表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/30

第十話『死なせない。』




「では最後にご案内いたしますわ、こちらです!」


ガイドに案内された最後のセクションはサクラリア本体が置かれた場所だった。強化ガラスで覆われた広い円柱のような空間にそれは存在していて、ドームのような形状で表面は冷たい鉄で覆われておりチューブやパイプが至るところに無数に繋がっていた。そして中からはスチームのようなものが不定期であちらこちらから吹き出していた。

それはとても無機質で生々しく異様な存在感を放っていた。


「私たちの生活に大いに貢献すると言われているこの人工知能サクラリア。例えばどのようなことができるかわかる方いらっしゃいますか?」


ガイドはサクラリアを背にしてこちら側にいる俺たちに質問を投げかけた。


「はい!世界征服できまーす!!」


タクマのふざけた冗談でフロアが笑いに包まれた。

がしかしガイドただ1人だけは笑わずしなやかな目で彼を打ち守っていた。


「世界征服。できると思います。」


厳かにいう彼女を見てみんなの笑いがぴたりと止まった。


「この技術を用いれば世界中の情報収集、管理、分析することが可能です。そして世の中のインフラ、経済状況など様々な分野においてもっとも効率の良い解決方法を導き出し、他国への侵略の手伝いなんかもできたりするかもしれないですね。」


波が引いたように沈黙が漂い、ガイドはそれからニコッと笑い話し続けた。


「ていうのは冗談で世界を平和にすることだったら案外簡単にできちゃうかもしれないですね!ではここからは自由時間にいたします!ご自由にサクラリアをご覧になってください!」


ちらほらと失笑する生徒の視線を集めながら彼女はさらりとサクラリアの説明をすると俺たちに自由行動を促した。

自由時間になると生徒たちはガラス越しにサクラリアの周りを囲みじっくりと外観を見物していた。


「なんか思ってたのと全然違うなー。もっとコンパクトでスマートなもんだと思ってたわ。これだと持ち運びとかできないよね。」


タクマは顎に手を当てながら冷静に感想を述べていた。


「そうね、でも世界中の膨大なデータを蓄積するんだったらこれくらいの規模でないと実現は不可能でしょうね。開発段階で予想はされていたと思うし、こんな広い部屋に設置されているのも妥当だと考えていいわ。」


鈴香とタクマは巨大なサクラリアをぐるりと周回していた。

そしてマモルとサクラも反対周りでじろじろと外壁を凝視していた。


「でもこの中身一体何入ってるんだろうな。」


「気になりますか?」


「うぉお!!」


振り返るとマモルとサクラの後ろには先程同様ガイドがにこやかに立っていた。


「実はこの研究所にいる研究員ですら中身を見たことがないという者がほとんどなんです。なぜなら中に入るためにはレベル10のアクセス権限を必要としていて、その権限を持っているのは天皇陛下をはじめとするごく一部の関係者のみだと言われております。まぁでも人工知能なんで中は機械で埋め尽くされているんでしょうね。」


(ん?)


笑顔で話すガイドを他所に俺はサクラリアの後方に扉のようなものが設置されていることに気づいた。


「あそこから入れるんですか?」


ガイドは扉を見つめて少し溜めてから口を開いた。


「そうです。あれがこのサクラリアに入れる唯一の扉です。ですが先程も申しました通り厳重なセキュリティで閉じられているため、中へ入ることはできかねます。」


「へぇ。」


「話は変わるんですが、お二人は付き合っているんですか?」


なんの脈略もなくガイドは突然色恋話をしかけてきた。


「え!付き合ってませんよ!急に何言うんですか!」


俺は手をバタバタと振り否定したが、サクラは顔を赤くして俯いたまま何も言おうとしなかった。


「ふふっ。冗談ですよ。2人の距離があまりにも近かったので、ついからかいたくなっちゃっただけなんです。ごめんなさいね。だって、この子すごく可愛いですもの。。」


ガイドがサクラを舐めるように見た気がした。


「では、そろそろお仕事に戻りますね。皆さーん!本日はここまでとなりまーす!研究所の外まで移動するのでついてきてくださーい!!!!」


そう言うとガイドはマモルたちを外まで案内した。

そして外に出ると夕焼けが世界を橙色一色に染めていて近辺の林の中からは虫や鳥の鳴き声で煌めきあっていた。


「本日は校外学習お疲れ様でした。今日1日を通して皆さんの生活に少しでもプラスになってくれたらと思います。また研究所に来た際はよろしくお願いいたします!繰り返しになりますが本日は誠にありがとうございました。」


