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第十二話『恋わずらい。』




「んん。。朝か。。。」


リズミカルに謡う小鳥の鳴き声と顔を照らす眩しい朝日でマモルは目を覚まし、まだ開かない目を擦りながらゆっくりと上体を起こすとまぶたをカッと開いた。


は!!そうだ!俺は昨日サクラの家に泊まって同じベッドで寝たんだった!ってことは横には無防備に寝てるサクラがいるやつかこれは!!


マモルはお約束の展開に期待してゆっくりと隣を見たがそこにサクラの姿はなかった。


「おはよ。目覚めたんだね!」


声のする方をさっと見ると白のカーテン越しにサクラの影が見えた。

マモルはベッドから降りカーテンを抜けると彼女はベランダで気持ちよさげに風に当たっていた。


「おはよ。ここにいたんだね。」


「うん、朝起きたらいつもこうやって風に当たるの。そしたら全部リセットされる。そんな気がするの。」


最上階ということもあり少し冷えた風が強く吹いていた。


「今日マモルくんと一緒に登校できるの夢みたいだ。。」


サクラは都内の景色を見渡しながら嬉しそうに呟いた。


「大袈裟だよ。そんなの言ってくれたらいつでもここに迎えに来るよ!タクマと鈴香と俺とサクラで、4人で楽しく。」


マモルは柵にかかったサクラの左手を優しく握った。


「え?!……あの…ありがと。。」


彼女はカラダをビクッと緊張させ頬を赤らめ顔を伏せた。


「じゃ、じゃあ朝ごはんにしよっか!私なんか作るね!」


前髪をささっと触ると照れを隠すようにそそくさと彼女は部屋へ戻っていった。


「俺もなんか手伝うことない?」


「いいのいいの!マモルくんはお客さんなんだからゆっくりしてて!」


そう言ってピシャッとしまったカーテンを背にマモルはまた都内の景色を眺めた。

1人キッチンへと来たサクラはマモルが握った手の甲をじっと見つめていた。そして何度も握られた感触を思い出し嬉しそうに笑って料理を作り始めた。

そして景色を堪能したマモルは部屋に戻りまたあの本棚の前に立っていた。


「サクラって本読むの好きなんだな!実は俺も本読むんだよね!」


「うん、好きだよ。本は私にいろいろなことを教えてくれるからね。」


キッチンでジューっとフライパンが油を弾いた。


「アナログ本結構置いてあるけどデジタルでは読まないの?」


「うん、ちゃんと手で触れて一枚一枚ページを捲るのが好き。」


「そっか。。」


するとキッチンの方で『チン』とトーストの焼けた音が心地よく響いた。


「お待たせ。ごめんね、簡単のしか作れなくて。。」


サクラはそう言うとハムと半熟目玉焼きを上に乗せたトーストとコーヒーをテーブルの上に置いた。


「ありがとう!!俺それ好きなんだよね!!」


マモルは本棚に本を戻し急いで椅子に腰掛けサクラも向かい合うように席についた。


「「いただきます。」」


「「あ。」」


2人は合掌がぴったり被ったことにお互いクスクスと笑い合った。そして窓から入ってくる風がカーテンを心地よく靡く中朝食を食べた。

目を瞑りながら小さな口でパンの耳をサクッと齧るサクラについつい見惚れてしまうマモル。そしてそれに気づいたサクラは、


「ん?どしたの?………あっ!」


と何かを察した彼女は急に顔がこわばり急いで手鏡を取りに行き自分の顔を確認した。


「違うんだ!そうじゃなくてその、、」


マモルは顔を真っ赤にして椅子から立ち上がった。


「その、あの、綺麗な顔してるな、って。思って。。」


恥ずかしげに言うマモルにサクラも顔を真っ赤にして手鏡を元あったところへ戻し席についた。


「ありがとう。。ございます。。」


「いえ、こちらこそ。。」


2人はお互いの顔が見れなくなり俯きがちに食事を済ませた。


「俺食器洗うよ!」


「え、いいよ私やるよ?」


「作ってもらったんだからこれくらいはさせて!!」


場の空気を切り替えるようにマモルは食器をキッチンへと持っていった。そしてカチャカチャと洗いながらマモルはリビングの方をチラッと覗いた。するとサクラはすでに学生服に着替えていてベッドの上で瞳を閉じて静かに髪を櫛でとかしていた。


