表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/51

2-6

11




先に動いたのは一ノ瀬だった。



彼は刀を振り上げ、そのまま投げた。



(え?)



まさかの投擲である。

侍のように敵を斬りつけると思っていたが、どうやら違うらしい。

俺たちは入り口から動いていない。

つまり、青木との距離は5m程度あった。

刀はくるくると回りながら、青木の足元へと刺さる。



外した?



そう思う間もなく、一ノ瀬が能力を発動した。




人が能力を見る瞬間など滅多にない。

能力を使うことは犯罪だし、犯罪者と遭遇することも基本的にはない。

天使教授の宿題として、いくつかの事件で能力を見た、その程度だった。


そんな俺でも、一ノ瀬の能力が常軌を逸しているのはわかる。




「なんだこりゃ…」



思わず口から言葉が漏れる。

いや、誰だってそう思うだろう。



目の前に青木がいた。

瞬きをしていた間に、青木が目の前に瞬間移動したように見えた。

いや、俺らが瞬間移動したのか?


辺りを見渡すと、その両者とも間違っていたことがわかる。




一ノ瀬が刀を投げた直後、刀の軌道に沿って空間が消滅していた。

青木がいた位置と、大教室の入り口が地続きになっている。

意味がわからないって?

俺のセリフだ。


何が起きているかわからないが、2号館の大教室は歪みまくっていた。

無理やり、青木と一ノ瀬の距離を0にした。


そうとしか言いようがない。



「『2点を1点にする』。それが一ノ瀬の能力だ。訳のわからなさではトップクラスの能力だが、強さは異常だ」


依田ちゃんは全く動じずに解説してくれた。


刀の軌道の始点と終点を一点にしているらしい。

いやいやいや。

訳わからないって。



一ノ瀬は、地面に刺さっている刀をすぐさま抜く。

そして、青木を斬る。



一ノ瀬が刀を投げてから僅か1秒の出来事だった。


青木は後ろに倒れ避けようとしたが、両手が無くなる。

刀の軌道に入ったのだろう。

刀には当たってはいないが、始点と終点の間に入ってしまったのだ。

その空間ごと無かったことになった。



肘から先がなくなり、血を撒き散らしながら青木は倒れる。



「くくく、はははははははははははははは」



もう一振り。



青木の両足も、空間ごと消滅した。



「はははははははははははははははははははは」




青木は狂ったように笑う。

痛みで頭がおかしくなったのだろうか。


一ノ瀬は、返り血すら浴びずに決着をつけた。






(強過ぎだろ…)

依田ちゃんの足を一瞬で消し飛ばした、『転写』の能力者、青木。

彼も決して弱くはないはずだ。


だが、能力者同士の戦いは先行が基本的に勝つ。

いかに相手より能力を先に発動できるかが問題だ。


そこを、一ノ瀬の能力はカバーしている。

距離を一瞬で詰め、相手に致命傷を与えることができる。

これが、『holders』2位の実力者。


(これで2位なら、1位の佐々木ショウはどんだけ強いんだよ…)



「はははは。流石は一ノ瀬タイチ。お前が2号館に来た時点で俺の運命は終わっていたと言うわけか…」


四肢を失ってもなお、青木は普段通り喋っていた。

だが、その顔に余裕はない。

 


おいおい、ここで青木を殺しちゃったら目的とかわからないだろ。

流れるような攻撃で止める時間すらなかった。


一旦、『無かったこと』にするか?

