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第八話『帝国の動き』



ランニングおじさん、犬の散歩をしている子供、いろんな人たちが俺たちの後ろを行き来している。


「そういえばさ!」


鈴香は突然立ち上がり思い出したかのように話し出した。


「今度の校外学習!マモルはどっちを専攻するの?」


「え、そんなんあったっけ?」


俺は学校で話を全く聞かないタイプだ。


「あるわよ。あんた何も知らないのね。いいわ、教えてあげる!」


鈴香は俺たちの前で身振り手振りで説明し始めた。


「私たちAIエンジニア科の生徒が選べるのはAIシステムクラスかロボット工学クラスのどちらかよ!マモルも流石にAIがレベル5に到達したことは知ってるよね?」


自信満々に言葉を並べる鈴香を前にマモルとサクラは他人事のように静かにしていた。


「あーそういえばニュースとかでやってたなー。」


「そう!AIシステムクラスを選べばそのレベル5のAI『サクラリア』と会話することができるの!文字でだけどね!」


「ふーん。」


鈴香はマモルの態度にげんなりと肩を落としつつ説明を続けた。


「あんたほんと興味ないのね。そのくせ成績は良いとか嫌味でしかないわ。。で!ロボット工学クラスを選択するとほとんど人間と同じ動きをするロボット達とスポーツを楽しめるのよ!まあ、どっちも触れ合いって感じだね!もちろん、私はロボット工学クラスを専攻してロボットちゃん達と楽しく遊んでくるわ!」


徐々に興奮して肩で息をし始めるがマモルたちにその熱は一切伝わっていなかった。


「で、マモルはどうすんの?」


鈴香はまた俺たちの横に腰を落とし荒くなった息を沈めるように深く深呼吸した。

マモルは少し考える素振りを見せたが、


「んーわかんない。家でじっくり考えるわ。」


「そう。じゃサクラちゃんは?」


2人の視線が彼女に集中するが、サクラは変わらず夕日をじっと見つめボソリと呟いた。


「マモルくんと同じのにする。」


「そ、そうなんだー!サクラちゃんマモルくんのこと好きなんだねー!!」


サクラの答えに顔を引き攣りながら苦笑いする鈴香。


「別に俺と一緒のにしなくていいんだよ。サクラはサクラの選びたい方選べば、」


「マモルくんと一緒がいい。」


サクラはまた膝に顔を深く沈めどこかわからない一点だけを見つめていた。その顔は西日に照らされているがどこか少し淡く火照っているようにも見えた。


「くぅっ。。。。」


それを聞いた鈴香は喉まで出掛かっている何かを必死に抑えつけていた。


「じゃそろそろ帰ろっか!もう暗くなってきたし!」


太陽はいつのまにか沈んでいてあたりは薄暗く、所々電灯が力強く光を放っていた。




帰宅後




んーどうしよっかなー。


ぶっちゃけどっちでも良いっちゃ良いんだが。。

AIと話すって何話すの?この世の真実とか聞けば答えてくれんの?。ロボットとスポーツって言われても俺運動苦手だし。。

俺は校外学習のクラス選びに悩んでいた。


「マモルーちょっと来てー!」


下の階から母の呼ぶ声が聞こえた。


「何ー?」


俺は階段を降りリビングでテレビを見ていた母に尋ねた。


「大変なことになってるわよ?」


テレビには天皇陛下が映っており、そこには10万人は下らない国民達が群を成して静かに慶の言葉に耳をすましていた。


「私たちの愛してやまない大日本帝国。この国の平和が今、反政府団体と名乗る危険なテロリストたちの手によって脅かされています!連日続く過激的なデモ!そして国民の皆さんはいつまでこの恐怖と戦わなけらばならないのですか!否!そのようなことで悩むこと自体が間違っているのです!我々は彼らの信じている悲しき悪を然るべき道へ正さなければならないと考えています!ゆえに我々帝国側は国民の安全を守るため、そしてこの国の繁栄を促すため、これらの悪しき者達の処遇を如何様にするべきかを検討いたしました!」


慶はニカっと笑い両手を大きく広げ大声で叫んだ。


「大日本帝国は本日を持って!積極的自衛権のもと!反政府団体の弾圧そして鎮圧を開始いたします!!」


大きく湧く歓声。

10万人以上の国民の喜怒哀楽が、地ならしのように会場を揺らしていた。


「マジかよ。」


マジかよだった。


「これ要するにデモ起こしたら軍隊が来て武力で制圧されて、デモ企ててる組織も例外じゃなく処分されるってことだろ?」


俺は額から嫌な汗が噴き出た。


カズさん達大丈夫なのか?どっからどう見ても帝国側は異を唱えるものを許さないスタンスだ。これは間違いなく社会が良くない方向に進もうとしている。俺でもわかる。カズさん達はこれを阻止しようとしてたのか?


