第七話『それぞれの思い』
「慶様湯加減はいかがですか?」
湯気で霞む広い大浴場で慶と呼ばれた銀色に輝く髪に鍛えられた筋肉美を持つ男に2人の女が寄り添っていた。
「あぁ、とても良いよ。」
するとそこへカツカツと足音を立て慶の元へ歩み寄る音が聞こえた。
「陛下少しお耳に入れておきたいことがございまして。」
「ん?なんだい?」
スラリとした黒のスーツを身に纏ったその男はしたたかさを感じさせる面持ちで、数多の苦難を乗り越える長けた処世術を熟知していそうな鋭い目つきをしていた。
「まずはこちらの映像をご覧ください。」
そう言うと男は端末を取り出し壁一面に映像を映し出した。
その映像には銀行内部が映されていた。
「こちらは本日午後13時ごろ都内の銀行にて監視カメラが捕らえた映像です。」
「ふむ、続けて?」
慶はそう言うと傍の女のカラダを優しく弄り始めた。
「反政府団体と名乗る組織が銀行を占拠、その場にいた市民を人質に取り天皇陛下を連れてこいと要求するなどの至極悪質なテロ行為をはかりました。」
男はリモコンを操作しながら話を続けた。
「このテロリストどもは帝国軍によって殲滅させられたのですが、その中に少々興味深いものが残されておりました。」
壁面に映し出された画面が拡大し映像が流れ始めた。
「おそらくですが、テロリストは要求を拒否されたことにより見せしめで人質を1人処刑しようとしたのでしょう。リーダーと思われる人物が拳銃を取り出し発砲しようとした際、」
するとそこには1人の少女がものすごいスピードで人質の前に移動し左手に盾を召喚した瞬間が映されていた。
「これは。。」
慶は両脇にこさえた女性たちを突き放し、勢いよく立ち上がった。
湯から露わになったその鍛えられたカラダはその力で上り詰めた自負を抱え持っていた。そして美しい横顔からは高貴で妖しく、ふつふつと湧きたつ傲慢さと冷徹さが滲み出ていた。
「美しい。。」
慶は画面に映る少女を舐めまわしすように見つめ映像に向かって手を伸ばした。
「美味しそうだ。ふふふふ。」
彼は不敵な笑みを浮かべ男に指示を出した。
「伊達アキラ、君はこの少女についてもっと調べてくれ。そしてなるべく早く僕のところに連れてきてくれないかい?」
「かしこまりました。」
アキラはニヤリと返事した後静かにそこを去った。
「待っててね、かわい子ちゃん。」
慶は湯船に浸かった女性を置いてそのまま浴場を出た。
画面には大盾を持ったサクラが一時停止で映されていた。
ーーーーー
「マモルー!!」
家に帰ると母が泣きながら飛びついてきた。
「ごめんね!ほんとごめんね!!ふざけてあんなこと言わなきゃよかったって!連絡も返ってこないからてっきり巻き込まれて大変なことになってるんじゃないかって!母さん居ても立っても居られなかったわ!」
「ほんとだよ!お陰でとんでもない目に遭ったわ!!」
抱きつく母を引き剥がしマモルは少し強めに怒った。
「でも、この通りピンピンしてるよ。ただいま。母さん。」
母は目から流れ出た涙を拭き取ると笑顔になった。
「おかえり!さあお腹すいたでしょ?今日はマモルの好きなスタミナラーメンよ!」
「いいねー!」
(あ。。)
俺はスマホの画面を見た。
すると鈴香からの通知が山ほど溜まっていた。
「マモル大丈夫だった?!なんであんたはいっつも連絡返すのが遅いのよ!」
俺はまたしても彼女の着信に気づかず心配をかけてしまっていた。
ほんとごめんなさい。
「すまん、またもいろいろありまして。。」
「ほんと心配したんだから!みすほ銀行でテロがあったってニュース見て確かあんた本店でどうのこうのって言ってたからもしかしてって思って!でもマモルあなたほんとついてないよね。」
鈴香がクスクスと笑っているのが電話越しに伝わった。
「まぁ無事でよかったわ。それじゃまた明日学校でね。」
「おう、また明日。」
マモルは電話を切りベッドに勢いよく寝転んだ。
「どうすればいいんだろう。。。」
天井を見てボソッと呟く。
いきなり組織に入れだなんて無茶苦茶だろ。まずあんたらがやばい集団じゃない保証もないってのに。
マモルはスマホ画面に映されたカズの連絡先を見て深くため息をついた。
「はぁ。。。あーあほらしい。」
そして部屋の明かりを切りそのまま眠りについた。
次の日
「サクラさんちょっと話があるんだけど。いい?」
俺は昼休みを使ってサクラさんを中庭へ連れた。
「サクラさん、昨日のアレなんだけど。」
「はい。」
彼女は昨日の件について特に思い詰めている様子はなかった。
「組織に入るとか入んないとか正直よくわかんないし、俺的には怖いからあんまそう言うのには関わりたくないんだよな。てかたぶんだけどあの人たちサクラさんの能力?みたいなのがほしいだけなんだと思う。」
俺は顎に手を添えながら持論を伝えた。
「なら、入らなくていいと思います。マモルさんには危険なことは極力避けてほしいです。もちろん私も入るつもりはないです。ですがもし、マモルさんが入ることになれば私も着いていきます。」
俺が入ることになったら着いてくるぅ?!
