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 秘書のトナカイは自分にはつかないのかと悩んでいたイエローの憂いを他所に、勢いよく部屋の扉が開いた。

「どーも。初めましてタイガーです」

 少年と見間違えそうな金髪の短い髪を搔きあげ、キリリとした澄んだ眼差しで人懐っこい表情を浮かべて、タイガーは挨拶をした。

「あんたがイエローはん?宜しゅう頼んます‼︎ボク、イエローはん専属秘書のタイガーです」

 イエローの目前まで駆けよると、タイガーは一気盛んに腰を折りたたみ最敬礼をした。

「あっはいっ、宜しくお願いします」

「何で敬語やねん。上司でっしゃろ?しっかりしてーな」

 イエローはタイガーに力強く背中をバシバシ叩かれる。

 例のごとく、茶色スーツで身を包んでいるタイガーは、虎の毛皮のようなもので縁取りをカスタマイズしたらしい。珍しいチョイスだ。

「あっ!これですか?本物ちゃいますよ。フェイクですねん。さすがにボクが本物の毛皮つけてたら引きますやん」

 タイガーはボクっ子らしい。ただ、タイガーが何を言っているのか、イエローには見当もつかず、それを見かねたピンクがタイガーの前世について説明した。

「タイガーの前世は虎だったんだ」

「トナカイの前世が虎だったんですか?」

 前世が虎で名前がタイガーなんて安易すぎる。

 イエローは突拍子のない話だなと、半信半疑で話に耳を傾けた。

「うん」

 シャン◯リーの注がれたワイングラスのボウルの部分を手のひらに乗せ、クルクルと回しながらピンクは続けた。

「戦時猛獣処分って知ってる?」

 戦時中に動物園が攻撃され、檻が破壊されることを想定して、猛獣が逃亡するのを未然に防ぐために殺処分することを指す。

「人間が身勝手に始めてた戦争のせいで、動物園の動物たちが殺されるって…。胸糞悪い話じゃろ?」

 苦虫を潰したような顔でブルーは唇を噛んだ。グリーンは、黙ったまま拳を握っている。レッドは気づいていた。グリーンの手は爪が食いこんで血が滲んでいることを…。

 グリーン、森の守り人であった彼にとっては動植物全てが家族に等しい。食物連鎖、弱肉強食、自然界の掟のような関係は彼も理解して呑み込んでいる。

 だが、人の勝手で見せ物にされ、危ないからといって殺される。動物にとって、何と残酷な話だろう。

 サンタという職業柄皆に言えないが、グリーンが人間嫌いであることをレッドやピンクは認知していた。

 ピンクはおくびにも出さなかったが、グリーンの前で話し始めてたことを後悔した。

「アイツはね。それで殺された虎なんだよ。人間の子供が大好きでさ。いつも自分を見に来てくれた子がいたんだって」

 テーブルに肘をつき両手を組むと、ピンクは顎を乗せた。グラスが空になったので、カルエラが新しいグラスと交換する。たっぷり注がれたシャン◯リーが揺れる。

「何せ戦時中じゃん。動物園に人が来ることもなくてさ。もっと、子供たちを楽しませたかったらしいよ」

 イエローは疑問に思って、話し終えたピンクへ尋ねる。

「何でタイガーの前世を知っているんですか?」

「だって、アイツ。稀なんだけど、前世の記憶持ちなんだよ」

 死亡前の記憶があるサンタと違って、トナカイは生前の記憶はない。生まれ変わり、サンタのトナカイとして育てられるからだ。中には、野生のトナカイがそのままサンタのトナカイになることもあるが、そちらは異例である。

「日本の大阪ってとこの某動物園にいたらしいよ」

 ピンクはそっとイエローの肩へ手を置く。イエローと視線が交差したピンクはウインクをした。

「まぁ、そんな理由で気性が少し荒々しいけど、根はすごくイイ奴だから、仲良くしてやってよ」

 因みに、ピンクが飲んでいるシャン◯リーも、モモが参考にしたギャル本も、タイガーが日本から取り寄せて持ち込んだものだ。何としても、サンタクロース・ファイブのトナカイになりたかったタイガーの袖の下である。

 当の本人(当のトナカイ?)は先輩トナカイに大阪名物「◯クローおじさんのチーズケーキ」を配っている。律儀に同期のモモへも用意したようで、トナカイの数分きっちりある。

