第五話『約束を守るために。』
母の頼まれ事で家を出た俺は駅に向かっていた。
その道中でまたあの放課後での出来事を思い出していた。
「ごめんね!ほんとびっくりだよね!今日初めて会った女にハグされるなんて嫌だよね!でも、もう少しだけこうさせて。。」
サクラさんは意外とグイグイ系のイケイケ系なんだなぁ。
マモルは鼻の下を伸ばしに伸ばしていた。
そうして駅に着いた俺は改札を通り電車が来るまでの間ホームで待っていた。
たくさんの電車が行き交う中、その刹那、反対側のホームに白い髪の少女が立っていたように見えた。
『ゴーーーーー。』
そして電車が視界を塞ぎ通過した後、そこには誰もいなかった。
そしてあの残り香。
「Next station is Tokyo,Tokyo.Doors right side will open.」
俺は東京駅に降り立ち、みすほ銀行へと向かった。
ーーーーー
「わかってるなお前ら、流れは計画した通りだ。」
ーーーーー
俺は銀行に入店し、受付で母の言われた通りに手続きをした。
「ではこちらの番号札を持ってそちらの席でお掛けになってお待ちください。」
受付の人は流れるように仕事を捌いた。
「なー、これってほんとに本店でやんなきゃいけなかったのかなー。」
マモルは呼び出しがあるまで鈴香と電話をしていた。
「んーわかんないけどまたお母さんにからかわれてるんじゃないの?だってわざわざ本店でするようなことでもないし。どうせ休みの日だってのに家でくだらないことしてたんじゃないの?」
(う。。)
図星オブ図星だった。
俺は今朝テレビの前で戦隊ヒーローの上官になりきっていたことを思い出した。
…………。
「ま、まぁ結果的にぃ?俺は外に出てぇ?健康的な休日を過ごせてるからぁ?まじママさんきゅー?みたいなぁ?あ!そろそろ番号呼ばれると思うから切るわーまたねー!!」
「あ!ちょっとマモル!」
『プツッ。プーップーッ』
「ふぅ。」
マモルは強引に電話を切り、なんとか自尊心を保ったと思っていたその時、
「きゃー!!!!!」
それは突然の出来事だった。
女性の悲鳴が銀行内を響かせ、それに続くように男の怒鳴り声が轟いた。
「静かにしろ!!おいお前ら!全員手あげて端に集まれ!」
その男の言葉と同時に仲間と思われる武装集団が銀行内になだれ込んできた。
「なになに?何が起きてるの?」
「これテレビでニュースになってる過激派じゃない?」
「嘘でしょ?」
そこに居合わせた人たちの不安と恐怖が入り混じる。
「なんだ?いったい。。」
マモルは突然起きたことにパニックになっていた。
そして逆らうと何をされるかわからない状況下でそこに居合わせた人たちは奴らの指示に従い移動した。
兵士たちが俺たちを端に集めた後、リーダーと思われる男が中央で紳士に話し始めた。
「まず皆さんを巻き込んでしまったことを深く謝罪する。」
その顔には謝罪の感情が一切含まれてないように見えた。
静まり返る室内。
「皆さんには我々が一体何者なのかを知っていただきたい。」
そしてリーダー格の男は力強く叫んだ。
「我々は反政府団体!大日本帝国のやり方に異議を唱えるものである!!」
少しざわつく人々。
「静かにしろ!」
叫ぶ反政府団体の兵士。
これはきっとテレビのドッキリなんかじゃない。
俺はどうやらとんでもないことに巻き込まれてしまったみたいだ。どうする。どうすればこの危機を乗り越えられる。。
これは間違いなく前にテレビで見た過激派の反政府団体だ。
次第に大日本帝国軍と思われる兵や軍の装甲車が銀行の外を囲み始めた。
そしてリーダーは拡声器を持って外に向かって語り始めた。
「聞け!帝国軍どもよ!我々は大日本帝国のやり方に異議を唱えるものだ!」
すると帝国サイドもざわざわとし始める。
「我々の要求はただ一つ、天皇との対談だ!そして、もし少しでもおかしな行動をとれば人質は無事じゃないと思って欲しい!!繰り返す!我々は大日本帝国のやり方に意義を唱えるものだ!」
すると男は拡声器を置きこちらに歩き始めた。
「おい、そこの男、立て。」
(え。。。)
その男は俺に向かって話しかけてきたように見えた。
というか俺の目を見ている。
嘘だろ。。まじかよ。。こんなにいっぱいいる中で俺選ぶのかよ。。
部下は俺に銃を突きつけ立たせ、みんなとは反対側の位置に座らせた。
そしてまたリーダーは窓側に立ち拡声器で外に向かって話し始める。
「今から30分だけ待つ!それまでに天皇をここへ連れてくるんだ!もし要求を飲まなかったり変なことをすれば、」
リーダーは少し溜め、俺を見て言葉を放った。
「この男を殺す。」
(…………。え?)