(ドキドキドキドキ。)
俺の心臓は軽快にリズムを刻み始めた。
「てか!なんで敬語なの?前は普通に話してくれてたじゃん!!タメ口でも怒んないよ俺!!」
俺は昨日から思ってたことをつい口に出してしまった。
それを聞いたサクラは少しもじもじした素振りを見せ、
「わかりました、、こほん。わかった。。。」
(んー!もじもじしてるサクラさん可愛いー!!)
「じゃあ!私のこともサクラとお呼びくださ、呼んでもいいよ。。」
頬を薄く桜色に染めた彼女はちらちらとこちらを見ていた。
「じゃあ俺のこともマモルって呼んでくれな!」
俺はサクラにグッと親指を立てた。
「マモル、くん。」
サクラは噛み締めるようにそう口にした。
(あの盾の件はみんなに言わない方が良さそうだな。。)
「じゃ5時間目始まるしそろそろ戻ろっか!」
「うん。。」
あのグイグイ系のイケイケ系はどこに行ったんだ。。
でも。
こっちのサクラも良い!!
ーーーーー
『キーンコーンカーンコーン』
7限目が終わり俺とタクマは帰る準備をしていた。
とそんな時、
「マモルいるー?」
鈴香が教室へ入ってきた。
「お、鈴香。どした?」
「今日部活無くなったんだー!だから久しぶりに一緒に帰ろうよ!」
するとそれに気づいたサクラも近づいてきた。
「私も、一緒に帰りたい。」
「あなたは確か、新しく転校してきた子よね!私は鈴香!暁鈴香!よろしくね!」
鈴香は持ち前のビューティフルスマイルで手を差し出した。
「私はサクラ。よろしくね。」
サクラも手を差し出し、2人は仲良く握手を交わした。
「そうだ!そしたらこの後みんなでどこか行かない?!サクラちゃんこの後暇?!」
「うん暇。」
「マモルとタクマは?」
「わりぃ俺この後バイトなんだわ!したっけ3人で楽しんで!」
タクマは残念そうにそう言い足早に教室を出てった。
夕暮れ時の河川敷、目線の高さから世界をオレンジ色に染める太陽を遠くに、サーっと草花を撫でるように心地よい風も吹いていた。
「にしても最近のマモルって何かにつけていろいろ巻き込まれすぎじゃない?昨日のみすほのもそうだけ…ど!」
川に向かって平な石をコンスタントに投げる鈴香。
(いつも思うけど鈴香って男の子要素が入ってるよなー。)
「特に訳わかんないのがこの前遊んだ時に消えた問題よ…ね!………やった!新記録達成!!」
パシャパシャと石と水が反発し合う音が徐々に遠くになっていく。
そして俺の横でサクラがこちらを見つめてくる。
「あー、サクラは知らないよな!俺この前走ってる途中で突然消えたみたいなんだよ。鈴香情報ではな!」
「そうなんだ。」
サクラは三角座りで膝に顔を落として遠くを見つめた。
白く透き通った髪は相変わらず風に靡かれており、あたり一面にはあの香りが広がっていた。
「ちょっとそこの2人くっつきすぎじゃない?」
鈴香はこちらに駆け寄り不満そうな顔で俺たちの間を割って入るようにして座った。
「まぁでも人生っていろいろあるからそういうのも経験なのかな。」
鈴香は髪を耳にかけながらそう言った。
「何急に真面目に語ってんだ。」
「いたあ!」
俺は鈴香の頭をチョップした。そして少し笑って続けて話した。
「でもそうだな。人生って先に何があるかわかんないし、それを想像して毎日楽しく、時には辛いことも仲間と一緒に乗り越えて成長して行けたら俺も文句はないな!」
「ほほー?マモルさんも言うようになりましたなー?」
鈴香はいじるような目線で俺に向かってそう言った。
そしてサクラはその横で変わらず遠くを眺めていた。