第二十六話『旅行』
「マモルせんぱーい!!」
駅中の広場で1人待ちぼうけしていると、紫苑の声がどこからか響いた。声の方に視線をやると手を振る紫苑の後ろでサクラが一緒に歩いてこちらへやってくるのが見えた。
サクラのワンピースはどこまでも白く首にかけたピンク色のネックレスは差し色としてとても綺麗に輝いていた。
「よぉ、2人とも一緒だったんだな。鈴香とタクマは?」
「私はサクラさんの家から直接来たんでお二人のことは存じ上げないですよ?」
「うん、私も知らない。」
「そっか。。え、てか紫苑サクラの家から一緒に来たの?!いつのまにお前らそんな仲良くなったんだ?!」
マモルの驚愕した表情にサクラは少しモジモジさせると、紫苑はとびきりの笑顔で説明した。
「サクラさん旅行とかお泊まりとか何持っていけばいいかわからんかったらしくて、だから私が昨晩つきっきりでお手伝いさせてもらってたんですよ!」
「ちょっと、それ言わない約束!」
「へへーん。」
頬を赤くしたサクラは周りで行き交う人たちに聞こえないボリュームでそう叱ると紫苑はヘラヘラと笑った。
そんな2人がぽこぽこと叩き合ってると後ろからタクマがやってきた。
「おはよ!みんな待たせたな!」
「ようタクマ!あれ鈴香一緒じゃないのか?」
「一緒じゃないよ。俺今日家からずっと1人だったし。。」
「そうなのか。。」
『ブーッブーッブーッ』
そんな少し不穏な空気があたりを包み出したとき、マモルのスマホに一件の着信が入った。
「ん?鈴香からか。もしもし鈴香か?今どこいるんだ?もうみんな集まってるぞ?」
「助けて。。」
すると受話口から聞こえてきたのは鈴香の不安に駆られた声だった。
「おいどうした?大丈夫か?」
「マモル。。早く来て。。」
「おい!今どこいるんだ?!」
「改札入ってホームのとこ。。」
「わかった!すぐ行くからな!そこで待ってろ!!」
『ピッ』
「おいみんな!なんか鈴香がやばそうなんだ!早く行こう!」
マモルは電話を切るとみんなを連れ改札に向かってダッシュした。
「ちょっとどうしたんですか急に!!鈴香さんの身になんかあったんですか?!」
「わかんねぇ!!とにかく助けを求めてたんだ!」
そうして改札を抜けホームに出ると前屈みの体勢で1人ぽつりと売店の前で立っている鈴香の姿が見えた。
「鈴香!大丈夫か!!」
焦心したみんなが彼女の元へ駆け寄ると、鈴香は両手に何やら美味しそうなものを2つ持ってこちらに振り返った。
「ねぇマモル。。すき焼き弁当か。サーモンづくし弁当。どっちがいいと思う。。」
「へぁ?!」
ゼェゼェと息を荒げたみんなの心配を他所に鈴香は駅弁をどっちにするかで悩み果てていたのだ。
「はぁ?!助けてほしいって、弁当選びのこと?!なんだよー!!」
マモルはそう叫びながら近くにあったベンチに力無く座ると鈴香は少し怒ったように声を荒げた。
「なんだよってなによー!!旅のお供に駅弁は必須でしょー?!行き帰りにひとつずつしか食べれないんだから慎重に選ぶの当然でしょ!!」
腕を組みフンッとそっぽを向く鈴香にマモルは『はぁ。。』とため息をつき正論を突き刺した。
「じゃあ行きにどっちか食べて帰りにもう一個の方食べればいいじゃん。。」
「あっ。。」
徐々に顔が赤くなっていく鈴香にみんなも深いため息をついた。
ーーーーー
「あーん。んー!おいしー!!」
新幹線に乗った5人はマモル、タクマそして通路を挟んで鈴香、サクラ、紫苑の順に席に座っていた。
「鈴香さんサーモンのお弁当にしたんですねー!めっちゃ美味しそうですー!!一口だけくれませんか?!あーん!」
サクラの太ももに両手を置き鈴香に向かって大きな口を開けると鈴香は一口サイズにサーモンを箸で切りお寿司のようにして彼女の口に放り込んだ。
「んー!!めっちゃ美味しいですー!!これサーモン弁当選んで正解でしたねー!!」
とろけ落ちそうなほっぺを両手で持ち上げるとキラキラとした目で天井を見上げた。
するとサクラも美味しそうな目でごくりと駅弁を見た。
「ん?何?サクラちゃんも食べたいの?」
