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第二十四話『それぞれの守り人。』




SOAG本部の一室で細くて美しい指先がシームレスなタイピングを奏でていた。


「………はぁ。」


ヒロは少し深いため息をつくと眼鏡を中指でクイっと持ち上げ、再びキーボードをリズミカルに打ちこんだ。


「………。」


キュルキュルっと椅子から立ち上がるとヒロは窓際に立ち、縦状に重なったブラインドカーテンを『シャッ』と開いた。

暗い部屋に月の明かりがサッと入り込むと目を少し細め、どこを見るわけでもなく瞳に都内の夜景を映した。


「………。」


ーーーーー


時を遡ることその日の夕方頃。


「最近帝国の動きやけに静かだと思いません?嵐の前の静けさみたいでなんだか怖いんですけど。。」


「確かに。反政府団体のデモが少なくなってきたとはいえ前のような積極的な鎮圧活動は表立ってニュースになっていないな。。」


休憩室でぐでっと机に横たわるサラの横でセナはホットコーヒーを両手で包むように持っていた。


「警戒はするべきね。。何か企んでいることには違いないんだから。私たちができるのはその何かがあったときにいつでも対応できるように常に万全な状態にしておくことよ。」


2人の前に座るリサは資料に目を通しながらそう言った。


「でもその何かがわかんないから怖いんですよー。いつ命狙われるかわかんない恐怖と戦うの結構精神削るんですよー?」


「はは。でもそれはサラだけじゃなくみんな同じ気持ちなんじゃないか?」


突然の声にサラはガバッとカラダを起こすと食券機の前に立つ男に目線を移した。


「「レンさん!!」」


「よっ!」


レンはサラとセナに向かって軽く手を振るとボタンをピッと押し、出てきた食券を手に取ると彼女たちの座る机へと近づいた。


「リサさんお隣良いですか?」


「………えぇ、いいわよ。」


リサは端末を見ながらそう返事するとレンは彼女の隣に腰をかけた。


「レンさんも怖いんですか?」


サラは対面に座ったレンによそよそしくそう尋ねると彼はコップの水を一口飲んだ。


「そりゃそうよ。俺なんてソーグと帝国を行ったり来たりしてるんだ。神経が擦り切れるってもんじゃない。正直いつバレるか毎日ビクビクしながら生きてるよ。」


「「………。」」


遠い目で話すレンにサラとセナはなんとも言えない気持ちになった。するとリサは端末の電源を切り、目を閉じてレンを安心させるように話しかけた。


「あなたは本当によくやってるわ。あなたが帝国で上手いことやってくれてるおかげでここ本部も目をつけられず今日の今日まで活動してこれたのよ。これまでもこれからも。もし本当に身の危険を感じたらいつでもスパイ役降りてくれて構わないからね。」


リサはそう言ってレンに目を向けると彼はキョトンとした面持ちをしていた。そして徐々に温かな表情を浮かべるとレンは落ち着いた声で口を開いた。


「リサさんにそう言ってもらえるとは思ってもみなかったです。でも僕は大丈夫ですから。」


そして神妙な面持ちでリサの目を見ると続けて話した。


「僕は、僕の大切な人を守るために命をかけてでもやり切ってみせますんで。」


レンはそう言うと食券をぎゅっと握りしめ、そのまま料理を受け取りに行った。


「大切な人って誰なのかな。」


「わかんないけど、彼女さんとかじゃないか?」


ヒソヒソと話し込む2人を見てリサは口元を少し緩めた。


時同じくしてSOAG本部屋上では1人の男が柵に両手をかけ、強く吹く風で服をパタパタと靡かせていた。


「………。」


彼は都会に少しずつ灯りが灯されていくのを見届けると電子タバコをポケットから取り出した。その青く艶やかな色をしたそれを吸っては吐いてを繰り返した。そして思い詰めたような顔でもう一度口元へ近づけると、吸うのを躊躇った。彼は目を静かに閉じるとそれをポケットにサッとしまい屋上から立ち去った。


一方食事を終えたレンは3人と別れソーグ本部の自室へ戻っていた。


「よし。ラストスパートやるか。」


ぐーッと伸びをすると席に座りラップトップを開いた。

すると突然『ウィン』と部屋の扉が開き男の声が耳に届いた。


「働きすぎってやつじゃないのかい?」


レンは振り向くとその男は両手に赤ワインと2人分のグラスを持っていた。


「ヒロさん。。」


「ふふ。一杯付き合ってくれないかい?」


ヒロはそう言うと部屋に入り、中央にあるテーブルへと向かった。


「ヒロさん。。俺なんか全然ですよ。もっとみんなの役に立ちたいのに俺のせいでなかなか帝国の尻尾掴めなくて。。」


「いやいやレンは頑張ってくれてるよ。本当に感謝してる。だから、今日ぐらいは休んだらどうだい?」


ヒロは部屋の中央にあるテーブルにグラスを置くとレンに背中を向けるようにしてワインを『キュポンッ』と開け紅く透き通ったリキッドをトクトクと注いだ。


「ほら、こっちおいで。」


そう言って椅子に腰掛けるとヒロは指先でグラスを持ち、優しくゆらゆらと回した。するとレンは少しキーボードをタイピングし『パタリ』と閉じるとヒロの座るテーブルへと歩み寄った。


