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第二十一話『京真太郎』




「やはり予定を前倒しにするべきではないのか?近頃テロリストの活動が過激になっていると聞いたが?」


「ご心配には及びません。そちらについては現在軍による鎮圧作業を急いでおります。ですのでリアプロジェクトの開始はかねてよりの日時から変更する必要はございません。」


床に『音声のみ』と赤文字で大きく表示された暗い空間で慶は古老の声と話をしていた。


「来たるべき日に備え、全ては計画通りに進んでおります。なので何も案ずる事はありません。もう間もなく我々人類はここ第四の世界で永遠の時を過ごすことになります。」


「………このプロジェクトに関しては全てを君に一任している。決して我々を失望させるでないぞ?」


「はい。心得ております。全ては、アーヴィングの御心のままに。」


慶の言葉を最後に床の文字は『ブンッ』と消え部屋は暗く息を潜めた。




ーーーーー




日光が真上から降り注ぐ山奥で腰に刀を携えた浴衣姿の男が苔の生えた大きな岩の上であぐらをかいていた。

ひとつに結ばれた長くごわごわとした髪に乾燥した髭、隙のない鋭い目つきには、ただただ闘うことにのみ生きる意味を見出だしてきた思想と、それとは別にほんの少しの穏やかさを兼ね備えていた。


あたりは緑の多い木々に囲まれ、近くでは滝波がバシャバシャと水面を白く濁らせていた。

静かに瞑想するその侍のような男は風で樹木の軋む音や小動物の鳴き声をカラダで感じ取りながら少し前のことを思い出していた。


ーーーーー


『京真太郎様でしょうか?』


『ん?誰や?お前さん。なんでわしの名前知っとるんや?』


着物を着た女性に話しかけられた真太郎は特に警戒する様子もなくフランクに言葉を返した。


『私、天皇陛下の遣いでやって参りました。金子杏と申します。本日は真太郎様にお言付けがございまして拝謁しました。』


彼女の陶器のような美しさと、全てを受け止める女神のような眼差しは知性と感性が均一に輝きを放っていた。そしてその瞳は慶と同じ千草色に染まっていた。


そして深くお辞儀する杏に少し揶揄うように真太郎は腹を向けた。


『ははっ。天皇さんが一体ワシに何の用があるっていうんや。』


『それは………』


杏は目を瞑りながら事の成り行きを説明した。


ーーーーー


目をゆっくりと開いた真太郎は日本刀を両手で掴むや否や刀を一気に『スパンっ』と引き抜いた。するとその真剣には舞い落ちる木の葉が反射していて、その葉っぱは時間差で2枚に分かれると地面にはらりと落ちた。


彼は刀をサッと鞘にしまうと岩から飛び降り、前方からこちらに歩み寄る白髪の少女に目をやった。彼はニヤリと右の口角を上げると少女は声を出すわけでもなく口パクで何かを言った。するとその少女の目の前には見慣れたソードが突如出現し、それを右手でぎゅっと掴むと真太郎に向かって剣を突き刺すように突進した。


ものすごいスピードで突っ込んでくる少女を真太郎は入り身でかわし、その運動エネルギーを利用して腰に備えた刀で少女の腹を『サンッ』と斬り撫でた。すると彼女のカラダは上半身と下半身で分かれそのまま勢いよく地面に倒れ込んだ。『ピシャッ』と血振りして刀を静かに鞘に収めると今度は彼を囲むようにして同じ姿をした少女たちが現れた。


10人はくだらないその数に臆することなく再び真太郎は刀を引き抜くと少女たちはまた口パクをした。

すると次は少女たちの腰に日本刀が出現し、彼女らは居合の構えで待機した。そして1秒とも経たない刹那に彼女たちは一斉に突風と共に轟音を轟かせた。すると真太郎の立つ場所に数十の丸い空間の歪みが出現した。真太郎は一瞬のうちに危険を察知し上空へと高くジャンプすると空間の歪みからは何重にも重なった斬撃の音が鳴り響いた。


