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雷城戦記伝 魂の騎士道編 先行公開  作者: 鮭乃氷頭
序章 平穏な幕開け
2/2

第2話 頭痛の奥に響く声(先行公開)

此処は夢か、それとも現実か…そんなこと誰が分かる?今見ている光景は現実…かもしれない。

それとも幻と嘘に満ちた夢か?空は青い、雲は白い、夜は暗い。

しかし、それは言葉で表すものだ、もしも全てが逆に見える者が居たら?

そいつは赤を青と学び、黒を白と言う…そうなってしまえば誰にも分からない。


「うん…寝てたか…」

「起きた?風源ったらすっかり熟睡してたわよ?」


いつの間にか寝てしまっていた様だ…起きてみれば外はほんのり暗くなっていた。

一体何時間ぐらい寝ていたのだろうか。


「今は…何時だ?」

「もう夜の19時よ?門限は良いの?」

「し、19時だと…もうそんな時間に…」


そういえば夏場は暗くなるのが遅いんだよな…忘れてた…

早く帰らないと巨匠に色々言われてしまう…ただでさえドアを壊してきたというのに…

貸してもらっていた服から慌てて干してあった自分の服に着替えると、隣で寝ていたミカを起こした。


「起きろ。」

「キュェ…ケンケ。」

「もう帰るの?ご飯は?」

「ごめんね、昨日の事があるから今日は早く帰らないと。」


もっとも…外出禁止を言い渡されていたのに出掛けたので、確実に怒られる。

そうなるなら、もう急いで帰ってから怒られるより、遅くに帰って怒られた方が良いと言う人も居るが…

もしそんな事をしたら外禁どころでは無く、懲罰房にぶち込まれてしまう。

巨匠は怖いよ…この前なんか3日も監禁された…もうこりごりだ。


「なら仕方ないわね。今日はありがとう。」

「気にしないでよ。」

「ケラ、コキュケケケ。」


アイディーへ適当に挨拶を済ませると、薄暗い空の光を反射する自転車へ乗り込んだ。

帰りも急がないといけないのでミカに任せよう…けれど…申し訳ないな…

昼間とは違い、薄暗い道をかなりの速さで進めば涼しい風が全身を吹く。

切られた肉の様に冷たいミカトルスの身体は掴まっていると…不安になる。

それに…視線を…感じる?誰かがこちらを見ているのか?


「うん?気のせいかな…何か感じない?」

「キューラ。」

「いや…おかしい……うわ!!」

「キ!?」


突如として車輪からガンッ!と金属が弾ける様な音がすると自転車は激しく横転!

あまりにも急過ぎた為、受け身を取れずに私は近くの茂みへ、ミカは小川に落ちた。

い、いてぇ…右の脛に枝が刺さってる…貫通してるし…左手の小指も逆の方向に曲がってる…


「ミカ…大丈夫か…」

「キュレィ…」


ミカの方は何とも無い様で良かった…いや、良くない、私が何ともある。

脛に刺さった枝は後で抜くとして、まずは小指の方を戻しておくか。


「う…ぐぁ!!」


逆に曲がった小指を強引に元の方向へパキパキ曲げると適当に動かしてみた…よし、問題ないな。

あまり推奨されないやり方だが、応急処置としては良いだろう。(多分)

びしょ濡れになったミカと自転車を確認すると、自転車の前輪がひしゃげていた。

近くには同じく曲がった鉄の棒が落ちている…誰がやりやがった…おかげでこちらは大怪我したじゃないか。


「キュラ。」

「え?ああ、抜いてくれ。」

「ケンケ。ケイ。」

「ぎぇ!!こ、心の準備って物があるでしょうに…」


ミカは無表情に顔色一つ変えずに私へ刺さった枝を引き抜いた。

私の大切な脚にポッカリ穴を開けた枝がどんな面してるか確認してみれば、鋭利で不自然に尖っている。

明らかにこれは仕組まれた物だ…いたずらか?それとも私を狙って?