「ではお言葉に甘えて。失礼します。」


そう言って椅子に座るとグラスを持った2人は呪文のように口を揃えた。


「「ツムヴォール」」


レンは目の高さほどに持ち上げたグラスをゆっくりと口に近づけるとごくりと音を鳴らした。


「そういえばヒロさんてなんでソーグに入ろうと思ったんですか?何か理由とかあるんですか?」


するとヒロは肘掛けに肘をつき、ゆらゆらと揺らす手を止めるとワインを見つめながら静かに話し始めた。


「僕とカズは小さい頃何をするのもずっと一緒だったんだ。幼馴染ってやつだね。どこ行くのも遊ぶのも、彼のいるとこに我ありって感じでね。」


寂しそうに語るヒロにレンは相槌無く静かに聞いていた。


「僕はねそれがずっと続くと思い込んでいたんだ。というより願ってたんだ。ずっと続いて欲しいって。でも実際はそんなことなく、歳を重ねるごとに僕たちの間には溝ができていってしまったんだ。」


ヒロは一口ワインを口にするとさらに続けた。


「カズは昔から勉強が苦手でねぇ。そのせいで進学のタイミングで別々の道を歩むことになったんだ。そして自分で言うのも呆れるが僕はそこそこ良い学校を出て大手の企業で勤めていたんだ。でもつまらなかった。今思うと人生に飽きていたんだろうね。彼と別れてからは勉強の日々に明け暮れ、勤め先では見たくもない人間同士の汚い世界をずっと傍観していた。刺激がなく僕は生きる意味を持たず、ただ社会の歯車として言われるがまま動く機械の一部になってしまっていたんだ。そしてそんなとき再び僕の前に現れたのが、」


「カズさん?」


パズルを合わせるようにレンはつぶやいた。


「そう、久しぶりに会った彼は歳をとっても生き生きとしていた。こう信念を貫いてるというか、『今やっていることが間違ってるかどうかじゃない、やり通すことに意味があるんだ!』って口を開けばそんなことを口癖のように放っていたよ。」


「へぇ。。カズさんてそんな熱血教師みたいな人だったんですね。。」


レンはグラスに口をつけ喉を潤した。


「でもある日を境に彼は自分に自信を失い、決断力が著しく低下してしまったんだ。。きっとあの人を失ったのが原因なんだろうね。そんな彼を見て僕は『彼を助けたい』と思ったんだ。それが僕の、」


『ゴンっ』


ヒロが目を瞑って話を続けていると突然テーブルが鈍い音を立てた。目をゆっくりと開けるとグラスを握ったままレンはテーブルに頭をつけ死んだように眠りについていた。


「………。」


ヒロは静かに立ち上がるとレンの頭を少し撫でた。


「………。」


レンの顔をしばらく見つめると彼のラップトップの方へと向かった。席に座りパソコンを立ち上げるとポケットからUSB端子のようなものを取り出しラップトップへ接続した。そしてしばらくの間キーボードをカタカタと叩くと、時折りテーブルで眠るレンに視線をやった。


最後にエンターキーを『タンッ』と叩くとUSB端子はオレンジ色に点滅し、ラップトップの画面には


『Now Downloading 』


という文字が現れ、そのすぐ下には少しずつ満たされていくゲージが表示された。ヒロはゆっくりと増えていくパーセンテージとテーブルで寝ているレンに交互に視線を移すと、人差し指で机の上をトントンと急かすように何度も叩いた。

すると、


「うぅん。。。。。あれ、、」


ゲージが残り13%ほどに差し掛かった頃、レンは意識を取り戻した。


「よほど疲れてたんだろうね。。話の途中で気持ちよさそうに眠りについていたよ。。」


そう言いながらヒロは水の入ったチェイサーをテーブルにコトっと置いた。


「あぁ、すいません。。いただきます。。」


レンはごくりとそれを飲み干すとスッと立ち上がりラップトップの方へと向かった。


「じゃあそろそろ仕事に戻りますね。。ワインありがとうございました。」


閉じられたラップトップに繋がれたUSB端子は未だオレンジ色に点滅していた。


「少し無理しすぎなんじゃないかい?ベッドで横になった方がいい。とにかく君は休むべきだ。」


行く手を阻むようにヒロはレンの前に立った。


「いえ、俺には休んでる暇なんてないんで。。」


横を通ろうとするレンにヒロは彼の両肩を力強く掴んだ。


「レン!僕たちは君にカラダを壊されては困るんだ!だから今日くらいは素直に休んでくれないか?」


ヒロの異常なまでの対応に少し困惑しつつも根負けする形でレンは答えた。


「………わかりました。。それでは今日はもう休むとします。。」


レンは渋々テーブルの側にあるベッドに横になると、ものの数秒でスースーとまた寝息を立て眠りについた。

ヒロは彼にシーツをサッとかけると『おやすみ』と言い部屋の明かりをパチっと切った。そして帰り際に緑色に光ったUSB端子を引き抜くとそのままポケットに入れ部屋を去った。




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