第一話 追放
「ベガ、今日からお前クビな」
「……は?」
それは余りに唐突な宣告だった。
「急に何言い出すんだよアルタイル、冗談にしては笑えないぞ……!」
俺は苦笑いしながら答える。
「冗談だって? 俺は本気さ」
彼はそう言いながら、ポケットから注射器のような物を取り出す。
そして、慣れた手付きで自分の腕に薬を注入すると、突然彼の肉体がボコボコと蠢いて、悪魔のような姿へと変貌した。
豹変したアルタイルは、怪物の様な手でベガの首を掴む。
「ハハハハハハハハハハッ!!!!!! 無様だなぁベガ!!!!!! 俺はもうお前がいなくても最強なんだよ!! 力も、金も、人も、全部俺のものになったのさ!! だからもうお前は用済みなんだよ!!!!」
男の身長以上に長く伸びた腕を振り回し、俺を壁に叩きつける。
「まあ俺も殺しまではしねぇよ。だからさっさと失せろ、ゴミ屑」
そう言いながら、アルタイルは俺が長年愛用していた杖を踏み潰した。
俺は逃げ出す様に、その場から立ち去る。
なんだ……何が起きてる……!? アルタイル、お前は俺とずっと一緒に戦ってきたじゃないか? あの友情が偽物だったとは到底思えない。俺があいつに何かしたっていうのか……?
ドンッ!
しまった、考え込みすぎて人にぶつかってしまった。
「すみませ……」
ぶつかってしまった相手の男性が、物凄く驚いた顔でこちらを見る。
ぶつかっただけで、そんなに驚くか……?
「あ……べ……ベガだ……!!!! 自警団、早く来てくれ!!!!! ここに国家反逆罪の大犯罪者がいる!!」
一瞬何を言っているのか分からなかったが、これは……もしかしてアルタイルが……?
俺は自警団が来る前に、全速力で逃げ出す。
「あっ……ちょっと待て!!!!」
どうやら俺は、パーティーを追放されただけで無く、犯罪者にまでされてしまったらしい。これでは、もう冒険者どころか、街で生活することすら出来ない。
俺は諦めて、目立たない路地を通りながら、街の外れにある自分の実家へと向かった。田舎の方になら、まだ情報は行き渡っていないはずだ。
「どうして帰ってきた、ベガ」
実家で待っていたのは、暖かい出迎えでは無く、恐ろしいほどに厳しい表情をした父親と、部屋の隅で泣き喚いている母親だった。
「俺たちはもうお前の親じゃない。帰れ」
弁解することも出来ぬまま、俺は締め出されてしまった。
「……雨か」
俺は行くあても無く、路地裏でずっと座り込んでいた。銀行ギルドも、俺の口座を凍結させていて、宿に泊まる金すら今は持ち合わせていなかった。もっとも、あったとしてもチェックインで止められてしまうだろうが。
暗がりの中で、アルタイルと過ごした時間を思い返す。
◆◆◆
「【ボルケーノ・インパクト】!!!」
俺が生み出した炎が、周りの雑魚モンスターを一掃する。
「ハアッ!!!」
大剣を持ったアルタイルが、敵の親玉目掛けて突っ込んで行く。
「これで終わりだああああ!!!!」
アルタイルは大剣を斜めに振り下し、敵の体は真っ二つに切り裂かれた。
「ありがとうございます! 双星の勇者様!」
「そんな、勇者だなんて大袈裟だよ。今回はベガが雑魚を殲滅したから上手く行ったんだ。お礼ならあいつに言えよ」
「そんなことない。アルタイルの単体火力は俺が知る中で最強だ。お前がいなかったら、戦いはもっと長引いてたよ」
互いに謙遜し合う俺たちを、村の娘は微笑ましいと言わんばかりの表情で見る。
「村の人たちみんなで勇者様の為にご馳走を作ったんです! 早くこっちに来てください!」
「そ、そんな悪いよ……!」
「まあまあ、せっかくだしご好意に甘えようぜ。 明日は魔王軍との最終決戦になるんだ、今日はしっかりと休もう」
遠慮する俺に、アルタイルは言う。
「……なあ、アルタイル」
「なんだ?」
「俺たち……本当に魔王に勝てるのかな……?」
「おいおい、今更弱気になってんのか?」
不安で曇る俺と違い、アルタイルは優しく笑いかけた。
「俺たちは双星の勇者、一人では無理でも、二人で出来なかったことなんてないだろ?」
「……そうだな。ごめん、心配かけて」
「いいんだよ。さっ、早く行こうぜ」
◆◆◆
あいつの優しい微笑みを思い出すだけで、涙が溢れそうになる。何があいつをあそこまで変えてしまったのか。あの時使っていた注射は、あの悪魔みたいな姿は、いったいなんだったのか。
それとも、ただずっと、俺のことが嫌いだったのか。
「にゃ〜……」
うずくまっていた俺の所に、一匹の黒猫が近寄ってくる。
「お前もはぐれものか……?」
猫は返事をする事なく、目の前で丸くなる。
「俺さ……ずっと一緒だった相棒に追い出されちまったんだ……お前もおんなじか……?」
猫は何も言わない。
「アルタイル……お前、一体どうしちゃったんだよ……俺が、お前に何かしたのかよ……!」
話し相手が出来た安心感からなのか、堪えていた涙が溢れる。
雨に濡れながら、俺は野良猫の目の前で無様にも泣きじゃくった。
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この物語はフィクションです。薬物の使用を促進する意図は御座いません。