第六話 アクタ
「アクタちゃん……あの友達を見つけた……!」
俺たちは急いで階段を駆け下りる。
「その子は今どこに……?」
「二階の廊下で待ってる。ライラちゃんが来ることは教えてないけど……」
「わかった……ちょっと一分だけ待ってくれるか……?」
「え……なんで……?」
「変身の準備がいるんだ」
俺は近くのトイレに駆け込む。
「カマル、薬を出してくれ」
「了解した」
人間になったカマルは、あの時と同様に魔法陣から注射器を取りだし、俺に手渡す。
「カマル……俺はお前の作った薬を信じるよ……」
「……そうか……」
安心させようと思って言ったつもりだったが、思いの外その表情は曇る。だが、それでも、あの時助けてくれた彼女を俺は信じる。
注射器を握りしめ、トイレを出る。
「スピカ、お待たせ」
「ライラちゃん、あそこ……!」
スピカの指差した先で、壁に寄りかかる少女が一人。顔はひどくやつれ、瞳孔が開き、何も無い遠くを見つめている。
「アクタちゃん、ごめんね、遅くなって」
「え……あ……ううん……大丈夫……」
返事がたどたどしい。まるでついさっきまで彼女の存在に気づかなかったかの様に。
やっぱり、様子がおかしい。
「……! その人は……!?」
俺の顔を見て、警戒したのか、急に表情がこわばる。
「私の新しい友達。ライラちゃんって言うの」
「と……友達……? そ……そっか……」
「初めまして、アクタさん。単刀直入に聞くんだけど、怪しい薬を持っていたりしない……?」
「……!!!」
図星だったのか、彼女は絶望にも近い驚きの表情を浮かべる。
「…………そっか……スピカにはバレバレだったんだね…………それでもって……知らない子にもバラしちゃうなんて……じゃあもう……みんな殺すしかないね……!!!」
彼女はポケットから錠剤の入った瓶を取り出し、一錠、口の中に運ぶ。
まずいーーー
「離れろ!! スピカ!!!」
彼女が薬を飲み込んだ瞬間、爆風が発生する。火傷しそうなほどの熱風、周りの窓ガラスは全て弾け飛ぶ。そして、煙の中からは魔人が現れる。
「ったく……室内でも容赦ないな……!」
俺も薬液を腕の静脈へ注入し、俺は魔法少女に変身する。
「じゃっ☆ アタシも容赦なくイクよ〜☆ 女の子相手だからって手加減しないんだから☆」
彼女は触手を伸ばして、スピカの身体を引き寄せる。
「なっ……やめてっ! アクタちゃん!」
「これなら攻撃できないでしy……」
俺は人質も御構い無しに、アクタの顔面に拳を打つ。
「がはっ……!」
彼女はスピカの身体を手放して、後方の壁まで吹き飛ばされる。
「あれ〜☆ 容赦しないって言ったじゃん☆ カモン!【魔廻転鋸】☆」
ギュオオオオオオオオオン!!!!!!
【魔廻転鋸】は嬉しそうに、高速で刃を回す。
「チェックメイトです☆」
「あががががががががイダイイダイイダイイイイイイイ!!!!!!」
大量に吹き出る血液が、俺のフリルのドレスを真っ赤に染め上げる。
「うぐっ……こっ……殺して……」
彼女がそう口にした瞬間、魔人から人間の姿へと戻った。
それを確認して、俺も変身を解除する。
「アクタちゃん……!」
スピカがすかさず駆け寄る。
「……スピカ……ごめん……あんなことして……私どうかしてた……」
「ううん、いいの……! アクタちゃんが無事なら……!」
涙を流しながら抱き合う二人。
「この程度で勝てたと言うことは、彼女もそこまで薬を使い込んでなかったみたいだな」
カマルが耳元で囁く。
「そうだな……」
とりあえず、スピカの依頼はこれで解決だ。あとはーーー
「アクタさん……」
「ああ……えっと…………ライラさん、ありがとう。私を元に戻してくれて……」
「いや、そんな大層な事じゃないです…………それより、一つ聞きたいことが……」
「何?」
「その薬、どこから手に入れました……?」
「……街中で……知らない人からもらった……」
アクタは、目をそらしながら答える。
「……本当に……?」
「本当」
今度は俺の目を直視して言う。まるで、これ以上詮索するなと訴えかけるように。
「そっか……わかった……」
彼女はスピカに支えられながら、保健室へ歩いて行った。
「な〜んか怪しいなぁ……」
「カマルもそう思うか」
「誰かに弱みを握られているのかも」
「確かにな……」
「となれば、元凶を突き止めるまで、しばらくこの学園にい続ける必要があるな……」
「そうだよなぁ……」
アクタが大きな手がかりになると思っていたが、実際はそう簡単には行かないらしい。
「あっ……そうだお金……」
”ベガ”の銀行ギルドはつい先日凍結させられたばかり。このままでは、学費も、生活費も賄うことができない。
「ど、どうしよう……」
俺はカマルに相談する。
「? そんなの、簡単じゃないか」
「え?」
◆◆◆
「【ボルケーノ・インパクト】!」
「【ボルケーノ・インパクト】!!!」
「【ボルケーノ・インパクト】オオオオオオ!!!!!」
俺は三日間、放課後に受けられる限りのクエストをこなし続けた。
「すごい! ライラさん!!」
「こんな若手で優秀な魔術師が生まれるとはなぁ……」
「ライラさん! あのベガとか言う極悪人もやっつけちゃってください!!」
「あはは……ありがとうございます……」
それ、俺のことなんだが……
「ライラさん! これが今回の報酬です!!」
「ありがとうございます……」
「これでしばらくはなんとかなりそうだな。むしろちょっと贅沢できるんじゃないか?」
「そんな無駄遣いはできねえよ……」
偽名とデタラメな個人情報で冒険者登録できてよかった……まあ、バレたら正真正銘犯罪者なんだが、こればっかりは仕方がない。
住まいは、学園内の寮を借りることにした。なんでも特待生は家賃を免除してくれるらしい。真面目に魔法を勉強してきて本当に良かった。
夜、寮に帰ると、疲労がどっと押し寄せてくる。堪らず、ベッドに倒れ込んでしまう。
耳を澄ますと、雨音が聞こえてきた。ちょうど今降り出したらしい。
……あの日は、屋根すらなかったんだよな……
ふと、追放された日のことを思い出す。こうしてみると、今まで自分がどれだけ恵まれていたのかを再確認する。
「……で、なんでお前もベッドにいるの?」
「私だって君に付きっきりで疲れたんだよ……! 少し寝かせてくれ……!」
「せめて猫になっとけよ……! 一人分のベッドに二人は狭いだろ!」
「猫になるのも体力使うんだよ……そもそも、なんで今更文句を言うんだ! 昨日一昨日も添い寝したじゃないか!」
「そっ……添い寝とか言うな……!」
一つ屋根の下、男女が同じベッドで寝てるって問題ありすぎだろ……! あっ今は俺も女か……いやそういう問題では無くて……
昨日まではあまりにクタクタで、気にする余裕なんてなかったが……
「………」
カマルはもう寝てしまったらしい。雨音が、さらに強くなっていく。もし、あの時彼女と出会っていなかったら、今頃どうしていたんだろうか……
「……ありがとな」
彼女の寝顔は、少しだけ笑っているようにも見えた。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「はよ更新しろ!!」
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この物語はフィクションです。薬物の使用を促進する意図は御座いません。