第三話 魔法少女
「おい、おっさん!」
「……は?」
「俺ともう一回タイマンしろよ……!」
「誰かと思ったらぁ……さっきのガキか……! いいぜ……そっちがその気なら……今すぐ殺してやるヨオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」
敵の注意がこちらに向いた時、俺は薬液を静脈に注入する。
瞬間ーーー
大きな目眩。身体が後方に、頭から倒れていく。地面にぶつかった衝撃で、俺の意識が肉体からすり落ち、地下深くへ落ちていく。土の中を抜けると、そこは空の中。まるで上下反転したような空で、上ではなく下にずっと続いている。
色も変な感じだ……空って青色だったよな……でも凄く強烈で、カラフルな色をしている。
空を抜けると、そこは満天の星の世界。あの夜アルタイルと見た夜空が、全方位に広がっている。遠くには、細かい星が集まって、虹色の渦を作り出している。
あっ……これは魚かな……魚見たいな生き物が、僕を囲んで楽しそうに泳いでいる。
心地よい浮遊感。ああ……ずっとここにいたいなぁ……
しかし、楽しい夢は突然終わるーーー
急に景色が暗転する。虹色の星雲も、空を漂う魚も、突如消える。
そして、自分の意識は裏路地に転移する。無限に続く裏路地、俺は止まっているのに、裏路地の方が猛スピードで駆け抜けていく。
「なっ……なんだこれ……!!」
『ケケケケケケッ!!!』
後ろから不気味な笑い声。振り返ると大量の悪魔が、こちらを見て不気味にあざ笑っている。
「うあああああああーーー!!!」
思わず逃げ出そうとするが、悪魔の持っていた鎗が背中を貫き、俺はその場で倒れ込んでしまう。
「ああっ!!! 痛いっ!! 痛いいいいいいーーー!!!!」
俺が痛みに悶えている間に、悪魔は近寄ってきて、今度は俺の四肢を貪り始める。
「やっやめてくれ……!! 喰わないでくれっ……!!!」
「悪魔に身を委ねろーーー」
「えっ……」
気づくと、先程の猫耳の少女が、俺を見下ろしている。
「痛み、恐怖に惑わされるなーーー全てを受け入れろーーー貴様はなんのために力を欲すーーー」
「なんの……ため……」
そうだ、俺は奴と戦うためにここに来たのだ。
悪魔は俺の四肢を喰い終えたのか、腹や頭を喰い始める。肉が剥がされ、頭蓋が露出する。
「俺は……アイツと守ったこの国を……荒らすヤツを許さない……!!」
刹那ーーー
暗闇が晴れて、薬を打つ前の景色に戻る。目の前には、さっきの魔人が剣を振りかざしている。
やばいーーー!
咄嗟にでた拳は、敵の身体を遥か遠くまで吹き飛ばす。
「ええええっ☆!!!」
あまりの力に驚いてしまう。
自分の身体を確認すると、なんか可愛いフリフリや、リボン見たいなものが付いている。しかもーーー胸もある。
「なんか可愛くなっちゃってるんですけど☆!!??」
俺は近くにいた猫耳の少女に問い詰める。
「ふむ……とりあえず魔人になることは避けられたか……これはさながら魔女……いや、”魔法少女”と言った方が合ってるかもな」
「冷静に分析しないで☆!!」
「うぐっ……うう……」
さっきの男が、瓦礫から出てくる。流石にパンチだけでは倒せないか。
「テメェ……! ふざけやがって……!! ブッコロオオオオオオオオオオオス!!!!!」
やっぱりなんか武器が欲しい……!
そう念じると、手元に武器が現れた。長い棒の先に、巨大な回転ノコギリが付いている。
「そい☆」
「あぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!!!!」
凶悪な回転刃は、敵に確実なダメージを与える。それに苦しむ相手を見て、なぜか、自分が興奮していることを自覚する。
「あっは☆ なんかRock'n'Rollってカンジィ〜☆」
ヴヴヴヴヴヴとノコギリは唸りながら、回転速度を上げていく。
「グギギギギぎぎぎぎぎいいいいいい!!!!!」
同時に、男の悲鳴もヒートアップする。
「まだイケるよね☆ 君の殺した人間分の痛みには、まだまだ足りないヨォ〜☆」
「ううううう……!!! もう無理……!!」
「ったくしょうがないなぁ〜☆ じゃ、”フィニッシュ”しちゃいますか☆」
「えっ……」
「汝、その身を持って、罪を償えーーー
【鋼鉄の処女】ーアイゼルネ・ユングフラウー」
女神をかたどった鋼鉄の棺が、男を閉じごめる。中にある幾千もの釘が肉体を刺し、血液が溢れ出る。
「終わった……」
敵を倒して安堵すると、自然と身体が元に戻っ……ってない!?
可愛いフリルのドレスやリボンは消えて、元の服装に戻っていたが、性別が戻っていない。
「ちょっ……どういうこと!?」
「ほう……性別は戻らないのか……私の猫耳と同じ感じか……」
「だから冷静に分析すんな!」
「まあいいじゃないか! これで君はコソコソ行動しなくて済むってことだろ?」
確かに、性別が変われば、正体もバレにくくなるかも……
「…………あの男は……?」
「……あそこに」
彼女の視線を追うと、さっきまで魔人だった強盗犯は、人間の姿で這いつくばっていた。
俺たちが近づくと、彼は悲鳴を上げながら後ろに仰け反る。
「はぁっ……! こっ、殺してくれぇ……!! 俺は……取り返しのつかないことを……!!」
俺は彼の豹変振りに驚き、少女の方を見る。
「恐らく……薬の効果が切れて、理性を取り戻したんだろう。それで、今になって罪の意識に苛まれているみたいだな」
そうか……なら、この力で、アルタイルも……
「残念ですけど、あなたは殺しません。今度は法の元で、ちゃんと罪を償ってください」
「わかった……自警団に自首して来るよ……」
「それと、アルタイルについて何か知っていませんか?」
その名を発した時、一瞬彼の表情が引きつった。
「……双星の勇者だろ……誰だって知ってるよ……」
「そういう事じゃないです。彼とその薬の関係に心当たりは?」
男は驚いた表情でこちらを向く。
「そうか……そこまで知ってるのか……」
男は一瞬躊躇ったが、
「あくまでこれは人づてに聞いた話なんだが……俺にこの薬を売った奴は、アルタイルの手下らしい……俺以外にもたくさんの人間に売り捌いてるんだってよ……」
なっ……なんだって……
「俺が知っているのはここまでだ。じゃあな……」
彼の言葉を受け止めきれず、しばらく放心状態になる。
だが、これでやるべきことは見えた。
「あのさ……君の名前って……」
俺は猫耳の少女に聞く。
「私かい? 私の名前はカマルだよ」
「そうか……じゃあカマル、俺と一緒に、【悪魔の贈物】を根絶しないか……!」
俺の言葉に、カマルは不敵な笑みを浮かべる。
「フッ……君ならそう言ってくれると思ったよ……」
カマルは俺に握手を求めながら、話を続ける。
「〈双星の勇者〉ベガ、私と一緒に、悪魔を殲滅しようーーー!」
「面白かった!」
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この物語はフィクションです。薬物の使用を促進する意図は御座いません。