第三話『淡いピンクの瞳』
そこは都心のとある交差点。
少女が独り小さく歌いながら、交差点で信号待ちをしていた。
気温が暖かくなり薄着で出歩く人々がちらほら伺えるそんな季節。太ももまでの白いワンピースを着た彼女はあたりをキョロキョロしながら第一首都東京で散歩をしていた。
ーーーーー
店内はピークタイムが過ぎて客が減り始めていた。
「ちょっ、、ごめん今なんて言った?聞き逃したわ。」
マモルは聞きそびれた振りをして聞き返した。
「おーれ!告ったの!鈴香に!!」
タクマは少し強めに恥ずかしそうに言葉を返した。
「………えぇええー!!!!!!!!!!」
顔を真っ赤にし俯くタクマに俺は質問攻めした。
「いつ?どんな風に?答えは?鈴香はなんて言ったの?!」
俺はあのタクマが鈴香に好意を持っていたなんてことに全く気づいていなかった。むしろ親友の俺に何の相談もしてくれなかったことに対するショックな気持ちすら湧いていた。
「待ち合わせ時間に遅れてきただろ?俺たち。」
「あぁ、確か1時間ほど遅れてきてたな。まさかその時に?」
タクマは少し重そうな口をゆっくりと開けた。
「高校入学してすぐお前や鈴香と出会って俺は楽しい高校生活のスタートを切れたんだ。毎日が楽しくてこれがずっと続けばいいなって思っていた。それと同時に鈴香のことを好きになっていく自分もいた。何も悩みなく過ごしてたわけじゃないよ?俺はすぐにでも想いを伝えたかったんだが。。」
少し詰まるタクマ。
「俺は俺たちの関係が崩れるのがすごく怖かったんだ。すごく怖くてそれで自分の気持ちを必死に抑えつけてお前らとの時間を大切にしてた。」
「タクマお前。」
俺の言葉に被せるようにタクマは話し続けた。
「でもやっぱり自分の気持ちに嘘はつけねぇなって、最近思うようなことがあってよ。それで意を決してさっきお前と会う前に鈴香に想いを伝えたってわけよ!」
BGMの鳴っていない店内は静かで『カラン』と氷の溶ける音がした。
俺はぬるくなったコーヒーを口に近づけごくりと飲み込んだ。
「…好きな人いるんだってよ。」
「え。。」
タクマは笑っていたがその顔はどこか切なそうに泣いていた。
「そっか。あいつ好きな人いたんだな。俺も知らなかったわ。」
俺はコーヒーを飲み干すとまた外を見渡した。
「まー気にすんなって。てかちょーモテるくせにお前振られることあんだな。むしろそっちの方が驚くわ。」
俺は揶揄うように励ました。
そしてどこかホっとしていた自分に少しだけ違和感を感じた。
「お待たせー!えなになに?何の話してたの?私も混ぜてよ!」
タイミングが良いのか悪いのか。神よ、悪戯がすぎますって。
「もうこの店出ようかって話してたんだ!もうデザートとかもいらないよな!店員さんお会計お願いしまーす!」
俺たちは空気を入れ替えるように立ち上がり店を後にした。
「そういえば最近何かにつけて騒がしいよねー。」
鈴香は俺たちの前を歩きながら言った。
「ニュース見たんだけどなんか人工知能がどうのこうの?でそれに反発する団体運動が活発化してきたらしいよー?」
そう。AIがレベル5になったことが表立った今、前と比べ物にならないほど反対運動が街中で見受けられるようになった。数こそは少ないが政府機関に火炎瓶だの投げる過激な団体もいるって噂だ。
「一応俺たちが通ってる高校もAI系の学校だから巻き込まれなきゃいいけど。」
珍しく心配そうに考え込むタクマ。
「流石に学校に手だしたりはしないんじゃない??」
そう、俺たちが通っている新世高校は未来の技術者を育成する機関直属の学校らしく、俺らはそこの工学部AIエンジニア科だ。なんでそこにしたのかは自分でもよくわかってない。ただ親が将来安泰のためにそこを受けさせた。ただそれだけだ。
「そんなことより次どこ行くよ!カラオケ?ボーリング?そーれーとーもー?」
(タクマはどこでスイッチ切り替えしてんだ。。)
ーーーーー
「カズさん。これを見てください。」
基地のような空間、あたり一面電子機器が配置された薄暗い部屋で女性が冷静沈着に話していた。
「大日本帝国軍の活動記録です。ここ最近、反対運動をする団体らが武力で鎮圧されているとの報告が各地であがっています。それも水面下で。」
軍服を着たカズヒロは紙タバコに火をつけるのを苦戦していた。
「なるほど、公にはなっていないが、反対勢力の芽を摘み始めた、ということか。メディア統制。天皇の野郎、とうとう動きやがったな。」
資料を見ながら紙タバコを吸うカズ。
「セナはこのまま帝国軍の動向を監視しておいてくれ。んで何か異変があったらまた報告してくれ!」
「はい!」
規律ある返事をしたスーツ姿のセナと呼ばれる女性はカツカツとヒールを鳴らしゆっくりとはけていった。
その日の夜
「次どこ行くよー!」
相変わらずタクマは元気いっぱいなようだ
「タクマ元気すぎ!私もう疲れたよー。そろそろ帰らない?」
無理もない。俺らはカフェを出た後、ゲームセンターやらスポッチャやらでカラダを動かしに動かしてへとへとになっていた。だから俺ももう帰って良いとさえ思ってる。
「ちょっとタクマ聞いてるー?!」
鈴香の態度を見る限りタクマとはギスギスした感じではないみたいだ。と安堵していたその時、またあの香りが鼻を掠めた。
振り変えると白い髪の女の子が人混みの中へと入っていくのを見た。
「サクラ、さん?」
俺は声になるかならないかのボリュームでそう呟き走って彼女の後を追いかけた。
「ちょっとマモル!どこ行くの?!」
そう言い俺の後を追いかける鈴香。
(なんでだ。なんで俺走ってんだ?なんで追いかけてんだ?)
「マモル!ちょっと待ってよ!」
俺は鈴香に見向きもせず一心不乱にサクラさんを追った。
すると次第にあたりは静かになっていき暗い世界に街中の灯りがキラキラと俺だけを照らしているように感じた。
走り始めてどれくらい経ったのだろう。それすらもわからなかった。俺は終いには息が切れ、膝に手をつき流れ出る汗を全身で感じながらゼェゼェと呼吸した。
くそっ。こんなことなら運動部に入って鍛えとくんだった。
そして俺はゆっくりと体を起こした。
「?!なんだここは?!」
俺の瞳に映ったそこは先ほどまでいた場所とはかけ離れた荒廃した世界だった。空は雲で覆われ、あたりには灰が舞っていて建物は瓦礫の山、とても人が住めた場所じゃなかった。
「ゲホッゲホッ」
咳き込む俺に汚染された空気が容赦なく襲った。
「ゔぉおええええ」
あまりの苦痛に何度も吐き、四つん這いで這う俺はもはや何故ここにいるのかとかもどうでも良くなっていた。
「なんだこれ。。」
意識が朦朧としてきた時、またあの香りが鼻を掠めた。
俺は渾身の力を振り絞って顔を上げた。
するとそこにはカラダが宙に浮いた淡いピンクの瞳の女の子が俺を見つめていた。
「さ、くら、さん。。?」
次第に全身の力が抜けていき、俺は意識が薄れていく最中、彼女が囁いた言葉を最後に意識を失った。
「約束は必ず守りますからね。」