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第二話『告白』




「はじめまして!サクラ・ニルヴァーナです!」




一見冷ややかさを感じさせるその凛とした瞳は淡く親しげのある桜色で、見るもの全てを優しく包み込んだ。そして固く結ばれたその唇からは彼女の内に秘める強く穏やかな意志が感じられた。


いったいどれほどの時間が経ったのだろう。

凍ったように固まったみんなを溶かすように先生は話し始めた。


「ご実家のご都合でうちの学校に転入されました。みなさん仲良くしてあげてくださいね!」


教室内は少しずつ時間が流れ騒がしくなっていく。


「ではニルヴァーナさん、あちらの席に座ってください。」


先生は優しく彼女に話しかけ、僕の席とは反対側の席に座らせた。


休み時間


「マモルあの子のことどう思うよ、俺も話しかけに行っちゃおうかなぁ。」


彼女は既にいろんな奴らに囲まれていて俺らが話しかける隙なんてものは1ミリも残されていなかった。


「あぁ、めちゃくちゃ可愛いよね。みんなが話しかけに行くのも当然って感じだな。」


だけどそんな彼女を眺めているとほんの一瞬だけ目があったような気がした。そんな気がした。


ーーーーー




「ごめんなさい。。」




ーーーーー


「マ……ル…マ…モ…く…マモルくん……」


「うーん。やべっ今日も寝ちった。最近毎回これだよな。今日はカラオケ行けるよー。」


ねぼけまなこなマモルは目の前にいるのがタクマじゃないことに気づかずそのまま帰り支度を始めた。


「でもゲームしたいから早めに帰るかも…ぉわぁあ?!」


窓から入ってくる隙間風を帯び、サラリとした甘い香りが体を貫いた。


「さ、サクラさん?!」


驚きのあまり後ろに倒れた俺を心配そうに、そしておかしそうに笑いながら手を差し伸べてくれた。


「あ、ありがと。。」


「うんうん!こちらこそ驚かせてごめんね!」


彼女は笑顔で首を横に振った。


「ほら昼間はさ、いろんな子が話しかけてくれるじゃない?だからこうでもしないと邪魔が入っちゃうかなぁって。」


彼女は手を後ろで組み、ほんのりと頬を赤らめていた。


俺は未だに何の理解もできずにいた。周りを見渡しても、いるのはこの子と俺だけ。


(なんで?)

(なにゆえのやつなの?)

(イべントでも始まったの?)


混乱している俺をよそに彼女の視線はずっと俺を捉えていた。

そして戸惑っているとこをさらに追い討ちをかけるようにサクラはマモルに駆け寄りぎゅっと抱きしめてきた。


「えぇ?!ちょ、、えぇ?!、、、」


突然のことで全身が硬直した俺は何もできないでいた。

そんな中彼女は軽く深呼吸をして慌てるように話し出した。


「ごめんね!ほんとびっくりだよね!今日初めて会った女にハグされるなんて嫌だよね!…でも。」


そしてもう一度深呼吸をしてからボソッと呟いた。


「もう少しだけこうさせて。。」


えぇ。俺は。どうしたらいいんだ?

とりあえずよくわかんないけどこんな美人にハグされるなんて今後一生無いと思うから甘んじて受け入れておこう。

うん。受け入れておこう。


「ごめんね!もう大丈夫!じゃあ気をつけて帰ってね!」


「え。。」


彼女は手を離すと半ば強引にそう言い残し、手を振ってそそくさと教室を出ていった。

紅く照らされた教室に訳もわからない俺はただ一人ぽつりと突っ立っていた。


帰宅路


「なんだったんだろう。」


俺は教室での出来事を思い出していた。


『もう少しだけこうさせて。』


そのフレーズを頭の中で何度も再生しては巻き戻してを繰り返して俺は終始ニヤけていた。


「ママー、あの人ニヤニヤしてるよー?」

「よしなさい!見ちゃダメ!」


(やべぇっ。)


