第二話 悪魔の贈物
雨は止み、夜が明ける。
身体は疲弊しきっていたが、心は少し軽かった。昨日思いを吐き出したお陰だろうか。
俺は立ち上がって歩き出す。ここでじっとしていても仕方がない。とにかく働き口を探さなくては。必要なら、名前を変えてでも雇って貰らおう。
まず俺は、新人冒険者として新たに登録出来ないか試すことにした。目立たない道を選びながら、辺境の冒険者ギルドに向かう。
「にゃ〜……」
「え……?」
振り返ると、昨日会った猫が俺の後ろをついて来ていた。
「そっか……独りぼっちはやだもんな……」
俺は彼を抱き上げてから肩に乗せて、目的地へと歩いていった。
◆◆◆
アリエス市は、エトワール国の中でも特に小さな街である。冒険者ギルドも、俺が普段お世話になっていたところよりもかなり小規模だ。
「新人冒険者の登録ですね。お名前を伺ってもよろしいですか?」
かと言って、俺の名前が広まっていないとは考えずらい。顔が見られないようにフードを深く被って、偽名を受付嬢に伝えようとしたその時ーーー
「おい! そこの受付嬢! 金を出せ!!」
突然、背後から男性の叫ぶような声が聞こえる。男は近くにいた女冒険者の首に片手剣を当てて、人質にしている。
その瞬間、ギルドにいた人間がざわめき出すが、
「騒ぐんじゃねぇ!! も……もし自警団なんか呼んだら、この女を斬り殺すぞ!!」
その一言で、ギルド内は静まり返る。
「おい受付嬢、早くしろ」
「は……はい……!」
受付嬢は怯えた様子で、裏の方へ駆けていった。
どうするーーー
不意をついて男に突撃するか。しかし、男は俺よりも年上で、身体も大きい。俺は魔法の扱いには慣れているが、格闘戦はこれっぽっちも出来ない。そういうことはアルタイルに任せっきりだった。今は杖も持っていないから、魔法を使うことも出来ない。
俺がうだうだ悩んでいるうちに、受付嬢が裏から戻ってきた。
「……よし……やっと用意できた……か……?」
受付嬢の後ろには、強盗犯の男よりもさらにでかい図体の男が二人並んでいた。
「おっさん、うちの大事な冒険者に手ェ出してもらっちゃ困るよ」
「受付のねぇちゃんもビビらせたんだ、あとはどうなるか……わかるよな……?」
屈強な警備兵の一人が、強盗犯を蹴り飛ばす。
「グハッ!!」
男の身体はギルドの外まで吹き飛び、もう一人の警備兵が、彼の胸ぐらを掴む。
「二度とこの街に来るんじゃねぇぞ」
警備兵はそう言い捨てて、立ち去ろうとする。
「ククッ……ハハハハハハハ!!!!」
ボコボコにされて道に座り込んでいたはずの強盗犯が、突然笑い出した。
「どいつもこいつも俺を舐めやがって……!! だが……それも今日で終わりだ…………俺は新しい力を手に入れたんだからなぁ!!!!!!」
男はポケットから注射器を取り出す。あれは、アルタイルが使っていたのと同じーーー
「みんな、逃げろーーー!!!!」
俺が叫んだ時にはすでに、彼は薬を注入し終えてしまった。周りに爆風のような強烈な熱風が発生して、警備兵たちがいともたやすく吹き飛ぶ。
男の身体から発生した煙が晴れると、およそ人間とは思えない、悪魔のような姿に変貌していた。
男は歩き出すと、まず警備兵の二人の心臓を貫いた。そのあと、近くにいる人間を無差別に殺し始める。
街の人々は悲鳴をあげながら逃げ惑う。男は先程人質にした女性の方へ近づいて来る。
やめろ、これ以上ーーー
「殺すなああああああああーーー!!!!!」
俺は無謀にも、生身のまま悪魔の身体に体当たりした。男はビクともしなかったが、注意は俺の方へ向いた。
「なんだ……お前……此の期に及んでも……俺に歯向かうのかああああああ!!!!!」
男は激昂して、右手に握った剣を俺に向かって振り下ろす。
しまったーーー
「【ボルト・パルシー】」
その瞬間、電撃が敵の身体を巡り動きを止める。
後ろを振り返ると、白いコートに身を包んだ、黒髪で……猫耳?のついた少女がそこに立っていた。
「早く逃げるぞ!!」
言われるがまま、彼女と共に走り出す。
「君は……?」
「は? さっきから一緒にいたじゃないか」
「え……?」
「……この耳を見ても、まだ気づかないのか?」
「……あ」
さっきまで肩に乗っていた黒猫が消えている。とすれば、彼女がーーー?
「無策で”魔人”に飛び込むなんて、君はホントにバカだな」
「……でも、あの子は逃げられた」
「それで君が死んだらプラマイゼロじゃないか。あの子の命にそんなに価値があるとは思えないけどね」
「なっ……!」
こいつ、人の心がないのか……!?
「……さっき”魔人”って言ってたが、あいつのこと、何か知っているのか?」
「……【悪魔の贈物】、それが、君の友人とあの男を変えたものの正体だ」
「【悪魔の贈物】……」
「その薬を一度摂取すれば、魔法でも太刀打ち出来ない、強力な力を得る代わりに、脳内は悪魔に支配される」
「悪魔に支配されるって……?」
「要するに中毒になるってことだ。まともな思考能力を失い、力に依存する」
「……奴を止める方法は……?」
「……ある……一つだけ…………」
「じゃあ早くそれを使えよ……!!」
「ったく、簡単に言うなよ……」
彼女は顔をしかめながら魔法陣を生成し、そこから一つの箱を取り出した。
中に入っていたのは、アルタイルやあの男が使っていたものとほぼ同じ注射器だった。
「これは私が独自に改良した【悪魔の贈物】だ。悪魔に勝つには、悪魔の力しか無い」
「そ、それって……奴と同じになるってことか……?」
「わからない。そうならない様に作っているが、まだ試したことのない試作だ」
もしこの薬に呑まれたら、俺は……アルタイルと同じ様に……
「さあ、どうする。君は悪魔に身を委ねられるかーーー?」
また、建物の崩れる音が聞こえる。さっきの魔法が切れて、また男が動き出した。
迷っている暇は、無いーーー
俺は彼女の手から注射器を奪う。
「やってやる。この国を守る為ならーーー!」
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「はよ更新しろ!!」
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この物語はフィクションです。薬物の使用を促進する意図は御座いません。