「そういえばさ、タクマが新しいラーメン屋見つけたって言ってたから放課後鈴香も誘って4人で行かない?」


マモルの誘いにサクラは目を開き一瞬動きを止めたがまたすぐに瞳を閉じ髪をとかしはじめた。


「ごめんね、今日用事あるから一緒に行けないや。。」


「…そっか。んー残念だけど、じゃまた今度行こうな!!」


「うん、また今度。。」


そして食器洗いを終わらせたマモルは手を拭いてベッドの上で静かに待つサクラに向かって声をかけた。


「お待たせ!そろそろ学校行こっか!」


「うん!!」


サクラは笑顔で立ち上がりカバンを持つや否やマモルの前をサッと走り抜けるように玄関へと向かった。




「「行ってきます!!」」




誰もいない部屋にそう言い残した2人はまるでカップルのように駆け足でマンションを出た。




ーーーーー




「そろそろあいつらと出くわすと思うんだよなぁ。」


マモルが車道側になるよう横並びで歩いていた2人はいつもの待ち合わせ場所に着こうとしていた。


「お二人さーん!おはよー!!」


すると後ろから元気な声が聞こえ、振り返るとそこにはタクマがいた。そしてその横には鈴香の姿もあった。


「おはよう!鈴香ちゃん!」


鈴香の存在に気づいたサクラはすぐ彼女の横に並んだ。


「…おはよう。」


鈴香はボソッとそう言うと無言でマモルを睨んだ。


「う。。おはよう。。」


鈴香のプレッシャーに怖気付いているとタクマがあることに気づいた。


「あれ?てか何で2人一緒にいるの?」


「え、あ、これは。。」


ここでサクラの家から2人で来たなんて言ったらあらぬ誤解を受けるに違いない。。ここは何とかして誤魔化さないと。。


マモルがどう言い訳するかで困り果てていた時、唐突に鈴香が口を挟んだ。


「別にどうだって良くない?!」


(え?)


みんなは意表をつかれたように鈴香に視線を集めた。


「私先行ってるから!!」


怒鳴り口調で言った鈴香は足早に歩いていってしまった。


「何だあいつ。ま!俺たちも行こうぜ!!てかよ、昨日バイト先で店長がよ、これマジで傑作でよ、」


ペラペラ話し出したタクマを横に鈴香の後ろ姿を追うように俺たちも歩み始めた。




昼休み




(何よマモルのやつ。何でサクラちゃんと朝一緒にいたわけ?!前々から距離近いなって思ってたけどそこまで距離縮まってたの?!信じられない。。何とかしないと2人付き合っちゃうじゃない!!いや、、もしかしたらもう付き合ってる…?嘘。。はぁ、、どうすれば良いんだろう。。)