どっちにしろ自転車の修理費を弁償してもらわないと気が済まない。


「おい!出て来い!こんな陰湿な事しやがって…面見せろ!!」

「ハッハッハ!バーカ!」

「な…!バカとは何だ!例えバカだとしても姿を見せないお前よりかはマシだよ!」

「マシ…ねぇ…面は見せてるよ?だけどもアンタが見つけられないだけよ!バーカ!」


チクショウ…何回もバカって言いやがって…他人にそういう事を言ってはダメだって躾けられなかったのか?ロクな人間じゃ無いな此奴は…それにしれも…声からするに女のガキだな。

舐めた事してくれるじゃないか、多分だけども年上の私が社会の厳しさを教えて進ぜよう。

見つけられないだけと言っていたな…透明化しているとは考えにくい…化けてるな。

どうしてそう断定できるのかって言えば、目の前の物を見ればわかる。


「誰だが知らないけれど、お前…アホだな。」

「だ、誰がアホですって!だったら見つけてみろよ!」

「キュラ、ケッケケケ。」


見つける…というよりかは目に入ると言った方が良いだろう。

舗装された道の横の茂み…そこに佇むのは明らかに場違いな冷蔵庫。

せめて新品のピッカピカじゃ無くて、捨てられたようにボロボロなら少しは良かったかもしれない。

とは言え私も今さっき気になったところだ…なんでだろうか。


「こんな所に冷蔵庫っておかしいよな?」

「ちょちょちょ!!待って!関係無いんだよ?放っておいてね?」

「関係無いならぶっ壊しても良いよな。」

「わっー!止めろ!止めて!…止めてください!!」


恐怖に音を上げた冷蔵庫は元の人型の姿へ形を変えた。

人型と言っても…獣人だ、顔の形は犬みたいだし、全身も毛で覆われている。

だから…人型だ、人間の形はよく見ればしていないが、大雑把に言えばそうである。

うん、全然関係ないな、本題に戻ろう。


「てめぇ…覚悟は出来てるんだろうな?」

「そんな怒らなくても…洒落たジョークみたいなものですよ。」

「ジョークだと!人の脚に穴を開けておいてたかがジョークだと!同じようにしてやろうか!」

「ヒィィ!ごめんなさい!!許してください!あの…お詫びに何か物を…」


相手は背負っていた大きなリュックに手を突っ込み、ガサゴソと漁り始めた。

お詫びと言っているからには悪い物だったら容赦はしない。

良い物だとしても自転車は弁償してもらう。


「冷蔵庫繋がりで…」

「(冷蔵庫繋がりだと?アイスか?)」


そして相手が取り出したのは白いスコップ的な何かだった。

何だこれは…ホントに何なんだ…


「これどうぞ。」

「…?何だコレ。」

「製氷室に付いてるアイススコップです。」

「いらねぇよ!そんな物で詫びようとすんな!!」


いるかよこんな物!チクショウ…アイスの方がまだマシだったよ…

私は貰ったアイススコップというよく見る割には初めて名を聞く物を地面に投げつけた。

ペコンと情けない音を立ててバウンドしたアイススコップは横の小川に落ち、そのまま流されて行った。

あの先に何が在るかは知らないが、長い旅になるだろう。


「ああ!だからって捨てなくても…」

「お前…よっぽど反省していないらしいな…脚出せ。」

「ヒィィ!!許してください!アイススコップしか持って無いんですよ…」

「なんだと?ちょっと見せてみろ。」

「ああ!リュックが…」


何か金目の物があるだろうと奴のリュックサックを暗い中漁った。

しかし出てくるものはアイススコップ、アイススコップ、アイススコップ…大量のアイススコップのみ。

なんでこんなにあるんだよ…こいつはアイススコップ国の親善大使か?ゲシュタルト崩壊寸前だよ…


「なんでアイススコップしか無いんだ…」

「すみません…どうもセールスマンの口車に乗せられ…」

「こんなに買ったってわけか。」

