第六話『レジスタンス』
「怪我は無いですか?マモルさん。」
ここ最近いろんなことが起きすぎてやしないか?
俺の目の前にはあのグイグイでイケイケのサクラさんが盾を構えていた。次は何?目からビームでも撃つんですか?
「なんだこいつはぁ!?」
「帝国軍の新型か?!」
そこに居合わせた全員が驚きを隠せないでいた。
リーダーは額に汗をかき、迅速に部下たちに命令を下した。
「何者かなんてどうでもいい!撃て!撃てぇええ!!」
兵士たちは一斉にサクラに向けてマシンガンを掃射した。
「シールドツー」
彼女がボソッと呟いたその瞬間、何も無い空間に体ほどの大きさの盾が突如として出現した。
『ガシャンッ』
その盾を両手で持った彼女は俺たちの前の床に突き刺すように配置した。
カンカンと兵士たちの撃った鉛玉はまるでB.B弾のようにその大盾に弾かれていく。
すると銀行内の異変に気づいた帝国軍たちは薄くなったバリケードの守りを破り隙を突くように中へと押し寄せてきた。
そして建物内は帝国軍と反政府団体の銃弾が飛び交い酷い混戦状態になっていった。
「マモルさん、本当にお怪我はないですか?」
サクラさんは心配そうに俺を見つめ身体中を組まなく触り始めた。
「ちょっ!大丈夫だよ!!」
俺は彼女の両肩を持って突き離した。
銀行内は泣き叫ぶ悲鳴と負傷した者たちの呻き声で混沌としていた。
俺とサクラさんはその大盾に守られてはいたがいつ盾が崩れるともわからない恐怖と戦っていた。するとその時、
『キーッ!!!』
急ブレーキ音と共に武装を施した黒いバンが銀行内に突っ込んできた。
そして俺たちの横で急停止するや否やドアが勢いよく開いた。
「乗れ!!説明は後だ!!」
中に乗っていた男は俺たちにそう叫んだ。
マモルとサクラは互いに見つめ合い頷き、無我夢中で車の中に駆け込んだ。2人が乗り込み扉が閉まるとバンはキュルキュルと音を立て急発進し銀行をそそくさと脱出した。
勢いで乗車した車内は外の光がほとんど入ってこないため薄暗く、異様な空気に満ち溢れていてマモルはかなりビビっていた。
「あのー、あなた方は一体何者なんでしょうか?」
マモルは恐る恐る前の席に座る無精髭の男に話しかけた。すると男はリラックスするように足を組み口を開いた。
「詳しくは本部に着いてから説明しよう。君たちは疲れているだろう?少しゆっくりするといい。」
(こんな訳のわかんない車の中でゆっくりできるやつがいるんだとしたらここへ連れてきてくれよ。。)
「はあ。」
俺はあまり出過ぎた真似をすると命に関わるかもしれないと思い、追及することをやめた。
しかし隣に座ってるサクラさんは厳戒態勢なのか知らないけど前に座る男を視線から外すことはしなかった。
てかあなたにも聞きたいこと山ほどあるんですけど。。
1時間ほど車に揺られ俺たちはとある場所へ連れて行かれた。
ーーーーー
「本日午後13時ごろ、千代田区内のみすほ銀行にて反政府団体と帝国軍との間で強い抗争があり」
電子機器があたり一面に備え付けられた薄暗い部屋に案内された俺たちは室内に置かれたラジオから流れるニュースを聞き流していた。
すると部屋の照明が突然焚かれ俺とサクラさんは目を細ばめた。
「待たせてすまない。そこにかけてくれ。」
男のカラダつきは程よく筋肉質で軍服のようなものを着ており腕まくりをしたその手には紙タバコを持っていた。
少し寝癖のついた無造作な髪はその表情を隠し、手入れのされてない無精髭は彼の得体の知れない風貌をさらに助長していた。そして過去に辛い経験をしてきたような語り口調は彼自信の人生の強さを表していた。
「ここはなんなんですか?あなた方は僕たちを連れてきて何が目的なんですか?!」
俺は前のめりで質問した。
「君たちが不安に思うのも無理はない。最初に言っておくが俺たちは反政府団体だ。」
「え。」
俺は椅子を倒すように後退り、サクラさんは俺の前に立った。
「おいおい落ち着いてくれよ。俺らはお前たちをどうこうしようって訳じゃないんだ。俺たちはさっきの奴らみたいな過激派ではない。反政府団体って言っても一枚岩じゃないんだ。」
「じゃあ、一体何を。」
サクラの言葉に男はクスッと鼻で笑った。
「自己紹介がまだだったな。俺はカズユキ、紀田カズユキ。みんなからはカズって呼ばれてる。ここでは主に指揮を取っているんだ。よろしくな。君は?」
俺は唾を飲み椅子に座り直した。
「僕はマモルです。マモル・春希です。」
「春希。。。」
カズは聞こえるか聞こえないかでそう呟いた。
「そんでお嬢ちゃんは?」
「私はサクラ・ニルヴァーナです。」
冷静にカズを睨みつけるサクラ。
男はニコッと笑った後話し始めた。
「運命って本当にあるんだな。。」
「え。。」
「いや、こちらの話だ。気にしないでくれ。実のところ俺たちは君たちをつけてたわけじゃないんだ。反政府団体がみすほ銀行を襲撃したって情報を聞き駆けつけたところ、そっちの嬢ちゃ、いやサクラちゃんが何もないところから盾みたいなものをポンポンポンポン召喚してたのを見て、これは面白いことが起きたと思って連れ去った次第だ。」
カズは紙タバコを咥えライターを取り出した。
