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第十九話『私が二人を守ります。』




鈴香とタクマがそれぞれに意思を固めたその夜、すっかり怪我も治り元気になったサクラとマモルはソーグ本部を出て帰路に着いていた。


「で、なんで紫苑さんもいるんですか?俺たちもう2人で帰れるんですけど。。」


「そんなこと言わんとってくださいよ!これでもお二方のお目付役でもあるんですから送り迎えもして当然なんです!あと私のことは呼び捨てしてもらっていいんですよ?」


「はぁ。」


サクラと俺の間を強引に割り込むように歩いてるこの女性は俺たちの身柄を守る護衛役としてSOAG第二首都大阪支部から派遣されたいわばSPだ。そして1つわかったことがある。それはこの子はかなり図々しいということ。わざと俺たちを挟んで歩くあたりが特にそう思わせる。。


「ていっても未だに信じ難いんですよね。。いっても1人の女性だ。もし大勢で襲われた時、果たして紫苑1人で俺たちを守り切れるのかって…え?」


話してる最中マモルは突然、視界いっぱいに夜空が広がっていることに気づいた。そして勢いよく背中から地面に叩きつけられると紫苑が上から見下すように見下ろしていた。どうやら一瞬のうちに投げ技で一本取られていたみたいだ。


「あんまり私のこと舐めとったらあきませんよ?こう見えて幼少期から護身術やらなんやら骨身に染みるほど叩き込まれて育ってるんですから。」


どこから取り出したかわからない警棒のようなものをシャキンっとマモルの首元に突きつけると、横では今にも掴みかかりそうなサクラが紫苑を睨みつけていた。


「わわわわかりました!降参降参!あんたの凄さはわかったから!その物騒な物しまってくださいよ!ね?」


仰向けにながら白旗をブンブン振り回すマモルを見て、人を殺すような目をしていた紫苑はいつもの柔らかな顔つきに戻り謝りながらマモルに手を差しのべた。


「て言うのは冗談です!マモルさんたちを守るのが私の仕事なんでちょっと手荒になっちゃんたんですけど、こうした方がわかりやすいかなーって思って!だからサクラさんもそんな怖い顔で見つめやんとってください!ほんま冗談なんで!」


「次は無いと思ってください。」


「う……気をつけます。。」


ブンブンと手を振る紫苑に鋭い目つきで一言釘を刺すとサクラはマモルの土のついた服をパタパタと払った。


「とにもかくにも紫苑の強さは本物ですね。俺が一瞬のうちに投げ飛ばされるなんて。。ちょっとショックでもあるけど。。あの、女性だからとか言って本当すいませんでした。。図々しいとは思いますが改めて、これからよろしくお願いします。」


「………はい!!こちらこそよろしくお願いします!!」


痛む腰を押さえながらマモルは紫苑と握手を交わし3人はまた帰り道を歩いた。


「ありがとう!なんか色々バタバタしてたけどなんとか一件落着したし、束の間だと思うけどまた明日から普通の学校生活送れそうだ。」


3人はマモル宅に着くと名残惜しそうに少し会話をしていた。


「ね、ねぇ、マモルくんが良かったらなんだけど今日も私の家に泊まりに来てもいいんだよ?また誰が襲ってくるかわからないし。。」


「ありがとう。でも母さんも心配してるだろうし今日はこのまま家に帰るよ。」


マモルは寂しそうに提案するサクラを優しく撥ね付けるように断った。


「そんなことより紫苑、サクラを家まで送り届けるのよろしくお願いしますよ!」


「はい!任せてください!紫苑の命にかけてもサクラさんを無事送り届けてみせます!」


そう言ってピシッと敬礼をした紫苑の横でサクラは何か言いたそうな相形を浮かべていた。


「あ、あの。。」


「ん?なんだサクラ?まだ言いたいことがあるのか?」


彼女はモジモジすると言い慣れていないように少し恥ずかしそうに口を開いた。


「あの、おやすみなさい。。」


その言葉にキョトンとしたマモルは少し微笑み「おやすみ」と返した。


「ではまた明日お会いしましょう。おやすみなさい!」


「おう!!」


紫苑は笑顔で手を振るとサクラを連れてまた暗い夜道へと溶けていった。


「「………。」」


マモル宅を後にした2人。帰路に着いていたのはいいが先の件もありサクラと紫苑の間には少し気まずい空気が入り混じっていた。そしてそんな静まり返った水面に一石投じるように紫苑は言葉を落とした。


「あの。。」


「………なんですか?」


サクラは依然として前を向いたまま足早に歩いていた。

紫苑はそれを斜め後ろから憂慮の面持ちで覗くように尋ねた。


「なんでサクラさんはそんなマモルさんに固執してるんですか?聞いたんですけどAIラボに1人で乗り込んだらしいじゃないですか。。なんでそんな無茶なこと。。その執拗に守ろうとしてるんは何か理由があるんですか?」


