表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/51

序章.2

03



気がつくと俺は2号館の前にいた。

瞬間移動のような何かしらの能力を受けたわけではない。

ふらふらと考え事をしながら歩いていたら、2号館に来ていたと言うわけだ。


爆散した直後は人で溢れかえっていたが、佐々木ショウの死亡に注目が移った。

誰しもが関心を失い、いつも通りの人気の少なさだ。


昼間ということもあって、学生は誰もいない。

というか、立ち入り禁止になっていた。



(2号館で青木たち秘密結社は何をしていたか、今こそ暴くぞ)


秘密結社は佐々木ショウの事件とは関係がないだろう。

observerと秘密結社は、同じ強豪違法能力集団なため、非常に仲が悪い。

これにholdersを加えた三つの勢力は、お互いを牽制し合うことで均衡を保っているようだ。

三つ巴ってやつだ。


holdersとobserverが本格的に戦い始めたので、今は秘密結社に対して誰も注目していないだろう。

今こそ、やりたい放題、2号館を探索できるわけだ。





というか、


そもそも、この三つの集団はなぜ争っているんだ?

なんのために、戦っているんだ?


「まあ、地下図書館に行けば何かわかるか?」



俺は、2号館だった瓦礫の前に立ち、手を伸ばす。

そして、『2号館が爆散した』という事実を歪ませた。



能力を発動した瞬間、爆発などなかったかのように、2号館が元通りになる。

瞬きをした、一瞬の間で。


(大丈夫そう…か?)



正直、こんな能力の使い方はあまりしたことがない。

基本的に事実であればなんでも歪ますことができるが、その中の情報量によってできる限界が生まれてくる。

例えば、本がいい例だろう。

本を燃やした後、能力を使って『燃えた』という事実を歪ませるとする。

もし、その本を読んだことがあれば問題なく復元することができる。

しかし、一度も読んだことがない本であれば外側だけ復元できる。

その内容までは戻すことはできない。

燃えた、という事実だけをなくした。


便利に見えて、使い勝手が悪い能力なのだ。

情報量が多いものの事実を歪ませるなら、それ相応の集中力と記憶力が必要になってくる。


つまり、2号館も完全に復活したわけではない。

俺が知っている範囲、それこそ地下図書館までの道のりくらいだ。


だが、今回はそれだけで充分だ。



地下図書館への扉を開けると、しっかりと螺旋階段が形成されていた。

爆散したのが地表だからといって、それまでの道のりが残っているという保証はなかった。

瓦礫が螺旋階段を埋めていたら、それを取り除く作業が必要となってきた。

その手間はいらないようだ。


前回と違って、恐怖心は生まれなかった。

夜でもないし、敵である青木は死んだ。



1歩踏み出す。

前回のように足が吹き飛ぶことも、後ろから肩を叩かれることもない。

なんだかんだ言って、トラウマになっていたのだとここで自覚する。


1歩踏み出せば、残りは楽なものだった。

足音が地下全体に響き渡る。




(…)




5分ほど降りただろうか。

ようやく、地下への扉が見えてきた。


上を見上げると、光がうっすら見えるだけだった。

随分と地下に降りたらしい。


今思うと、青木教授騒動からの謎が解決するのだ。

青木夫妻が何を考えて、秘密結社に何を命令されていたか。

全て暴いてやるぞ。




扉を開けると、ぱぁと光が溢れてきた。


「わっ。まぶし」

「やあやあ、待っていたよ」




は?



視界が光に慣れてきて、だんだん周りの様子がわかってきた。

地下図書館というのは名ばかりで、本らしきものはひとつも置かれていなかった。

壁も地面も白で統一されていて、無機質な空間。

部屋の中心に円卓があり、その周りに液晶パネルがいくつも整列している。

2号館がボロボロな建物なだけあって、この近未来な部屋が違和感でしかない。




そして、円卓の一つの席に、さらに違和感を感じるものがいた。

いや、そう。

ここにいてはおかしい存在。

部屋とその人の違和感同士で、逆にこの部屋に溶け込んでいた。


透き通るよう中性的な声。

全身を白で統一した、人間離れしたその姿。


「なんで天使教授が…」

「私がここにいてはおかしいかい?」




いや、おかしいよ!


***

04



秘密結社が活動していたとされる場所〜とか。

そもそも俺が能力を使うまで入り口は塞がれていた〜とか。

なんで俺がここにくるのがわかったのか〜とか。



天使教授の前では、全て無駄である。

この人に常識は通用しない。


雨や雪のように、突然降る天候程度に捉えていくのが精神的に正解だ。




「私と初めて会った時のことを覚えているかな」

「なんですかいきなり…そりゃ、忘れるわけないですよ」


俺と天使教授が出会ったのは、入学式の時だ。

人生の転換点はいくつもあるが、その中でも群を抜いて記憶に残る。

子供だった高校生から卒業し、大学生という大人になったのだ。

そして、振り出しに戻った日である。



『世界が崩壊した。そして、君はその事実を無かったことにした。おかえり、佐々木ソラくん。』


入学式のあった4月3日。

俺の前に突如現れた天使教授はそう告げた。


お前はこれから起きたことを全て『無かったこと」にして、戻ってきたのだと。

世界崩壊を無かったことにした。

そう言われた。


「世界の崩壊に立ち会った君は記憶を失った。あまりにも膨大な事実の書き換えは、君の脳にも影響を及ぼしたのだ。だから、誰もその事実を知らない。これから起きる世界の崩壊を知らない」





だから、俺と天使教授は手を組んだ。

『誰も知らない事実』を知っている天使教授は、あまりにも魅力的だった。


全ての事実を把握する天使教授と事実を歪ませる佐々木ソラ。

俺たちふたりの協力関係は世界を救う最も簡単な近道だった。

はずだった。


お察しの通り、全て知っている天使教授は俺に対して協力的では無かった。

協力関係を結んだはずなのに、気がつけば教授と生徒の関係になっていた。

課題と言いながら、何かしらの問題を提示し、俺に解決させる。

俺だけ損をしている気がするが、必ずメリットのあることをしていると信じている。


「どうだい、ソラくん。世界崩壊の手がかりは掴めたかい」

「それが全く掴めてないんですよね。天使教授が何も教えてくれないから」

「おいおい、君はもう大人だろう?自分で学ぶ姿勢を見せてくれよ」


課題は出しているんだし。

そう言いたげな表情でこちらを見つめてくる。


課題を通して自ら学びを見つける。

いよいよ、教授らしくなってきたな。


「そーですか、それなら、今まさにフィールドワークをしているわけですよ。違法能力者集団の一角、秘密結社の秘密に迫る!どうですか、世界崩壊調査についての第一歩としては」

「あれ?お兄さんの葬式会場でholdersの面々に囲まれ、愛されていたという事実を目の当たりにして、言葉にできない喪失感に潰されかけていたところ、現実逃避をするために地下図書館に来たんじゃないの?」


ぐっ。

図星であった。

気が付かないようにしていたし、気がついていないところもあった。

的確に、ナイフで抉るように、俺の本心を暴いていく。


「だとしても、世界崩壊調査について無関係だとは思えないですよ。なんですかこの近未来空間」

「さあ、なんだろうねぇ」


それを調べるのが、今回の課題。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