「なるほどな。とんでもない速さに刀が抜かれたことにすら気づかんかったわけやな?その女は。」


落下中にそう呟いた彼の後ろに素早くジャンプした少女がまた居合いの体勢で構えた。


「おんなじ手は通用せぇへんで!!」


楽しむようにそう言い放った彼は瞬時に刀を抜き少女の右手首を斬り落とした。そしてその流れで少女の頭を上から蹴り落とし地面に叩きつけた後、真太郎も華麗に着地した。


しかし少女たちの追撃は彼に休む暇を与えなかった。

ソードワンやソードツーをランダムに持ち替えた彼女たちはさらに一斉に突撃した。


「はは!そうやないとあかんよなぁ!!」


真太郎は殺意のこもった笑顔でそう言うと1人、また1人と彼女たちを戦闘不能にしていった。


「9枚斬り!10枚斬り!!で次はどこおるんやぁ?!」


殺気に満ち溢れた目つきで振り返ると岩の上に武器を一つも持たない少女がぽつりと立っていた。


「君で最後や。そんじゃサクッと終わらせてもらいますわ!!」


真太郎がそう言い刀を構えたその時、


『………』


少女はまた口パクで呟いた。するとその瞬間彼女は上空へとジャンプしソードワンを両手に装備した。


『二刀流にしたところで結果はおんなじやで。。』


余裕な面持ちの真太郎に向かい少女は落下の勢いを利用して2本のソードワンを振りかざした。


『キィーンッッ!!』


刀同士が火花を散らし、カチャカチャとつばぜり合いをした。


「なんやお前。。さっきの奴らと全然ちゃうやんけ!………おらぁ!!!!」


真太郎は先程の少女たちとは明らかに違う強さの彼女に冷や汗をかいた。そしてなんとか刀をいなすと彼は回し蹴りで彼女を突き飛ばした。


『ドゴーンッ!!』


岩に叩きつけられた反動で少女は刀を落としたがまたソードワンを2本出現させた。


「おいお前!!そんなん卑怯やろ!!男やったら正々堂々と戦えや!!……って男じゃなかったわ。。」


真太郎は刀を少女に向け叫んだが彼女はまた凄い速さで突進してきた。


『キーンッキーンッ』と2人は刀同士を何度も交わらせたが人が変わったように2本のソードを巧みに操る少女に彼は苦戦を強いられていた。


「クッ。いい加減に、せぇや!!!!!」


真太郎は苛立ちを見せ少女の右手のソード『カキーンッ』と空に弾いた。


「っしゃ!!この勝負もろたでぇ!!死んでくれやぁ!!」


そう言いながら少女に刀を振りかざしたその瞬間、彼女は右回転でその斬撃をくるりと華麗にかわし左の腰に突如出現したソードツーを右手で引き抜くとそのまま真太郎の腹を斬り撫でた。


『キィーンッ!!!!』


間一髪で真太郎はその刀を防いだが少女はその一瞬を見逃さなかった。


「あっぶんね!!…は!!」


『ザンッ!!!!』


彼女はノーマークになった左手のソードで彼の喉を突き刺していた。


「あ、あぁ。。。。」


真太郎は驚きのあまり声を出せずにいると、


『シミュレーション終了。シミュレーション終了。』


どこからともなく機械のような女性の声が響き渡りあたりの風景が『サーッ』と小さく消え真っ白の広い空間へと移り変わった。そしてそれと同時にそこら中に横たわっていた少女たちの遺体も粒子のように散っていき真太郎に突き刺さったソードも粉々に消えていった。


「いやーちょっとやり過ぎちゃいましたか?最後の最後でシステムレベルを最高にしてみたんですが流石の真太郎さんも負けちゃいましたねぇ。」


ニコニコしながら近づいてきたのは伊達アキラだった。


「……どうりであいつだけ毛色違うおもたわ。。いくらホログラムやとしても真剣で刺されるのは気分悪いわ。。ほんま。。」


真太郎は刺された首を触りながらどっと汗をかいていた。


「今までの彼女のデータを元に色々な可能性を加味して作っているのであながちあんな風になるかもしれませんよ?次は本物でひと突き刺されないようにしないとですね?」


手で喉を刺すジェスチャーをしたアキラは目の座った笑いを浮かべた。


「あと刀の種類も2種類だけとは限りませんしね。いろんな可能性を考えておいてくださいね。ふふふ。」


そう言ってその空間から歩いて立ち去ると入れ違いで金子杏が入ってきた。


「ほんもんのサクラっちゅう女もあんくらい強いんか?」


椅子に座り悔しそうにそう言う真太郎の汗を、押さえるように拭き取ると杏は静かに答えた。


「それは私には分かりかねます。。ですがアキラ様も仰っていた通り何が起きるか分かりませんから、、真太郎様も万全を期して臨まれたほうが良いかと思われます。。今日はもうお休みになりますか?」


すると真太郎は杏の持つタオルを勢いよく奪い取り苛立たしげに言った。


「いや、もっとや。次は最初から難易度マックスや。。」


「………わかりました。では。」


真太郎の意向を汲み、ぺこりとお辞儀をすると彼女は部屋を出ていった。浴衣を『ビシッ』と着直すと『シミュレーション開始』と女性の声が響いた。

室内は『サーっ』とノイズを走らせながら先の景色に戻ると真太郎の前には何人もの白髪の少女がまた現れた。




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