「うん…それでお金が無くなったからつい…ゲーム感覚で…」

「お前は万引き犯か…はぁー!ったくよ!」


どうするか…金も無ければ頭も無さそうな奴だ…生かしておくわけにはいかない。

だけども殺人は駄目だ、人を殺したら最後、戻れなくなってしまう。

こうなれば此奴は…部下にでもするか?雑用係としては働いてくれそうだな。


「しょうがないな。体で払え。」

「か、体で…優しくしてね?」

「お前が何か気色悪いことを考えてるかは知らんが、肉体労働だ。」

「えー、肉体労働なんて底辺がする仕事だよー」


私が「おい」とミカトルスに言えば枝の先端を相手に向けた。

それを見た相手は断ったら何をされるかをよーく分かった事だろう。


「そ、そんな!やらないとは言ってないよ!」

「じゃあやるんだな?それしか道は無いぞ。」

「はい!やらせていただきますわ!」


相手は地面に散らばったアイススコップをリュックサックに戻すと、背負った。

ところで…自転車が壊れてしまった…今から走っても帰れるのは大分遅くなるだろう。


「おい、お前。」

「…すみません、自己紹介がまだでしたね。アタシはキャンド・バドグーマです。」

「そうかキャンド、自転車…いや、バイクに化けれるか?」

「無理です…自転車ならまだしもバイクはちょっと…」


どうやら電化製品に化けることは難しいらしい、それに出来てもガワが精一杯とのこと。

じゃあ自転車で良いやと言うと、キャンドは見事に自転車へ変身した…リュックサックを残して。

不便だな…もしかしてコレ、私が背負って行かないといけないのか?


「さぁ、早く!行きましょう!」

「重くは無いが…代わりに背負うってのがな…」

「言っておきますけど、優しく漕いで下さいね?ぶつかったら大変です…」

「へぇー…ミカ。」

「ケンケ。」


ミカはお構いなしに全速力で自転車を漕いだ。

凄まじい程の風量が髪をなびくというより、吹き付ける。


「ギャアアアアア!!速い!速すぎる!!」

「中々の乗り心地だな。流石は狸だ。」

「た、狸って…アタシはアナグマです!…って前!カーブ!カーブ!」

「キュレ。」


流石はクレイジードライバーミカトルス、カーブを物ともせずに見事なコーナリングで曲がる。

この勢いでは…まぁなんとかなるだろう!突っ切れ!風を!ぶち壊せ!速さの壁を!


「ハァ…ハァ…し、死ぬかと思った…」

「ご苦労?なのかなぁ…?ともかく、このまま本部の中に入れるのはまずいな…」

「本部って…ここ何処なんですか…」


現在私達は家である雷城軍本部入り口から離れた誰の目にも付かなさそうな場所に居る。

このまま普通にキャンドを中に入れるのはマズい…ペットなんて拾って来たら大目玉喰らう…下婢なんて尚更だ…


「よし、小さくなれるか?」

「もちろん。」


キャンドは見事に手頃な着せ替え人形ぐらいの大きさまで小さくなった。

見事なものだ…来ている服から被っているベレー帽まで一緒の大きさだな。


『これで良いの?』

「なんとかな。変な声とか出したりするなよ?」

『分かったよ…』

「うん?風源?そこで何やってるの?」

「な!マズイ!」


後ろから誰かに声を掛けられ、咄嗟に私は後ろに隠して振り向いた。

しかし…急すぎてちょっとだけ握ってしまった…無事だと良いが…

振り返った先に居たのは元ノーラ様の側近であるジネルだった、心臓に悪いよ…


『ぐぇぇ!』

「ジネルさん!こんな所で何を?」

「それはこっちのセリフよ。後ろになに隠してるの?それに脚も…」

「なんでも無いですよ…ただのお人形です…脚は気にしないで下さい…」


そんな言い訳してもジネルは見せてとしつこく後ろを覗き込もうとして来る。

ちょ、ちょこまかと…こうなったら…キャンドに賭けるしかない!悟られるなよ!