「………うん。食べたい。」
「ふーん。」
鈴香は意地の悪そうにニヤニヤとした目つきでサクラのカラダを舐め回すように見ると目を閉じ天を仰ぐようにして言った。
「じゃあお願いして。」
「え?」
鈴香の言葉に男性陣の視線がキッと彼女たちに集まった。
「………お願い?」
「そう!『最後の一口食べさせてください』ってお願いして!」
「え。。と。どうしよっかな。。」
困惑するサクラに鈴香は片目を開けるとさらに意地を悪くした。
「あっそ、じゃあいらないのね?最後の一口なのに。私食べちゃおー。あーん。」
「あっちょっと待って!」
サクラは急いでカラダを鈴香の方へ向け背筋をピンと伸ばした。
「あの!私に最後の一口を食べさせてください!」
少し焦るようにそう言ったサクラを男性陣が汗をかきながら見守る中、鈴香は小声で囁いた。
「………違うでしょ。」
「え?」
「違うでしょ!もっとエロくいじらしい感じでお願いして!」
通路越しではマモルとタクマが『ナイス鈴香!!もっと凄いの頂戴!もっとエグいのよろしく!!』と声を大にして白熱していた。
「えっと。。あの。。」
「ふーん?どうしたのかしら食べたくないのかしらー?」
「くっ。。」
今にも自分の口に放り込んでしまいそうな鈴香に、決心したサクラは顔を真っ赤にしながら席を立ち、席に右膝と左手を置き、右の人差し指を顎につけるとこう言った。
「あの、最後の一口食べさせていただいていいですか?」
「「カハァッ!!!!」」
そのあまりに可愛い困り眉に上目遣いなときめきはマモルとタクマを一瞬にして石に変えてしまった。
そして同じくあまりの可愛さに鈴香自身も赤面していた。
「い、いいわよ。はい、じゃあ口開けて?あーん。」
「あーん。」
そうしてサクラの開いた口にサーモンご飯が入ろうとしたその瞬間。
「あーん。パクッ。んー!!美味しすぎるー!!!!」
割り込む形でサーモンご飯を口にしたのは紫苑だった。
彼女はまたキラキラとした目で立ち上がると、ほっぺを両手に天井を高らかに見上げていた。
「え。。うそ。。でしょ。。。。」
蒼白としたサクラの声にあたりの空気がどんどん冷めていくと、紫苑は我に返ったように慌てふためいた。
「ハッ!ごめんなさい!これはあの何ていうか不可抗力で!一回食べたら病みつきになってしもーて!だからその。。あ!私ちょっとトイレ行ってきますねー!ほなー。さささー。」
あまりのショックで動けないサクラから逃げるように彼女はどこかへと走り去っていってしまった。
そして、、
「だからなんべんも謝ってるじゃないですかー!ほんまにごめんなさいってー!!」
「………。」
30分ほど乗った新幹線を降りた5人は目的地までの道を徒歩で向かっていた。そしてその道中顔を背け、一切目を合わせてくれないサクラに紫苑は手を焼いていた。
「どうしたら許してくれるんですかー。。……あ、そうや!ほんなら今度私の実家で手料理ご馳走しますから!一流の食材を使ったお招きいたします!だから!ね?それで許してくださいよー。。」
「……それって美味しいの?」
片目でちょこっとこちらをみたサクラに勝機を感じた紫苑はここぞとばかりに畳みかけた。
「そ、それはもちろん!実家に代々伝わる様式で作り出されるその料理の数々!その和食たちの色彩豊かな見栄えはもちろんのことサクラさんの舌を満足させること間違いない五味はきっと貴方様をとろけさせることでしょう!!」
「ほんとに?」
「お約束します!!!!」
頬に汗をじりっとかいた紫苑をじーっと見つめるとサクラは根負けしたようにため息をついた。
「はぁ、しょうがないなぁ。じゃあさっきのことは水に流すね?でも約束本当に守ってよ?」
「わー!ありがとうございますー!!サクラさん!きっとあなたを満足させる料理を作るとお約束しますー!!」
「ちょっとあんまりくっつかないでよ!暑いって!」
べたべたと抱きついてくる紫苑にサクラが困っていると先頭で歩くタクマがこちらに振り向き大きく口を開いた。
「お前らー!着いたぞ!!ここが今日寝泊まりする宿だ!」