マモルは思い出し笑いを道ゆく人に悟られないよう俯きながらそそくさと歩いて帰った。


「ただいまー。」


「お帰りなさい!今日は遅かったのね。どこで遊んでたの?」


「別に。ゆっくり歩いてたから遅くなっただけだよ。」


「あそう。なら先にお風呂入っちゃいなさい。ご飯もうちょっとかかるから。」


キッチンから聞こえてくるグツグツ煮える音が食欲をそそった。


「この音、さてはカレーだな。。」


「肉じゃがよ。さっさとお風呂入ってきなさい?」


ーーーーー


「これは確かなのか?」


「はい。間違いなく。」


薄暗いバーのような空間で2人の男はテーブルを挟んで座っていた。


「本当だとしたらとんでもないことになるんじゃねえのか?。……無視はできないな。」


キツそうな襟を軽くほどいたその男は紙タバコに火をつけ、ゆっくりとため息をついた。


「私は引き続き内部調査を進めていきます。何かあればまたご報告いたします。」


そういうと黒のスーツを着た何者かは立ち上がり姿を消した。


「大日本帝国。何企んでやがんだ。。」


半分ほど吸ったタバコを消し、彼もそこを立ち去った。


ーーーーーー


「マモル今度の日曜暇?」


珍しく鈴香が俺の教室に来ていた。


「今のとこ何も予定はないけど。どしたの?」


「そうなんだ!じゃちょっと買い物に付き合ってよ!茶道部に新しく入った子達のためにレクリエーション開く予定なの!」


そっか鈴香は茶道部だったな。そういえば昔着物着てお茶作ってくれたっけ。


とそこへ聞き馴染みのある声が聞こえてきた。


「おいおいおいおいお二人さーん!ちょっと釣れないじゃないのーっ」


タクマだ。


「なんか面白そうな話してんじゃん!俺も連れてってよ!」


そう言って彼は座っているマモルに肩を組んだ。


「……うんいいよ!タクマも一緒に行こ!じゃ授業始まっちゃうからもう行くね!詳しくはまた連絡する!!」


授業開始のチャイムと同時に慌てて走っていった鈴香は果たして間に合ったんだろうか。。


日曜日当日


真っ青な空。白い雲。そしてまだ少し冷たい風。

昨日の天気予報では100%雨と言われていたのに改めて自分が晴れ男なのだと実感せざるを得なかった。ありがとう俺。


「確かこの時間にここ集合だったはずなんだけどあいつらまだ来てねーのか。」


今思い返せばあいつらが時間通りに待ち合わせ場所に来た試しは1度もなかったなぁ。人通り凄いんだから勘弁してくれよ。

そうして待ち始めて1時間が経とうとした時、どこからか嗅いだことのある香りが風に乗って漂ってきた。


「あれこの香りどっかで。。」


すぐに消えたその香りを探すようにあたりを見渡しているといつもの衝撃が俺を襲った。


「「お待たせー!!」」


「どぉわ!!」


前によろけた俺は脳細胞の減少を確認した後、後ろにいる2人にとびきりの怒号を浴びせた。


「ぅお前ら今何時だ思ってんだぁあああ!!!!連絡もなしに1時間遅刻する奴がどこにいるんだぁああ?!?!このバカぁっ!!」


俺は1時間分の怒りを全て吐き出した。


「ごめんごめん!ちょっとねー、!!」


いつもと違う鈴香の態度に少し違和感を覚えたがあまり気に止めないでおいた。


「そいえば今日ってどこ行くんだっけ?」


タクマに続くようにマモルも話し出した。


「確か茶道部のレクリエーション用に買わなきゃいけないものあるんだったよな!」


するとそれを聞いた鈴香は少し溜めてから言った。


「あーあれね!結局別の子が買い出しに行ってくれたみたいなの!だから今日はもう3人で遊ぶ日にしよ!!いやー持つべきものは友だなー!」


見た人全てを幸せにするんじゃないかってくらいの鈴香の笑顔はいつ見ても素敵だ。ごっそさんです。俺は心の中で静かに合掌した。


『グゥゥウウ』


「俺もう腹減って力出ねーよ。。朝なんも食ってねーんだよなぁ。」


腹を押さえ猫背のタクマ。


タクマ君、そんなこと言っちゃってくれてますが俺はそれにプラスアルファ1時間君たちを待ってたんだが?

俺はピキピキと喉まで出かけたその言葉をなんとか生贄にすることに成功、そして引きつった満面の笑みを召喚した。


「じゃまずお昼にしよっか!この近くでお洒落なカフェがあるの!そこのサンドウィッチが今流行ってるらしいよ!」


「お!さすが鈴ちゃん!流行りの波に乗ってんねー!」


飯の話になりタクマも元気を取り戻したみたいだった。


「じゃまずそこ行って腹ごしらえしようか!」


そうして俺たちは腹を満たしにカフェへ向かった。


流行りのはちみつカフェ


「ぷはー!食った食ったー!やっぱ流行ってるだけあって味に関しては申し分ねぇな!」


タクマはぽんぽこと音が鳴りそうなほど膨れた腹をさすりながらスマホをいじっている。


「鈴香が予約してくれてたおかげもあってすんなり入れたな。ありがとうな。」


俺は横に座っている鈴香に向かって感謝を伝えた。


「えっへん!そうでしょそうでしょ?!これぞできる女!もっと私の事褒めてくれてもいいんだよー??」


腰に手を当て自慢げに鼻息をフガフガしている鈴香を見て少し笑うマモル。


「ちょっと席外すね。」


そう言って席を離れた鈴香が見えなくなったのを確認すると神妙にタクマは話し始めた。


「お前に話さなきゃいけないことがあってさ、あんま驚かないで欲しいんだけど。」


俺は窓越しに外を眺めていたがなんとなく心の中で構えた。

タクマは氷の溶けた水を少しだけ口に含みそれを飲み込まずに口の中で軽く馴染ませた後、言葉を投げた。


「俺、さっき鈴香に告ったんだわ。」



「……え。」



瞳孔がキュッとなるのを感じ、俺は言葉を失った。




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