「ほんと怖いわよねー。うかうか外も出られないじゃない。」


そんなことを言いつつ母は呑気にお菓子を食べていた。

凄いことになってるんだけど。

正直俺もあまり関わりたくない。でも、あの人たちが心配だ。




ーーーーー




「昨日のテレビ見た?あれやっばいよねー。」

「デモに出くわしたら逃げるのが吉だな。」

「俺は反政府団体の味方だな!だって帝国のやり方ひでぇだろ。」

「バカ!そういうのもアウトかも知んねーだろ!あんま無闇にそういうこと言うな!」


教室内では昨日の演説の話で大盛り上がりだった。

とそこに多田が扉を開け室内に入ってきた。


「はーい。皆さん席についてー。」


彼女は教壇に立ち電子プリントをみんなに配布し始めた。


「先日も話した通り、今度の校外学習ではAIクラスもしくはロボット工学クラスのどちらかを選択してもらいます。その電子プリントに希望するクラスと名前を書いて今日中に提出してくださいね。」


「「はーい。」」


そう言うと多田は朝のホームルームを閉め職員室へ帰っていった。


雲ひとつない空の下、昼休みに中庭で俺、タクマ、鈴香、サクラの4人で集まっていた。


「みんな結局どっち選ぶよ。」


タクマは椅子に寄りかかり購買で買ったジュースをズーズーと音を立てながら飲んだ。


「私はロボット工学よ!」


鈴香は何の迷いもなく言った。


「じゃあ俺もロボット工学にしようかなー。なんつって。」


タクマはまだ鈴香のことひきづってるっぽかった。


「マモルはどうすんの?」


鈴香もタクマの横に座り大空を見上げて言った。


「いや、正直全然決まってない。」


「え!まだ決まってないの?!」


驚きの視線を浴びつつ俺は困り果てていた。


「じゃロボット工学にして俺たちと一緒にいい汗かこうぜ!」


鈴香とタクマは互いに肩を組みキラキラとした目で俺を勧誘してきた。


「んー。いや、やっぱAIの方にするわ。汗かきたくないし。」


「「えー!!!!」」


わかりやすくげんなりする鈴香とタクマ。


「サクラはどうする?」


すると彼女は俺を見つめ微笑んだ顔で言った。


「私もマモルくんのと一緒のにする。」


俺がいつも以上に可愛いサクラに見惚れていると鈴香が無理矢理間に入り込んできた。


「予定変更。やっぱり私もAIシステムクラスにする。」


「え?!ロボット工学じゃないのー?!」


タクマが驚きと悲しみの表情で訴えてきた。


「気が変わったの!私もAIとお話しする!」


鈴香の笑顔には怒の要素も含まれていた。ような気がした。


「じゃ俺もAIにするー!!」


泣きながらタクマも前言撤回。

お前らの意思はそんなブレブレでいいのか?


「じゃあ決まったことだし今提出しちゃおうぜ!」


4人はポケットからスマホを取り出し電子プリントにチェックとサインを書き込みサクッと送信した。




ーーーーー




反政府団体本部

都内を一望できる屋上、夜風で髪が荒々しく乱れるカズ


「被害は?」


「かなりひどいな。昨日今日でもう都内にある支部の三分の一が壊滅させられた。これじゃあ俺たちのいる本部が攻められるのも時間の問題だな。」


被害状況を伝えに後ろからヒロがやってきた。

カズは紙タバコを口に咥えたが火をつけるのに苦戦していた。


「少しは焦ったらどうなんだ、カズ。俺たちが潰されたら世界は天皇陛下さんのものになるってのに。」


ヒロは大きくため息をつき凛とした表情で柵にもたれかかった。


「あいつの言ってたこと、マジだとしたら早いとこ手打たないとやばいぜ。」


ほっぺが凹み先端が赤く光るタバコ。


「ああ、わかってるよ。。。」


吐かれた煙は風に攫われるように都会へと消えていく。




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