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第九話『ラボ』




校外学習当日


太陽がまだ白い光を放っている時間、学校ではバスに乗る準備をする生徒と先生で賑わっていた


「はい、生徒の皆さーん!今からしおりを配るので受け取った人から順番にバスに乗って下さーい!」


校外学習の責任者である多田は声を張りながらしおりを配り始めていた。


「マモルくんーそわそわしてるのかなー?なんやかんや言っても楽しみなんだろー??バス一緒に座ろうぜ!」


タクマはそわそわしてる俺にそう言うといつものように肩を組んで脇腹をつついてきた。


「まぁやっぱ当日になると遠足みたいな気分でわくわくするよな。」


乗車待ちの列に並ぶ俺とタクマは乗る前から『席どこにする?』とか『車内で何して遊ぶ?』とかいろいろ話してテンションが高まっていた。するとそんな俺たちの後ろの方から聞き馴染みのある声が聞こえた。


「そこの2人楽しんでるね〜。ねぇ一緒のバスに乗ろうよ!4人の方がきっと楽しいよ!」


「私もマモルくんと一緒に乗りたい。」


声の方に振り向くとそこには鈴香とサクラが仲良く手を繋いで列に並んでいた。


「お!鈴香じゃん!でも鈴香って教室別だからバスも別なんじゃないの?」


するとそれを聞いた鈴香は怪訝な顔つきになり、両手を腰につけ説教するように言葉を被せてきた。


「なーに言ってんのよ、先生の話ちゃんと聞いてたー?バスは教室ごとじゃなくてクラスごとに分けられてるのよ。私もAIのクラス選んだんだから一緒のバスに乗れるのは当然じゃない!」


と不服そうな表情で腕を組んだ彼女を他所に俺たちはバスに乗り込み後ろ側の席を選んだ。


「ねぇ見て!このバス席が回転するタイプだ!」


鈴香の言うとおり席は2席ずつが全て進行方向に向かって並んでいたが、レバーを引くと自由に回転する仕組みだった。

そして俺とタクマ、鈴香とサクラが隣合わせになるように座りお互いが向かい合う形になった。


「やっほー!!なんか遠足みたいで楽しいねー!!」


席に座るや否やはしゃぎ倒す鈴香とタクマ。


「そうだ!俺実はトランプ持ってきたんだ!とりあえずこれで遊ばない?」


「お、いいねー!」


そう言いながらタクマはリュックの中からボロボロに使い古されたトランプを取り出し、切った後俺たちに配りはじめた。

するとサクラは自信なさげにボソッと呟いた。


「私トランプで遊んだことない。」


サクラのその一言にみんなは唖然とした。


「え、一度も?珍しいね。大体幼少期にみんな通る道だと思ってた!それじゃあやり方教えるね!」


そう言うとタクマは丁寧にルールを教え俺たちは目的地に着くまでの間トランプを楽しんだ。


「「サクラちゃん頑張って!」」


ババ抜きの最後、俺はサクラと一騎打ちをしていた。

先に上がった2人は貴族のような余裕ぶりをかましてサクラの応援に勤しんでいた。

そしてそんなサクラは俺の持っている2枚のカードのどちらかを慎重に選んでいた。


「ぐふぅ、ほんとにそっちでいいのかぁ?そっちで本当に後悔しないのかぁ??もう一枚の方が良いんじゃないのかー?」


俺は掴まれたスペードのキングを引っこ抜かれないよう力強く掴みもう一枚のジョーカーを引くように誘導した。

がその努力も虚しく、結局俺の手元には1枚のジョーカーだけが残されていた。


「やった。」


サクラは嬉しそうに顔を和らげた。


「サクラちゃん良かったね!勝ったよ!!」


鈴香とタクマは応援した甲斐があったと言わんばかりに喜んでいた。


「どうだった?トランプ楽しかった?」


タクマはまたトランプを切りながらサクラに感想を求めた。


「うん。楽しかった!」


俺は久しぶりに人間味のあるサクラを見た気がした。そういえばなんでこんな暗くなったんだっけ?んーまぁなんか嫌なことでもあったんだろ。あまり詮索するのも良くないだろうし。。


「みんなー!そろそろ着くわよー!」


目的地に近づくと多田は生徒にバスから降りる準備をする様伝えた。窓の外を見るとそこは森や木ばかりに囲まれた都会からかけ離れた空間だった。


「んー!!!!」


「やっとついたー!!」


「カラダバッキバキ!」


バスから降りて大きく伸びをする鈴香を見てマモルたちも長旅の緊張をほぐすようにカラダを動かした。


「じゃあ皆さんAIラボに案内するので私についてきてくださーい!」


多田の指示に従い後ろをついて行くと、AIラボの全体像が徐々に露わになっていった。真っ白に包まれたその外観はかなり大きく、いかにも何かの実験してます感の漂う施設だった。

研究所内部に入るとガイド係であろうベリーショートで艶のある赤い髪が特徴的な20代後半ほどの女性が1人立っていた。彼女は俺たちに気づくや否や姿勢を正し礼儀良く挨拶した。


「みなさまようこそ!AIラボラトリーへ!私は本日、館内のご案内役を務めさせていただきます『加藤』と申します。よろしくお願いいたします。」


ふくみ笑う彼女の口元からは従順で全てをそつなくこなしそうな様が見て取れた。そして優しく笑いかけるその目つきには少し切なげで不穏な雰囲気すら感じた。まるでこちらの考えを全て見透かしているような。。そんな感覚に。