私は持っていたキャンドをジネルに見せた。


「ほら!普通のお人形でしょ!(頼む!)」

「………にしては随分とリアルね…おお…柔らかい…」

『や、やめ…ぃた…』

「ん?何か言った?風源。」

「止めてくださいよ!いじるの!私の物ですよ!」

「あらそう?ごめんね。ホラ。」


キャンドを返してもらうと直ぐにリュックサックの中へ雑にぶち込んだ。

アイススコップで痛いと思うが我慢してもらおう、私だって痛かったんだ。


「風源も意外ね。お人形遊びなんて。」

「どうだっていいでしょう!私は行きますからね!」

「はいはい、じゃーねー。」


よ、よかった…この場は何とか切り抜けたようだ…ジネルは強欲だからな。

バレたらきっと私にも貸してなんて言ってくるハズ、そうなったら巨匠にもバレてしまう。

すなわちさらに怒られる事だ、ジネルと一緒に懲罰房送りにされる。

速いところ自室に帰って休もう…いや、その前に医務室へ行った方が良いかな…うーん…

結局、迷いに迷った挙句、キャンドにもうちょっとだけ静かにしてろと言い、医務室へ行くことにした。


「お邪魔しまーす…ドクター?」

「キュラレィ。」

「風源?どうしたのって…脚…」

「派手に転んじゃって…」


そう言えば壊れた自転車も脇の方へ寄せただけで片付けてないな…まぁいいか!誰かが何とかするだろう!私の脚の方が大事だ!うん!


「あーあーあー…もう…ホラ、そこへ横に…?」

「ど、どうかした?」

「風源、そんなリュック持ってたっけ?」

「こ、ここ、これは貰ったんだよ!友達から…」

「ふーん…あっそ。」


… 

治療も終えた私とミカはキャンドと共に自室へ到着したが…ドアを…修理しなくちゃな…

はぁ…そう考えると少し憂鬱な気持ちになるな。

とは言え扉全開のあっぴろげに生活できるほど私のメンタルはスーパーハードでは無い…直すか…とりあえずリュックはベッドの上に置いて…


「おい、ちょっと。」

『なんです?』

「ちょっとドアを直すから静かにしてくれよ。」

『分かったよ。』


さて、直すとは言ったが材料があるとは言っていない…工具は有るんだけど、いかんせんドアが無い。

ぶっ壊した方のドアは真っ二つに割れてしまったので、使い物にならない。

幾度となく壊して来たからな…そろそろ取り換え時期だったのだろう。

無ければ補充するしかない、巨匠に頼むのは…気まずいなぁ…いや!これ以上親子の溝を深めるの駄目だ!この歳で仲が悪いと後が酷い。


「しょうがない…ミカ、此処に居て。私は巨匠の所へ行く。」

「ケンケ、ケレララッラ。」

「そうだね。たまにはちゃんと話さないとね。」


ミカが言ったように、たまには親子らしい会話でもしてみよう。

だけども…何を話せば良いのか………その場で考えてみるか。

少しだけ急ぎ足で私は巨匠の仕事部屋まで向かった。


「(うーん…ノックするか?それとも声を掛けてみるか…ええ!考えるな!)巨匠、私です…」


『風源か、入れ。』


2つの内から選ぶなら、2つとも選べばいい。

私は声を掛けながらドアをノックした…最初からこうすれば良かったな。

部屋の中へ入ると他人の部屋特有の独特な匂いが鼻を突く…巨匠の部屋はインクと甘い匂いがする。


「巨匠、さっきまで何か甘いものを食べてましたか?」

「う…よく分かったな。蒸し羊羹をな…ところで何用だ?」

「ドアをちょっと…」


早速私は本題の方へ移ったのだが…巨匠はため息をついて、打っていたキーボードの手を止めた。


「はぁー…全くお前って奴は…外出禁止を破ったのは特別に目を瞑ってやる。」

「巨匠!」

「しかしな!ドアをの方はちょいと目に余るな。」

「…何をお望みで?」

「簡単な事だ。次ドアを壊したら…もう支給してやらないぞ。」


そ、そんな殺生な…ドアが支給されなくなったら暖簾のれんで覆うしかないじゃないか!

すだれでもいいような気がするけど…そんなNOTプライベートな部屋じゃ落ち着いてアレが出来ないよ!

