたアイシャが倒れかけたモルちゃんを抱えて家の中へ運んでいった。


 「エリザ。モルちゃんの魔法はどのくらいの強さなんだ?」

 「……わたしはそんなに魔法詳しくないけど、多分人間の中であんな魔法使える人はほとんどいないと思いますよ。というか、なんともないんですか……?」

 「平気だ。お前もモルちゃんの看病をしてやれ」


 周りで見物していたゴボル傭兵達が歓声をあげた。


 「すげえ!こんなの見たことねえよ!グラルド王万歳!」

 「あの子も凄かったけどグラルドさんはんぱねえな!」

 「グラルド!グラルド!グラルド!」


 荒くれ者の傭兵たちが盛り上がっていた。

 やはり、こういう手合いは暴力的な強さを好むのだな。

 単純なやつらだ。


 しかし、嬉しくない。


 これなら、ハースタン公国と戦争になっても大丈夫かもしれない。

 俺は多分強い。

 それに、皆の士気も高いようだ。


【モルモル・メルメル】

挿絵(By みてみん)

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