そんな疑問に応えることなく足を止めない彼女に『やっぱりか』というひしゃげた気持ちで顔を伏せたその時、


「………約束したからです。」


「え。」


顔色ひとつ変えずそう放った彼女に少し戸惑いの思いを抱えつつさらに追撃するように紫苑は言葉を投げた。


「誰とですか………?」


「………マモルさ………くんと。それと…」


「…それと?」


「あの!」


紫苑の追求を断ち切るようにサクラは立ち止まり振り返った。


「もう着いたんでここで大丈夫です。」


紫苑は顔を上げるとそこには高層マンションが聳えるように立っていた。


「送ってくださりありがとうございました。では…おやすみなさい。」


「あ………はい。。おやすみなさい。。」


軽く会釈しマンションへと入っていく彼女の後ろ姿を自動ドアが閉まりきる最後まで見届けた後、紫苑はスマホのロック画面をサッと見て寂しそうな顔つきで夜空を見上げた。


次の日の朝


「ふわぁあー。むにゃむにゃ。」


カーテンから漏れた朝日で目を覚ましたマモルは大きなあくびをしながら階段を降りていた。キッチンではトントントンと包丁の切る音と母の鼻歌でしっとりと潤っていた。


「あら、おはよ。珍しいわねこんな朝早くに起きるなんて」


「うん。。なんか目覚めちゃって。」


ボサボサの髪をわしゃわしゃと掻きながらソファに座るとマモルは寝ぼけたまま母に話しかけた。


「あーそういえば昨日レン兄と話したよ。」


「………ふふ、レンが夢に出てきたの?どんなこと話したの?」


こちらを見ることなく放たれた母の言葉にハッとなると寝ぼけ眼が一瞬にして透き通った。


(そうだ。レン兄さんが生きてるの秘密だったんだ。。……母さんを守るためとはいえ内緒にしておくのは気持ちのいいもんじゃないな。。)


「うん。やっぱレン兄はかっこよかったよ。。」


「そう。。ほらご飯できたからこっちいらっしゃい。」


出来上がった朝食をテーブルにコトっと置くと母はまたキッチンへと向かいカチャカチャと洗い物を片し始めた。


(レン兄が生きてるって知ったらきっと泣いて喜ぶんだろうな。。)


ソファからガバッと立ち上がり席についたマモルはいろんな感情が渦巻く中、複雑な面持ちでご飯をつついた。


そして家を出る時間をとっくにオーバーしているというのにマモルは未だ玄関の靴箱でドタバタと慌ただしくシューズを選んでいた。


「やべー!行ってきまーす!!」


「はーいいってらっしゃい!車に気をつけなさいねー!」


マモルは靴の踵を踏みながら焦った形相で足早に家を出た。


(やべー!遅刻だ!早く起きたからって余裕ぶっこいてたら普通に遅刻すんじゃん!!あいつらも流石にもう待ち合わせ場所にはいねぇだろうなぁ。。ん?)


おっとり刀で走っていたマモルは待ち合わせ場所で静かに目を瞑り、ガードレールに腰掛けているサクラを見つけた。


「おーい!!」


「あ、マモルくん!」


サクラはこちらに向かってくるマモルに気づくや否や満面の笑みで手を振りだした。そしてマモルは彼女の元に駆け寄るとゼェゼェと膝に手をつき苦しそうに息を切らした。


「サクラ何してんの?!遅刻するよ?!早く行こうぜ!!」


「うん!待ってた!行こ!!」


そう言ってまた一心不乱に走り出したマモルをサクラは生き生きとした表情で追いかけた。


「にしてもこんな時間まで待っててくれてたの?!すごいありがたいけど、でも俺のせいでサクラも遅刻するかもよ?!」


「遅刻しても全然いい!マモルくんが来てくれたから!それだけで嬉しい!」


青空の下で緑の葉が青々と生い茂る道路を2人は楽しそうに駆けた。


「よし!もうちょっとで着くぞ!!サクラついて来れてるか?!」


そう言い後ろを振り向くとサクラは額に少し汗を流しながら『うん!』と頷いた。


「こらー!!遅刻ギリギリだぞー!!早く入れー!!」


校門で顔を真っ赤にした生徒指導部長がマモルたちに向かって叫んでいるのが見えた。


「やべぇあいつめっちゃ怒ってるよ!顔真っ赤じゃん!キレすぎだろ!はは!!」


「ふふ!あはははは!!」


2人は腹を抱えながらなんとか時間内に学校にたどり着いた。


「はー面白かった!最後あいつ俺たちになんか説教してたけど俺なんも聞いてなかったわ!」


「私も!ガミガミ言ってて何言ってるかわかんなかったね!」


急いで室内シューズに履き替えた2人はチャイムの鳴る廊下をぴたりとくっつきながら教室へと走っていった。




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