巨匠の様な年増は構わないかもしれないけれど、私みたいな若者は有り余ってしょうがない。

ここは仕方がない…いざとなれば自分のお金で買えば良いだけさ…


「うぐ…分かりました…」

「風源、お前の事を思って言ってるんだぞ?アルバイトなんてもう辞めな。」

「けれども巨匠。私は今の仕事に満足していますよ?それにやりがいも感じます。」

「そうか…なら早速ドアを取りに行くといい。電話で言っておくよ。」

「はい。」


椅子から立ち上がってドアノブに手を掛けた瞬間、巨匠が口を開いた。


「なぁ風源。お前は私が嫌いなのか?」

「…巨匠は母であり、尊敬するべき人間だと思っています。…嫌いではありません。」

「ありがとう…引き留めてすまなかったな。」


私は部屋を出た…背中に位置する扉越しに電話で何かを伝える巨匠の声がする。

何故あんな事を聞いて来たのか分からなかったが…気にはしなかった。

気にするだけ無駄だ…無駄なんだ。

早く倉庫の方へ行って、ドアを受け取ろう。

此処より下の階にある倉庫には海兵隊の皆が居る、海上保安のついでに物資輸送も行っているからだ。


「こんにち…いや、こんばんは。」

「へシェシェ!風源、聞いたぜ?またドアぶち壊したんだってな?」

「まぁね。」


私に話しかけて来たびしょ濡れのサメ人間はクシャーという人だ。

海と映画鑑賞をこよなく愛する熱いようでおちゃらけたアウトローシャーク。


「ホラよ。上等なものだからもう壊すなよ?」

「分かってるよ。もうこれ壊したら後が無いんだ。」

「よくやるぜ。もう将軍困らせんなよ。」

「善処はしてみる。」


今は居ないがクシャーの部下のソルギとサモンという方たちも居る。

性格は…全員どこか似ている感じかな?さぞかし仲が良いのだろう。

挨拶を終えると急ぎ足で自室に戻った、早く修理しないとゆったり休憩出来ない。


「グリゴリンズ!てめぇ!あのアマが逃げたってどういうことだ!」

「すいません…急に姿をくらませまして…」

「草の根を分けてでも探せ!さもないと研究所行きだ!」

「申し訳ございません!今すぐ探してきます!」


フハハハハハ!どうだ!我ながらしっかり修理出来たな!ついでに色々と改善しておいたぞ!

扉が動く速度、程よいドアノブの回し心地、ドアクローザーのおかげで開けっ放し防止も完璧!これ以上ドアに何を望む?まさしく非の打ち所がないドアだ。

開けて閉める事さえ娯楽に感じる…そんなドアを作ってしまったわけだ…罪深いな。


「さてと…タヌキ、お茶淹れて。」

「アタシはタヌキじゃないよ!それに…お茶なんてどうやって淹れるの?」

「ベッドの下にカセットコンロとやかんが置いてある、水は小型冷蔵庫、茶葉と容器は棚だ。」

「洗い物は?」

「奥の洗面所だ。洗剤とかも置いてあるからそれ使え。」


改めて思うが、自分の部屋には随分と物が置いてある。

どれもこれも無駄では無く、珍しい物や面白い物として集めてる。

それと…随分と色々揃ってるのは外出禁止の中で食事等をするためだ、好きでやってるわけではない。


「肉体労働ってさ、お茶淹れるだけ?」

「そんなわけねぇだろ。ここまでぬけぬけと着いて来たお前を逃がすと思うか?」

「ヒィ!?まさか…逃げれない状況で…エッチなことを…!」

「そういう趣味は無いよ。部屋の掃除もって意味だ。」


なんだかこっちが心配になってきたな…寝てる間に襲われたりしないよな?

寝ると言えばキャンドの寝場所はどうしようか?床に寝かせたり、ずっと起きてろなんて酷過ぎだ。

今は使ってない2段ベットを使わせてやるか。

私とミカが寝てるのはお高級なベッドだが、前は2段ベットを使っていた。

しかし、サイズが合わないし、寝心地も今よりかは悪いので放置している。

(たまに使うけど)