「いろいろお前たちに聞きたいことがあるんだが。まずサクラちゃん、あんた一体何者なんだ?」
「そうだよサクラさん!なんであんなとこにいたの?!しかもあの盾みたいなの。あれ何?!?!」
「……私はマモルさんを守る。ただそれだけです。」
マモルはカズに付け加えるように質問したがサクラはさらりとかわした。
そんな彼女に手間取りかけたカズは頭を掻いて質問を変えた。
「んじゃあれは?盾みたいなの出したの。あれは?どうやって出したの?」
「詳しくは話せないです。私はマモルさんを守る。ただそれだけです。」
淡々と返すサクラさんに俺は割って入るように話しかけた。
「サクラさん?どうしたの?なんかいつものサクラさんじゃないみたいだよ?」
「君たちは元々知り合いなのかい?」
紙タバコになかなか火がつかないカズは少し苛立ち始めた。
「はい、学校のクラスメイトで、でもそこまで話したことはないんですけど。」
「学校。クラスメイト?」
サクラは不思議そうな顔でマモルを見た。
「まぁ何はともあれ、君たちが無事で良かったよ!そうだ!俺の仲間達を紹介するよ。」
すると後ろで作業をしていた部下たちがこちらへやってきた。
「紹介するよ。こいつはヒロ。昔からのダチで組織一のイケメンだ。」
「よせよそんな紹介。佐藤ヒロだ。よろしくね。」
カズが陰とすればヒロは陽だった。それほどまでに正反対な彼は、整えられた短めの髪に黒縁のメガネがその端正な顔立ちにさらに清潔感を印象付けていた。はっきり言ってイケメンだ。悔しい。
「そしてこいつがアフリカ系アメリカ人のダン、ダン・ウィリアムズ。」
「おう!よろしくな!!」
鍛えられたその隆々とした筋肉からはもう誰も失いたくないという意思が見えた。そしてその切なげな感情とは裏腹に振りまかれる笑顔からは一夜では語れないほどの深い過去があるような気がしてならなかった。
「そしてこの2人はセナとサラだ。2人は実の姉妹だ。仲良くしてやってくれよ?君たちと歳も近いはずだ。」
「姉のセナです。」
「妹のサラです!性はホーキンスです!よろしくね!」
セナの微笑みのないその唇からは姉としての威厳が感じられた。そして彼女自身が持つ強く太い意志には不思議と誰かを強く想っている何かが感じられた。
それに引き換えサラは、目鼻立ちはどことなく姉に似てはいたが、その雰囲気にはセナと真逆に愛嬌と可愛らしさが備わっていた。そしてどこかメカニック系を彷彿とさせる容姿はおそらくデジタル面でアシストしてるんだろう。
うん。可愛い。
俺は心で拳を握った。
「そして最後、こいつは…うっ」
「こいつって誰のこと言ってんのよ。」
カズさんをキッと睨んだ気の強そうなこの女性はリサ・河波と名乗った。
迷いのない立ち振る舞いに非の打ち所がないほど整った顔。
さらにモデルのような歩き方からは彼女の持つ自信が手に取るように伝わった。そして喜怒哀楽を表に出さないように見える彼女からは不思議と負けん気だけが爛々と輝いていた。
「ははっ。。えーっと、そんなわけで俺たちはこいつらと世の中を良くするために日々国と対峙してるってわけだ。」
額に汗をかいたカズさんを見るかぎりどうやらリサさんが真のボスらしい。
そしてカズは急に真剣な顔つきになると、前のめりで話し始めた。
「そしてここからが本題なんだが、今日出会ったばっかりで驚くと思うんだが、俺は君たちにこの組織に入ってほしいと考えているんだ。」
…え?
「まぁ無理にとは言わない。入るも入らないも自由なんだが正直な話、大日本帝国の企みを阻止するのに君たちの力が必要なのも事実なんだ。」
「そんな、急な。だって僕たちまだ学生ですよ?!」
サクラは相変わらずカズに睨みを効かしている。
「ああ、そうだろうな。時にマモル君、君は運命を信じてるかい?」
突然の問いに戸惑いを隠せないマモル。
「運命なんて、そんなお伽話じゃあるまいし僕にはわかんないです。。」
そして少し溜めて、
「少し、時間をください。。いろんなことが起きすぎて。」
「……そうだな。君には考える時間が必要だな。」
ニコッと笑ったカズはタバコを灰皿に押し付け端末を取り出した。
「俺の連絡先を伝えておく。返事はすぐにとは言わない。何かあったら連絡してくれ。あとわかって欲しいのは俺たちは君たちの味方だ。いつでも頼ってくれ。」
まっすぐなカズの目を直視せず俺は連絡先を受け取った。
「そういえばさっき、さっきこの国の企みを阻止するって言ってましたよね、一体何が起こってるんです??この国は。」
「その話をするのはあなた達が私たちの仲間に加わってからよ。」
腕を組んだリサは威厳に満ち溢れた態度で唐突に口を開いた。
「ま、そういうことだ、坊主達のこと信用してないわけじゃないんだが一応そこんとこしっかりしないとな。規律がな。大人の世界は色々と面倒なんだ。」
ケタケタと笑い立ち上がったカズは部下にマモルたちを家まで送るよう指示した。
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「ほう。これは実に興味深いなぁ。」
都内のとある場所で銀行内の映像を見て含み笑いをする1人の男がいた。