まてまてまてまてまてまてまてまてまてまて。
まて。すごいまて。もう時間も待て。いや止まれ。
今殺すって言った?今殺すって言った?何を?何を?この男をって言った?この男って誰のこと?俺のことじゃ無いよね?俺のことでは無いよね?!こればっかりわ!?
俺の脳キャパシティはとうにパンパンになっていた。
ちゃんと考えろー?冷静になれー?
整理しますね?整理しますね?
俺以外の人質のみんなは?えー俺の反対側にいますー。
だよね?みんな目の前にいるもんね?すごい泣きそうな顔してるもんね?
そんで?俺の性別は?女だっけ?女なんだっけ?女な気がしてきたよ?女だよねー?!
……ってバカァあああああ!!!ふざけてる場合かー!!!
そしてマモルは静かに俯き、目に涙を浮かべた。
俺は男だぁ。そんでもってあの男は『この男を殺す』って言ったんだよぉ。もうそれ俺のことじゃーん。。
俺の目からは溢れんばかりの涙が流れ出た。
「はぁ。。」
俺はため息をついた。
30分以内に天皇陛下が来ないと俺は殺される。。
そしてマモルは今までにやってきた悪行を償い始めた。
母さん、いつも立ってトイレしてごめんなさい。。来世ではちゃんと座ってするよ。。。
鈴香、実はお前のことちょっとエロい目で見てたわ。ごめんな。。
んでタクマは………うん。。
そして、レン兄さん。。
『ドーン!!!!』
その時、外から爆発音がした。
「どうした?!」
リーダー格の男が慌てて確認を取る。
「どうやら帝国軍が銀行内に侵入を試みたみたいです!ですが起爆材が少なかったため扉の破壊には失敗したようです!」
反政府兵がバリケードをさらに硬く閉じ始める。
「どうやら帝国軍の奴ら天皇のやつを連れてくる気はさらさら無いみたいだな。」
リーダーは握る拳をブルブルと震わせ外を見た。
「どうします?リーダー。このままだと突破されるのも時間の問題かもしれません!」
部下から指示を煽られたリーダーは少し考える素振りをして口を開いた。
「あいつら俺たちが人質に危害を加えないと踏んで突っ込んできたみたいだな。………致し方ない。これだけはしたくなかったのだが、」
リーダーは拡声器を再び持ち大声で叫んだ。
「市民の皆さん!帝国軍は中に人質がいるというのに何の躊躇もなく突入を仕掛けてきた!!これは帝国側が市民の命のことなど微塵も考えていないと言う証拠に他ならないのではないだろうか!!」
訴えかけるリーダー。
「我々は断固として抗議する!そして!我々がいかに本気であるかを世界に知らしめなければならない!」
俺は恐怖で声が出なかった。
そして心臓はそれとは裏腹に張り裂けそうなほど活発になっていた。
「なので!すまないがここにいる人たちには少しだけ辛い思いをしていただく!もう一度言う!我々は帝国軍のやり方に異議を唱えるもの!犠牲者を増やすのは本意では無い!なので!我々は帝国軍側に早期に要求を呑むことを求める!以上だ!!」
リーダーはそう言い終わると拡声器を机に置きその場からマモルに向かって銃を向けた。
命を乞うことすら許されない刹那の中リーダーは最後に一言放った。
「すまない坊主」
『ダーンッ!!!!』
リーダーは引き金を引き、俺は目を瞑った。
『キーンッ!!!!』
鳴り響く銃声と同時に金属と金属が混じり合う音が耳に響いた。
死んだ。死んだ。俺は死んだ。こんな死に方するんだったらもっと色々やっときゃよかった。。あんなことやこんなこと……あれ?
硝煙に混じり漂う香り。
マモルは自分がまだ死んでいないことに気づくと恐る恐る目を開けた。
すると目の前には白い髪を靡かせ、左手に鋭利でコンパクトなシールドをつけた少女が立っていた。
「サクラさん?!」
彼女はマモルの言葉にゆっくり振り向くとにっこりと
笑いこう言った。
「怪我は無いですか?マモルさん。」