「めっちゃ美味しねん。食べてやー」

 無邪気な笑顔が眩しい。

「ボク、子供ら大好きですねん。あんなに顔を輝かせて、ボクらをキラッキラッした目で覗きこんでくるんですよ」

 生前、人間の都合で殺された虎とは思えない発言だ。純粋な好意をタイガーは人間に寄せているようだ。

「あっ、でも良い子の君たち。虎には近づかんといてな。ボクが風変わりなだけで、普通なら捕食されるよ」

 誰に向かって物騒な補足説明をしているんだろう。しかも、彼女は今やトナカイだ。

 トナカイたちに囲まれているタイガーはお土産を配り終えて満足気だ。カルエラは可笑しくなって笑った。

「ふふっ、美味しそうですね」

 チーズケーキを包装した箱から漂う匂いを嗅いで、カルエラの白い頬がほんのり赤く上気する。

 いつも無表情の翠が軽く会釈して微笑む。ストレートな黒髪の毛先が軽やかに踊った。

「ありがとう。頂きます」

「ありがとうございます。お姉様方にもお分けします。きっと喜びますよ」

 鈴が鳴るような心地よい声で笑いながら、モモもお辞儀をした。

 ふと、ふっくらとした唇を指先で触れ、カルエラが首を傾げた。

「私たちの仲間にタイガーが加わって、とても嬉しくは思うのですが、どうして、タイガーは虎でなくトナカイへ転生したのでしょうね?」

 一瞬、タイガーは複雑な表情でカルエラの問いを受けとめ、愛嬌のある丸い瞳を細めて答えた。

「強う願ったからかな」

 翠とカルエラ、モモはタイガーを見つめ、続きを促す。タイガーの前世が動物園で殺処分された虎だということはトナカイでは有名な話で、知らないトナカイはいない。

「ボクが死ぬ一日前にね。戦争が酷くなる前に、いつもきとったコが動物園に忍びこんだんです」

 手元に持っていた風呂敷で髪を覆い、コソ泥ルックように鼻の下で結ぶと、タイガーは足を忍ばせる。風呂敷はお土産を包んでいたものだ。

「ボクに配給された芋をね。痩せ細った腕を伸ばして差しだすんですよ。食べてって…」

 タイガーは片手を手前から後ろへ振った。

「思わず、なんで芋やねん。ボクは肉食やんけって突っ込んだんですけど」

 カルエラは腕をもう片方の手で寄せて握りしめた。

「ボクやから良かったもんの。…ボクも餓死寸前でしたから、下手したらそのコを殺してたかもしれへん」

 モモは嗚咽を抑えられなくて、両手で口を塞いだ。瞳が潤んでいる。翠はモモの頭を引き寄せて自分の肩へ乗せた。

「結局、そのコは警備に見つかってもうて…。泣きながら『食べてって』ずっと叫んでるんです。連れていかれて、そこコが見えなくなって思ったんです。多分…。これが最後なのに、何で笑わせてあげれへんかったんやろ」

 目に涙を溜めているのに、無理して白い歯を見せるタイガー。泣いたとき『目から汗が…』と言い張るタイプだろうなぁとイエローは思いながら叫んでいた。

「子供たちが笑顔になるように、お互い頑張りましょう‼︎」

 当然、大声をあげたイエローに他のサンタ達は少なからず驚いたが、皆、優しく穏やかに先行きを見守っている。

「そうなんです‼︎強う願ったんです‼︎笑顔にしたいって…。そしたらトナカイに生まれ変わってて…」

 ピンクはタイガーのバイタリティーを想起した。ピンクは今でもトナカイの教育係だ。サンタの業務と兼ねて、自分のキャラではないが精力的に動きまわっている。何せ常に仕事に追われて嵐のような日々だからだ。秋から年末までは『殺す気か』とぼやきながら仕事をこなしていく。実際、ピンクは死ぬことない。

 数日前まで、タイガーはサンタのトナカイとして登録されていたのだが、まだ所属は決まっていなかった。

 ピンクの魔力は余分があるので、所属されていないトナカイの臨時サンタとなる。

 ピンクにサンタクロース・ファイブのトナカイ班の決定権があると思ったのだろうか、まずは周りから固めようと贈り物の数々をモモの言う『ピンク様隊トナカイのお姉様』方へ貢いでいる。そして、ピンク班のトナカイはタイガーに懐柔された。

 そんな権限はないんだけどな。

 タイガーは知る由もないだろうが実力だ。タイガーは誰よりも子供たちに対して思いが強かったのだ。

 貢物はやり過ぎだろうが、ピンクもシャン◯リーの恩恵を受けている。

 違う方向にエネルギーを向けるのは欠点だが、それ以上に熱意があり、試験等努力も惜しまない。実際、イエローのトナカイ候補は何頭かいたのだが、採用されたのはタイガーだけだ。

「ボク、頑張ります‼︎宜しくお願いします‼︎」

 タイガーは声を張りあげて再度深々と頭を下げた。

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