と言う考えも杞憂だったようだ。



小野崎が青木の元へ走り出す。

そして、彼女も能力を発揮した。

その出力は桁外れで信じられないものだった。

彼女が両手を青木に伸ばすと、みるみると青木の手から血が止まった。


そのまま筋肉が盛り上がり、皮膚に覆われる。


両手両足が復活したわけではないが、生命の危機は免れたように見える。



『holders』の大元、国立能力病院の専売特許、治癒の能力だ。




攻撃の一ノ瀬と守りの小野崎。

完成されたツーマンセルがそこにはあった。




***

12




狂ったように笑った青木は次第に声を小さくし、最後には真顔になった。


「早く殺せ」



まあ、青木の気持ちもわかる。

自身の能力を使う暇もなく、四肢が消滅したのだ。

このまま尋問されるのは確定している。


しかも、治癒の能力者がいるときた。

一ノ瀬が体の部位を消滅させ、小野崎が治癒をする。

体は死ぬことはないが、苦痛だけが残る。

究極の拷問ペアだ。



(この2人がそんなことするような人には見えないが)


「一つ勘違いをしているが、俺はお前を殺すつもりはない。目的を洗いざらい喋ってくれれば、四肢も治すことを保障しよう」

「信じろって言うのか?」

「俺たちは、人殺しはしないんだよ」



さっき殺すって言ってなかったっけ?

そこからは、『holders』の2人組による尋問大会が始まった。


いつから?

何が目的で?

青木レナとはどういう関係?



などなど。

『holders』の応援も呼んではいるので、来たら連行するようだ。



俺と依田ちゃんは完全に空気になってしまっていた。





青木の口は固かった。

青木レナの夫という情報以外、口にすることはなかった。

一ノ瀬が刀をちらつかせて脅しても、びくともしなかった。




「オズ大学常駐の『holders』が2人いたはずだ。そいつらはどうした?」

「ははははは。どうしたと思う?」

「チッ。言わなくていい」




まあ、『holders』に連行したら、『洗脳』の能力者とかが口を割るようにしてくれるだろう。

そんな能力者がいるから知らないけど。


だが、『holders』ないで得た情報は俺の元へ入ってこないだろう。

俺はそもそも関係がないからな。

ただ、興味本位で首を突っ込んでいただけ。


だから、今知る必要がある。

2号館で何があったのか。



「青木さん。地下図書館には何があるんですか?」

「!」



初めて、彼の様子が変わった。

地下図書館そのものが重要なキーとなっているのだろうか?



「ソラ、地下図書館とは何のことだ?」

「オズ大学の2号館の地下には図書館があるんです」



青木は真顔のままこちらに顔を向ける。


「佐々木ソラ。貴様、どこまで知っている?」

「どこまでって…」


何も知らないけど。

なんなら、地下図書館があるって知ったのも依田ちゃん情報なんだけど。

依田ちゃんはどこまで知っているんだ?

その疑問の方が俺の中で芽生えてしまう。




「ふふふ。そっちの目的を話せば教えてあげよう」



適当にでっちあげることにした。

とりあえず、目的を話させることが第一だ。

青木の表情は以前と変わることなく、真顔のままだ。

完全に、生を諦めたような目をしている。



「そろそろ、時間だ。行くぞ、ソラ」

「え?」



依田ちゃんが唐突に割り込んでくる。

今まで何も話していなかった彼女だが、少し様子がおかしい。

まるで、何かに気が付いたかのように。

なんだ?

今の間に何か異変があったか?



「『holders』の2人も、早く2号館から出た方がいい」

「どうしてだい?依田ちゃん」

「『秘密結社』は、徹底している。青木がやられたことなんてすぐにバレるぞ」



依田ちゃんは俺の手を引っ張り、大教室の外へと連れて行く。



「ちょちょちょ。まだ何の話もできてないんだけど」

「青木は口を割らない」

「だとしても…」


「それに、2号館には大事なものが隠されているのは明確だ。それを黙っている『秘密結社』じゃない」


何が言いたいのか、さっぱりわからない。

俺たちは1号館に戻った。



『holders』の2人は応援と合流して、青木を連行するだろう。

俺たちは、情報を得る手段を失ったわけだ。


(普通に気になるから、一ノ瀬さんに頼んで教えてもらえないかな)


割と事件解決に貢献した方だと思うし、教えてくれたっていいはずだ。





そんなことを考えていたが、事件は何も解決していなかった。


俺たちが1号館に着いたのとほぼ同時刻。


鼓膜が破れるかのような爆音と共に衝撃が1号館に走った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