「ところで…お前、歳いくつだ?」

「18だよ。風源は?」

「じゅ、17…」


ウソだろ…こいつ私より年上なのか…いや待てよ…私も今年で18になる。

案外同い年なのかもしれない、きっとそうだ、そうに違いない。


「えぇ…年下だったの…」

「私も驚いたよ。」

「幼く見えたけど…1歳しか変わらないんだ…」

「幼く見えるのはしょうがないさ、13の時から身長や見た目が変わらなくなったんだ。」


けれどまぁ…13にしては身長高かったし、いつまでもピチピチでいられるのは良いよね。

なんたって巨匠よりも背は高い!なんならキャンドよりも背はちょっと高い。

だけど…たまにこの見た目のせいで酷い目に遭う事がある、バイト探しだって大変だった。

誰も私が17に見えないと雇ってくれなかったのだ…今努めている場所以外は。


「風源も大変だね…」

「…あのよ、風源って気安く呼んでくれるな…」

「じゃあなんて呼べば良いの?」

「本名の雷城…いや、そのままで良い、風源で良い。」

「へんなの…」


わ、私は風源だ誰が何と言おうと風源なんだ。

待てよ…みんながみんな、風源と呼んでいるからその名を語っているだけであって…私は風源では無い。

だとしたら私は誰だ?風源だ、自分でそう名乗っている、だからこれからもそう名乗ろう。

しかしいつから、そう名乗り始めたのだろうか…もういいや、忘れよう。


「ところで、アタシは一体いつまで働けばいいのよ。」

「そうだな…日給が多くても10ドルだとして…」


自転車の本体費2000ドルに、カスタム代3500ドル、慰謝料5000ドルで合計10500ドルだな。

つまり10500÷10で一番最後の0を消せば良いから1050日になる。

さらにその1050÷1年の日数である365…えーっと…2、余り320?…ええい!もう3年で良いや。

飽きたら解放してあげよう、彼女にも獣人生があるんだ。


「今日から3年働いてもらう…飽きたらすぐに開放してやる。」

「さ、3年…そんなぁ!人を無暗に監禁してはいけないのですよ!」

「獣人であるお前に法律が適用すると思っているのか?それにお前は自らやると言ったんだ。」

「チクショウ…3年か…長いお付き合いになりそうだね…出来ればすぐに飽きてね?」


1ヶ月もしたら自分も飽きるだろう…私はキャンドが淹れたお茶を啜った。

次からお茶くみはさせないようにしよう…酷い味だな、お茶を不味く作れるなんて…


「お前今日はもう寝ろ。明日はからは部屋の掃除をしてくれ。」

「アイアイサー。」


私は…まだ起きていよう、明日も何も無い日なので早く寝たいところだが…今のうちに模型を…

うん?そう言えばコレをドクターに見せるのをすっかり忘れていたな。

今日拾ったサークレットと謎の金属片…本当に何なのだろうか?サークレットはアクセサリー…だよな?

なんとなく興味が沸いた私は危険と思いつつも被ってしまった。

だが被った瞬間、襲って来たのは凄まじい不快感と頭が割れそうなほどの頭痛!


「(な、ななな…何なんだこの頭痛は…!脳をかき回されるような…!)」


直ぐに外そうとした瞬間、何処からともなく知らぬ声が聞こえた。


【死ねい!魔界の使者!!】

「ぐあああ!!」


その声が聞こえて来た瞬間になんとかサークレットを外すことが出来た。

洗面所からはミカトルスが慌てた様子で駆け寄ってきているのが見える…必死で私を呼びかけている。


「ケラァ!ケケラララ!」

「う…だ、大丈夫だ…ちょっとめまいが…」

「ケケレレルッルレラ。」

「嘘だろ…ちょっと鏡を…」


渡された手鏡で自分を見れば、ミカの言う通り目は真っ赤に充血して鼻血もダラダラ流れている。

目は後で何とかするとして…とりあえず鼻にティッシュ詰めておこう。

視界はこれと言って良好なので放置で良いや。

それにしても…キャンドはぐっすり寝てやがる…意外と図太い神経してるんだな。

これ以上何かが起きるとマズい…今日はもう寝てしまおう。

靴を脱いでベッドの奥の方へ横になると、酷く疲れが身体中へジンワリと広がり…私は直ぐに眠ってしまった…


つづく

人物記録帳


アキナシ風源…年齢17歳 誕生日10月10日 星座スティア座

身長170㎝ 体重37キロ 身体的特徴、全身の傷痕 髪色瞳の色共に金色

性的趣向、不明 宗教、無関心(神は信じる) 


風源は自分で決めた事などを直ぐに変える癖がある…ハッキリ言って頭は良くないの一言に尽きるが専門技術と知識だけは無駄に持っている。最近の悩みは自分が本当に女性なのかどうか分からないと思っていることだ。

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