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05
「というわけで、今日からよろしく頼む」
「お願いします!」
「はーい」
調査を始めるにあたって、疑問点を解消する必要があると考えた。
一ノ瀬の行動力と推理は大胆だ。
が、青木教授が能力を学校で不正利用したという事実から、違法能力者集団につながるか?
なぜオズ大学に違法能力者集団と強い関係があると思ったのかを確認してみた。
「それはだな。AW測定器の存在だ」
「というと?」
「そもそもAW測定器についてはどの程度知ってるんだ?」
「一般教養くらいなら…」
AW。
能力を法で規制している世の中で最も重要な要素といっても過言ではない。
これがなければ、能力を隠れて使い放題なのだ。
AWとは、能力を使用した際に体から出る電磁波のことだ。
ability wave、能力波ということだ。
500年前に能力者が生まれて以来、能力についての研究は活発に進められ、この電磁波が見つかった。
そのうち、AWを数値という尺度に落とし込んで計測する機械を生み出した天才がでてきた。
この機械を使って、違法能力者を取り締まっているのである。
能力を意図的に使ったか使ってないかは関係ない。
AW値が一定値を超えているなら、能力を繰り返し使っていると判断され、逮捕へとつながる。
その中でも最新型のAW測定器は、非接触型体温計のように人に向けることでAW値を確認することができる。
一ノ瀬は俺と依田ちゃんに対して隠れてAW測定器を使ったのだろう。
そこでは、AW値は0と出たはずだ。
だから、俺が能力を使用していないと勘違いした。
余談だが、俺は能力を一度も使用したことはない。
使ったという事実は無かったことにしたからだ。
だからAWもでていないし測定することはできない。
もちろん、依田ちゃんが能力を使った直後に測定されたら、数値は出てしまうが。
「でも、測定器は値段が高いから私的に持っている人なんて金持ちくらいで、あとは『holders』くらいですよね」
「まあ、そうだな。俺たち『holders』には一人一つ配布されている」
国立能力病院の傘下にあるだけあって、金は相当配られているようだ。
1つ100万円位するってきいたことがあるぞ。
それを平然と持ち歩いて、陰で使われているのか。
そりゃ、違法能力者集団は『holders』を目の敵にするわけだ。
いつ検知されるかわからない恐怖と、能力の使用を認められ金も貰っている嫉妬という二つの理由で。
「だが、俺たちだけじゃない。大学や学校などの教育機関にも無人のAW測定器が無数に点在している。教員は定期的にAWを測定する義務もある」
「え、そうなんですか?」
「ああ。教える立場の人間は、清廉潔白でなくてはならないと考えているんだよ」
教員が『能力は使っていいものだよ。僕も使ってるしね』みたいなノリで、生徒に教えるのを防ぐためか。
国の教育方針だな。
子供には、能力を使わないということを常識としてを植え付けなければならい。
若いうちに洗脳するのと同じだ。
(まあ、俺とか依田ちゃんみたいな例外もいるが)
能力を平然と扱う俺たちも犯罪者だ。
AWを偽装しているのがバレたら1発アウト。
青木教授は教員が1番やってはいけないことをした。
自分のために、しかも生徒に能力を使うという、国の教育方針とは真反対なことをやっていたのだ。
無意識のうちに能力を使っていたとしても終わりだろう。
「あれ、教員にAW測定の義務があるなら、青木教授はなんで検知されなかったんですか?期間がうまい具合に外れていたとか?」
「月初めに検査だな」
「青木教授が違和感を感じたのが、第4回の授業。つまり5月中旬ですから、6月の検査ではAWの上昇が検知されるはず、ってことですか」
「ああ、そういうことだ。だから、俺たちはAW測定器に細工している奴がいるんじゃないかって考えているわけだ」
ふむ。
一ノ瀬によると、オズ大学が国に提出している書類のデータでは、AWの上昇を確認された人間はいなかったそうだ。
つまり、6月の検査で誰かが細工した、もしくは故障しているか。
「おい、ソラ」
「どうしたの依田ちゃん」
「お前さ、この前…。あ、いや。なんでもない」
「え?うん。」
俺と一ノ瀬が話している間に、小野崎が一方的に依田ちゃんで遊んでいたが、何かあったのだろうか。
依田ちゃんはそれ以降口を開くことはなかった。
俺たちは教務課に向かい、AW測定器の実物を見せてもらった。
AW測定器と言っても、見た目は非接触型の体温計と対して変わらなかった。
小さなディスプレイの前に立ち、センサーの前に10秒ほど経つと、AW値が表示される。
試しに、俺がセンサーの前に立ったが、0と表示された。
その次に一ノ瀬が立つと、警告音と共にエラーと表示される。
「あれ?壊れてますね?」
「いや、俺達『holders』はそこらへんの測定器じゃ測れないくらいAWが高いんだ…」
「あー」
どうやら、彼らにとってはエラーが出るのは普通らしい。
教務課の職員さんの話によると、毎年システム更新を行なっているらしい。
常に最新の状態でAW値を測定できるようで、故障は考えられにくいそうだ。
「そもそも、AW測定器をしなかったんじゃないんですか?青木さんは」
思いついたように、小野崎はいう。
確かに、AW測定器を弄るよりも、測定結果を弄った方が簡単そうだ。
いや?
それだとおかしくないか?
「青木教授は、無意識で能力を使っていたんですよね?そもそもAW値を測定しないように動くということ自体する必要がなくないですか?」
AW測定を避ける行為は、能力を使ってる奴の発想だ。
青木教授は、生徒が不幸に能力を使用していると勘違いをしていたため、そうはならない。
「そう。だからAW測定器の故障か改造だと思っていたが…。どうやら違ったようだな。これは、誰かが青木レナが能力を使っていることに気がついていて、しかもそれを隠蔽しようとした奴がいる、ってことだ」
それこそ、違法能力者集団とかな。
と、一ノ瀬は続ける。
教務課に行く前に、依田ちゃんが俺を呼んでいたことを思い出す。
彼女は、『あの事』を俺に伝えたかったのか。
俺が青木教授の夫に射殺されたという、俺が無くした、存在しない事実。
青木教授の夫は、違法能力者集団『秘密結社』の一員だ。