第四話『人の心』
「………みんなを救ってくれ。。……。。」
ーーーーー
「…っはぁ!!!!」
目を覚ますと日陰に覆われた人気の少ない冷えたコンクリートの上に俺は独り横たわっていた。
「いってー。なんだここ。。」
ゆっくりと上体を起こす。
「確かタクマと鈴香と遊んでて。。」
昨晩のことを思い出そうと試みたがまるで出てこなかった。
痛む身体を持ち上げるように立ち上がると少し離れたところで人が行き交っているが見えた。
寝違えたように痛い首を押さえながら表まで足を進め、道を抜けると朝日が強くマモルを差した。
「う。。朝か。。何で俺あそこで寝てたんだ?」
振り返ると猫が右から左へ軽快に走り抜けていった。
ふと時間が気になり右手につけた腕時計を見ると冷や汗をかいた。
「やっべ!!月曜日!てか学校遅刻じゃん!!」
マモルは混乱していたがとにかく家に帰ることにした。
帰宅すると案の定母は顔を真っ赤にして怒っていた。
「あんた昨日いったいどこ行ってたの?!電話しても繋がらないし!」
とっさにポケットからスマホを取り出し画面を見たが電源は切れていた。
「ごめんごめんスマホの充電切れて帰れなかったから友達ん家に泊まってた!」
適当な嘘で誤魔化し、早々にシャワーを浴びた。
「AIを搭載したロボットだってさー。」
髪を乾かし終えリビングに戻ると母はテレビを見ながらお菓子をぼりぼりと食べていた。
「行くとこまで行ったって感じだよなぁ。」
当たり障りのない言葉を返し、ささっと身支度を済ませ中途半端に充電されたスマホを握って家を出た。
学校に着くと4時間目はとっくに始まっていた。
静かに席に着くとタクマがこっちを睨んでいるのがわかったが俺は目を合わせないでいた。
そして昼休み。
「昨日いったいどこ行ってたんだよ!!」
教室後ろで俺の胸ぐらを掴んだタクマと今にも泣き出しそうな鈴香。そしてそれを面白そうに見るやつら。
「あの後何時間も探し回ったのに見つからなかったし挙げ句の果てには連絡も返ってこなかったからほんと!心配したんだよ!?」
涙目で俺を見つめる鈴香。スマホを見ると100件以上溜まった着信履歴。
「わりぃわりぃ。実のところ俺もわけわかんなくってさ。」
すると遮るようにタクマは掴む力を強めた。
「わけわかんねぇのはこっちのセリフだ!!俺たちがどんだけ心配したかわかってんのか!!もう2度とあんな真似すんじゃねぇぞ!」
タクマは小刻みに震えるその手を離し足早に教室を出てった。
「はぁ。。。」
俺は深いため息をつき乱れたネクタイをゆっくりと整えた。
軽い騒動に教室内のやつらは興味津々に俺を未だ凝視していた。
「マモル。ちょっとついてきて。」
俺は鈴香の後を追うように屋上へ向かった。
風が心地よく吹き、桜の花びらが空を舞っていた。
「心配かけた!ほんとすまん!」
俺は頭を深々と下げ謝罪した。
すると鈴香は向こうを向いたまま喋り出した。
「マモルが走ってどっか行こうとした時、私もあんたの後ろついてってたの。」
「…」
俺は黙って鈴香の言葉に耳を傾けた。
「マモル、あんた昨日走りながら突然消えたのよ。」
「え。。」
風で桜が靡く音だけが俺たちを包み込んだ。
「消え、た?」
俺は手を握り、ごくりと固唾を飲んだ。
「すごく怖かった。」
鈴香の声は震えていた。
「マモルはいっつもそうだよね。小さい頃から危なっかしくて、目を離したらすぐどっかいって。心配してたらいつのまにかひょっこり帰ってきて。こっちの気も知らないで。。」
少しづつ力強く握られていく拳。
「あん時あんたの後ろ必死に追いかけて。何度叫んでも私の声なんて届きやしない。走っても走ってもどんどん差は広がっていって!もしかしたらこのままもうマモルに一生会えないんじゃないかって思ったりもしてすごく怖かったんだから!!」
離れていても彼女の握った拳が震えているのがわかった。
「だからもうさ。。」
すっと力なく振り返る鈴香。その目にはうっすらと涙が溜まっていた。
彼女はしっかりとした足つきでゆっくりとこちらへ近づき、俺の胸に身体を預け泣きそうな声で言った。
「だからもう…1人でどこかに行ったりしないで。。」
すると鈴香は、溢れ出る水を抑え切れなくなったように泣きじゃくった。
俺は彼女の体を優しく包み込むように抱きしめた。
「ごめん。。」
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その日の放課後
「マモル。」
こちらを直視できないでいるタクマは頭を掻きながら俺を呼んだ。
「……タクマ。。」
俺はバツが悪そうに名前を口にした。
しばらく沈黙が続き、それを断ち切るようにタクマは話し始めた。
「……昼は悪かったな!ちょっとやりすぎちまった!お前の気持ちも考えてやらねぇで。……すまねぇ。。」
背中から降り注ぐ西日がタクマを照らす。
「いや、俺の方こそ心配かけてすまなかった。もう大丈夫だから…さ、頭、あげてくれよ。な?」
深々と下がったタクマの肩を持ち上げて俺はそう言った。
しばらく見つめ合った後、俺らはクスクスと笑いだした。
「…そうだ!近くにうめぇラーメン屋が新しくオープンしたらしいから行こうぜ!」
俺はタクマのこういうところが好きだ。
「おう!!!!」
タクマはいつものように肩を組んできて俺たちはそのまま教室を後にした。
その日サクラさんは学校に来ていなかった。
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天気が良く、外ではスズメがチュンチュンと鳴くいつもの休日だった。
俺は右手にコーヒーを、そして左手にはパンを掴んで優雅な朝を過ごしていた。
「レッド!ブルー!そこは2人でたたみかけなさいっ!」
戦隊ヒーローたちにテレビ越しに指示した後、小指をピンっと立てコーヒー、いやカフィーを一口流し込んだ。
「ふふふふ、そうそれでいい。そのまま悪をやっつけなさーい!!」
俺はなりきっていたのだ。彼らの上官に。
そんなスペシャルな時間を邪魔するように掃除中の母は俺にお願い事をしてきた。
「ちょっとマモル頼まれてくれない?」
(ピクっ。)
俺は口まで近づけたパンをテーブルの上に戻した。
俺は知っていた。母さんの頼み事はいつも外出系だと言うことを。そして俺はテンポよく聞き返す。
「何をー??」
すると母は掃除機の電源を切り満面の笑みでこう言った。
「隣町にみすほ銀行の本店があるからそこ行ってきて欲しいのよー。」
(なにー??隣町で銀行だー?)
俺は疑問に思いボールを素早く返した。
「なんで隣町なんだよ。銀行ならすぐそこの行けばいいじゃないか!」
すると口答えするように母はこちらへ近づいてきて机をバンっと叩いた!
「本店じゃなきゃダメなの!ほら行ってきて!!」
そう言うとまた母は掃除機の電源をつけどこかへ行ってしまった。
俺はパンとコーヒーを喉に流し込んで一息ついたあと、
第5話で銀行にいこうと決意した。