第四話 魔法学園
カマルは黒猫の姿に戻って、俺たちはアリエス市を後にしようとしたその時、強盗犯に人質にされていた少女が駆け寄ってきた。
「あ、あの……!」
「君は……あの時の……」
「えっ! 私の事知っているんですか?」
どうやら、彼女を助けた俺と今の俺が同一人物だということに気づいていないらしい。
「……いや、ごめん。勘違いだったみたい…………きm……アナタの名前は?」
「私、スピカって言います! さっきの戦い見てました! 貴方様が怪物をやっつけてくれたんですよね!」
「う、うん……まあ……」
「すごい……! あの……名前聞かせてもらっていいですか……!」
「えっと…………”ライラ”って言います……」
「ライラ様……!」
スピカは目を輝かせながら俺の偽名を口に出す。
「あの……”様”とかつけなくていいから……! あと……敬語も……アタシ達、多分歳も近いよね……?」
「そ、そんな……! なんて謙虚な……! えっと……じゃあ……ライラ”ちゃん”!!」
「ちゃっ……”ちゃん”!?」
「い、嫌だった……?」
「べ、別にそんなこと無いけど……」
”ちゃん”だなんて、幼い時に親戚に呼ばれた以来じゃ無いか……!? しかもこの歳で、同年代の女の子に呼ばれるなんて……!
カマルが肩の上でニヤニヤと笑っているのがわかる。クソッ……猫のくせに……!
「……で! おr……アタシのところに来たってことは、何か用があるんだよね……!」
そう聞くと、キラキラした笑顔を浮かべていたスピカの表情は急に曇り出した。
「あの……私の学校で……変な薬が出回ってるって噂があるんです……」
神経が張り詰める。あんな代物が、学生の間で出回ってるって……!?
「その噂が流れ始めた頃……私の友達も急におかしくなっちゃって…………もしかしたら、あの男の人と同じ薬を使ってるんじゃ無いかって……!」
あの男も、魔人に変身する前から様子がおかしかった。彼女の推測は当たっているかもしれない。
「……カマル……」
俺は小声でカマルに呼びかける。
「ああ……これは【悪魔の贈物】の出どころを掴む重大なヒントになるかもしれない……」
「……? 誰かと話してます?」
「ん……!? いや、何もないよ!?」
スピカは不思議そうに俺の顔を覗き込む。危ない危ない……さっきカマルに、私の正体はバラすなと釘を刺されたばっかりなのだ。理由は教えてくれなかったが……
「とにかく! アナタの友達を元に戻してあげればいいんだよね! そしたらまず、どうしたらいいんだろう?」
曇っていたスピカの表情は、また晴れやかな笑顔に戻る。
「そしたら、私たちの学校にまず入学して!」
……え?
「いや……別に入学しなくても、友達をアタシに会わせるだけでいいんじゃ無いかな?」
「そうしたいんですけど……きっとあの子、警戒して会ってくれないと思う。だから、ライラちゃんの方から来てもらわないといけないの……」
学校に行くってことは、生徒や教師とたくさん顔を会わせるってことじゃないか……! いくら性別が違うからって、そんなことしたら正体がバレてもおかしく無い……!
「ライラ”ちゃん”、これは行った方がいいんじゃないか? 彼女の友人に会うだけで、奴らの尻尾を掴むのは無理があると思うんだが……」
「カマル……”ちゃん”は余計だ……」
だが、カマルのいうとおり、その子一人だけで手がかりを掴むのは難しい。それに、噂が立つということは彼女以外にも被害者がいる可能性がある。
「……わかった……入学するよ……」
ありがとうございます! とスピカの声が街中に響く。致し方ないとはいえ、大丈夫なんだろうか……
◆◆◆
エトワール国立魔法学園ーーー 偉大な魔術師を目指す子供達の為に、新しく設立された学園である。
普通、俺を含め、魔法は家庭から、または独学で学ぶものであったのだが、さらなる高みを目指す子供たちの為に作られたらしい。
正直、今まで独学でやってきた俺からすれば、こんなもの必要なのかと疑問に思わなくもないが、国全体の魔術力は近年高まっているらしい為、意味はあるのだろう。
「あの、新しい入学希望者の子がいるんですけど」
スピカが受付にいる中年の女性に話しかける。
「こ……こんにちわ〜……」
続けて挨拶した俺を、彼女はギロリと睨む。
「……名前は」
「ライラ…………クロフィールです」
「ライラさんね。じゃあ、まず入学試験を受けてもらいます」
試験なんかがあるのか……誰でも入れるわけじゃないんだな……
「この紙をもって、練習場に向かってください。 監督役の先生がいると思うので、その人に紙を見せて」
「わ……わかりました……」
「じゃ、頑張って」
「あ……あの……」
「何?」
「アタシ……今魔導具持ってないんですけど……それでも試験受けれますか……?」
「ああ……それなら、教師の人に貸してもらって。初級魔導具しかないけど」
「あ、ありがとうございます……」
受付が終わって、俺は大きなため息をつく。
誰かと顔を会わせる度に肝を冷やさなければならないのは、正直しんどい。
「ライラちゃん、大丈夫……?」
「う、うん大丈夫……」
「緊張してるかもしれないけど、きっとライラちゃんなら試験なんて楽勝だよ!」
「そ、そうかな……?」
まあ、緊張の原因はそこじゃないんだが……でも、励まそうとしてくれるのは素直に嬉しい。
「ありがと」
「え! そんな! 感謝されるようなことしてないよ……!」
「いや……励ましてくれるだけでも嬉しいよ」
本当に。こうやって普通に会話できることだけでもどれだけありがたいか。そういう意味では、性別が変わってよかったのかもしれない。
「えへへ……そうかな……? あっ、もう着いたよ!」
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この物語はフィクションです。薬物の使用を促進する意図は御座いません。