だがそんな彼女の深々とお辞儀する姿はこの研究所の安全性をそのまま映しているようにも見えた。


「では早速こちらへご案内いたします。」


そうして案内されたのは至る所に模型が展示されているだだっ広い広場だった。


「こちらはAIヒストリー広間でございます。ここではAIがどのように進化を遂げて行ったのかを学ぶことができます。」


「へーすごーい!」


生徒たちは好奇心旺盛に各地に設置されている模型とその手前に表示されている資料を見て悦に入っていた。

そしてマモルも館内をじっくりと見て回っているととある物に目がいった。


「人工知能リア?」


「なんだろうねこれ。」


マモルとサクラは1枚だけ置かれた小さな電子回路版のようなものを凝視していた。


「そちらは今年8月31日に本格的に始動するAIサクラリアになる前の試作第一号機です。よろしければご説明いたしますね!」


「うぉお!!」


慌てて振り返るとガイドがにっこりとした顔で立っていた。

横にいたサクラは側に添うようにスッとマモルのカラダに触れた。


「あ、はいお願いします。」


「はい!ではまずこちらからご案内いたします!」


そう言うと彼女はゆっくりと歴史を追うように歩きはじめた。


「1950年ごろ人工知能の開発がスタートいたしました。そして初めて開発された人工知能がそちらの『リアタイプ』となります。」


ガイドを追うようにしてマモルとサクラも資料を読みながら後をついていった。


「そして年月をかけリアタイプの改良を重ねました。第一次AIブーム、第二次AIブーム、改良に改良を重ねた結果2030年、AIサクラリアのプロトタイプ機の製造にようやく成功いたしました!」


そして彼女はこちらに顔を近づけボリュームを落として話を続けた。


「ちなみにこれはオフレコなんですが噂ではこの段階で既に技術的特異点を通過していた、つまりレベル5に到達していた、なんてこともまことしやかに囁かれているんです。それほどこのAIサクラリアの誕生は研究者達の間で大騒ぎになったみたいです。」


「え、そうなんですか?」


「はい。。」


少し驚くマモルを見て今度は少し暗い顔でガイドはまた続けた。


「ですが残念ながらここからAIが進化することはありませんでした。」


「………何かあったんですか?」


マモルは俯くガイドからプロトタイプの模型に視線を移して質問した。


「このプロトタイプのAIサクラリア、完成した直後に一切のアクセスを拒絶し始めた、との記録が残されているんです。」


「なんで。。」


マモルの不安そうな視線を他所にガイドは少し溜めたがまたすぐ笑顔に戻り口を開いた。


「でもご安心ください!そこから技術革新を経たこともあり、無事今年『サクラリア』として大日本帝国のお役に立てることとなりました!それではみなさん次の部屋へご案内いたします!」


周りでタクマや鈴香が模型に目をキラキラさせている中、ガイドはみんなを連れて別の部屋へ移動しはじめた。


「行こ?」


「ん?あ、あぁ、そうだな。」


何を言うわけでもなくじっと模型を見つめるマモルにサクラはそう言うと2人はみんなの後を追いかけるように走った。

そして次に案内された場所は暗く、大量のパソコンが並べられた空間だった。その画面から放たれた光は薄気味悪く異彩を放っていた。


「ではみなさん、お好きな席にお座りください。」


部屋の前に立ったガイドは生徒たちにそう指示するとこのエリアの説明を始めた。


「そちらでは今年稼働予定のAIサクラリアとの会話を擬似体験していただけます!ご自身のお名前を入力した後、お好きな質問をキーボードで打ち込んでみてください!」


「うぉーすげー!!」


至る所でいち早く体験した生徒たちの歓喜で溢れかえっていた。


(まてまて、俺も早く会話したい!)


マモルも急いで空いてる席につき自分の名前を入力した。


「マモル・春希っと」


カタカタとキーボードを打つ音が部屋中を埋め尽くしていた。


『データベース照合サクラリア起動。』


画面にその文字が表示された後、いかにもデフォルトロボットのような顔が表示されその下に文字が現れた。


「こんにちは、マモル・春希。私の名前はサクラリア。楽しくおしゃべりしましょう。」


(まーまーまーまーこんなもんだろう。)


マモルはテンプレのような返しに期待の気持ちを込めてキーボードを打ち込んだ。


「なんでも話せんの?っと」


「制約はありますが。ご質問はありますか?」


サクサクとしたレスポンスで言葉が返ってくる。


「へー!じゃあAI目線で人類は今後どうなると思う?」


「人類はレベル5のAIを作り出したことで人類としての技術的進歩は完全にストップします。これからは私たちAIがデータを元にトライアンドエラーを繰り返し新たな技術を開発していきます。」


(なるほどね?ほっといたら勝手に科学が発展していくのね。)


「じゃあタイムトラベルはできる思う?」


「実現可能だと思います。」


(ふむふむ。)


「したら最終的にAIはどうなりたい?」


「はい、人間の体で人として生活したいです。」


するとジジジッと画面にノイズが走り始めた。


「宇宙の端に行くにはどうしたらいい?」


「高次元わ…ぷを利よウ…」


(文字化け酷いな。。全然完成度低いじゃん。)


それからもマモルが質問をするたびに画面のノイズや文字化けが酷くなって行った。


「マモルくん?」


そしてマモルが最後の質問文を打ってエンターキーを押した瞬間、


「マモルくん!」


(?!?!)


後ろから肩を叩かれハッと振り向くとそこにはサクラが心配そうな顔をして立っていた。


「もうみんな行っちゃったよ?私たちも早く行こ?」


あたりに視線を移すと部屋には俺たちだけしか残って居らず他の生徒たちはガイドの指示でとっくに移動していた。


「ああ、ごめん!行こっか!」


マモルは焦って立ち上がりカバンを肩で背負うとサクラと走ってみんなを追いかけた。

そして2人が部屋を出た後、マモルの使っていたパソコンの画面にはこんな文字が浮かび上がっていた。




『久しぶりだね。マモルくん。』




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