生徒同士が机をくっつけ弁当を食べている中、1人机に突っ伏して思い詰めていた鈴香。するとそこへ、


「すーずか!!」


顔を上げると目の前に同じクラスのヤンキー友達が立っていた。


「花凛。。」


「一緒に弁当食べよ?」


「あ、うん。。食べよっか。」


覇気ゼロで鈴香はカバンから弁当を取り出した。

そして花凛は誰も座っていない机を鈴香の机にくっつけて2人は昼食を取った。


「それでさー昨日親父がさー何で家帰ってくんの遅いんだーとかマジでうるさくてさー!」


「うん。」


「お前の知ったこっちゃねーだろって言ったら『俺はお前の父親だ!!知る権利くらいあるだろ!』ってマジうるせーの!冗談は顔と臭いだけにしろってーの!ぎゃははは!」


「うん。」


「でさー!」


「うん。」


「………。鈴香、どしたの?なんかあった?」


「え?」


明らかに私気分悪いですみたいな鈴香に流石に違和感を感じた花凛は心配そうに尋ねた。


「だって弁当ひと口も食べてないじゃん。心ここに在らずって感じだし、うんうんしか言わないし何かあったでしょ??」


「え。。あ。。。。。うううう。。。」


鈴香は一度も手を加えられていない綺麗な弁当を見てとうとう泣き出してしまった。


「ちょ!どうしたの鈴香!大丈夫?!」


花凛は驚きのあまり椅子から立ち上がり鈴香の背中を横でさすった。

悲しみに暮れる鈴香に周りの生徒たちからの視線が集中し出した。


「お前らこっち見てんじゃねぇよ!!………鈴香ちょっとこっちおいで?」


花凛は周りの生徒を怒鳴り散らし鈴香を屋上まで連れ出した。


「ねぇ、何があったの?私に言える範囲でいいから言ってよ。相談に乗るよ?」


何も喋らない鈴香を彼女は横で支えるよう座わった。

そして10分ほど経った時鈴香は口を開いた。


「実は好きな人がいて。。」


「うん。」


花凛は青空を見上げながら優しく相槌を打った。


「もしかしたらそいつ別の子と付き合ってるかもしれなくて。。」


「うん。」


「それですごく不安になっちゃって。。」


「うん。」


「私どうすれば良いのかなって。。」


「…。」


花凛は絶賛落ち込み中の鈴香をチラッと見ると立ち上がり外の景色を見てグッと伸びをした。


「んー!!っはぁ!!屋上ってやっぱ気持ちいいよね!」


「え。。?」


鈴香は涙目で花凛を見上げた。


「悩み事があっても外の空気吸って吐いてここからの景色眺めてると何すれば良いかわかんないって悩んでた自分がちっぽけに思えてくるんだよね!ほら!鈴香も見てみな!!」


鈴香も座りながらフェンス越しに外の景色を見た。

するとそこには無数の家やビルが建ち並ぶ広大な景色が広がっていた。


「何すれば良いかなんてもう気づいてるんじゃない?」


「え。。」


「だってそいつに好きな人がいるかもしれない。そして付き合ってる人がいるかもしれない。だから諦める。ってことでしょ?」


「え、あ、いや。、諦めるのは。。」


その言葉に目に涙を浮かべた鈴香を見て彼女は少しにっこりと笑って続けた。


「じゃあさ……」


全身で風を纏った花凛は息を目一杯吸い込んでそれを力強く吐き出すようにフェンスの外に向かって叫んだ。




「じゃあさ!!諦めたくないんだったらさ!鈴香の気持ち砕けるつもりで伝えてきなよ!悩んでても前には進めない!心にあるそいつを想う気持ちが本物だって信じているんならそれをそいつにぶつけてこいよ!んでもしそれでもダメだったらその時はまた私とここへ来ればいいじゃんか!!!!」




風にあおられるその姿を見た鈴香は涙を袖で拭き取り少し頭の中を整理するように三角座りをした。そして『うん』と自分の中で答えを見つけたように頷き思い切り立ち上がるとフェンスをグッと力強く握った。

そして大きく深呼吸すると外に向かって思い切り胸の内を叫んだ!




「マモルー!!!!!!好きーーーーーーー!!!!!!」




「うん!その意気だ!」


スッキリした顔つきの鈴香に花凛はグッと親指を立てた。




教室内




「ん?」


机に座ったまま外を見たマモル。


「どした?マモル?」


「いや、今なんか名前呼ばれたような。。」


「はぁ?何主人公みたいなこと言ってんだよ。次お前の番だぞ。」


「お、おう。」


そう言われたマモルはタクマのトランプを1枚引いた。




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