ガイドは深々とお辞儀をした後バス停まで生徒たちに同伴した。


「「「加藤さんまたねー!!」」」


ガイドに別れの挨拶をしたあとマモルたちはまた長い時間バスに揺られるのであった。

そして最後まで見送ったガイドはバスが見えなくなるとポケットからスマホを取り出しどこかへ電話をかけ始めた。




ーーーーー




「家に帰るまでが校外学習だからね!!」


学校に着くと多田先生はそう言いみんなを解散させた。


「この後どうする?まだ遅く無いし4人でどこか行く?」


まだ日が落ちてないこともあり俺は少し遊び足りてなさを感じていた。


「ごめん、今日夜ご飯作んなきゃいけないから早く家帰んなきゃいけないの!また今度遊ぼ!!」


「俺も今日バイトあるから帰るわ!!じゃあな!!」


タクマと鈴香はそう言うと早々に学校を後にした。


「あーじゃあ今日は無しにするかー。」


「そしたら、2人で、どっか行こうよ。。。」


マモルが少し残念そうにしているとサクラは彼を直視しないで少し恥ずかしそうに上唇と下唇を噛んでいた。


「………そうだな!!」


マモルは少し緊張した面持ちで快く承諾すると2人は足並み揃えて校門を出た。


「今日の校外学習どうだった?サクラってああいうの興味あったりするの?ってAIエンジニア科にいる時点で無かったらやべーかっ。」


河川敷でケタケタと談笑しながら2人は散歩していた。


「すごい楽しかったよ。全部初めての経験ですごく刺激的だった。」


「だよな!AIと会話するのとか昨日まで正直乗らなかったけど実際前にしてみると意外とテンション上がったもんなー!」


サクラは歩み足のタイミングと歩幅をマモルに合わして1人でドキドキしていた。


「そいえば学校きてもう数ヶ月経つけど慣れた?嫌なこととかあったらなんでも俺に言ってくれよな!相談はこのマモルさんがなんでも乗るから!」


胸をポンと叩くマモルにサクラはクスッと笑い足先を見ながら歩みを進めていた。


「私って世間知らずだからみんなと仲良くできるか不安だったけど、マモルくんもタクマくんも鈴香ちゃんもみんな私に優しくしてくれるから全然平気!最初はいろんな子が話しかけてきて怖かったけど私は今の環境がとっても好き。この環境は絶対に崩したく無い。」


そう言って前をしっかり向いたサクラにマモルはついつい見惚れてしまいそうになる。


「そうだな。今の平和な環境は壊したくないよな。でもそれもこのマモルさんにお任せあれ!サクラちゃんの前に立ち塞がる壁はこの俺が殴ってぶっ壊してやるからね!!はっはっはー!!」


「あとマモルくんと一緒にいると、」


するとサクラが話し終えるのを待つことなく平和の崩れる音は鳴り始めた。

2人の前方からフルフェイスを被った全身黒のレザーを着た女が近づいて来るのが見えた。そして彼女は行く手を阻むようにマモルたちの前で歩みを止めた。


(え、何この人。)


マモルは本能的にやばいと感じ後ろへ後ずさった。

すると女は突然ナイフを取り出しマモルに襲いかかったのだ。


「うわぁあああああ!!」


マモルは叫び声と共に後ろに倒れた。

危険を察したサクラはすかさず女の前に立ち塞がりそのナイフを右の手の平で受け左手で相手の持ち手を掴んだ。


「え、あ、あわ。。」


マモルは腰が砕けたように動けなかった。


「あなた、いったい誰!何のつもり!!」


サクラの貫通した右手からは赤く艶やかな血がダラダラと溢れていた。


「サクラ・ニルヴァーナ。今年の4月に新世高校2年B組に転入。同月都内みすほ銀行にてテロ活動に巻き込まれたがその後突然現れた黒色のバンに乗車しその場を離脱。そして本日AI研究所に行き、今はその帰り道。」


?!?!


ボイスチェンジャーで声色を変えた女の言葉にサクラは驚き目を見開いた。


「なぜそれを知ってるの!いっっっ。。。」


サクラの言葉に一切耳を貸さず女はナイフをグリグリと動かしサクラはその痛みで顔を顰めた。

すると一瞬の隙をついた女は持ち手を左手に変えナイフを引き抜くと軽快に後ろへと下がった。


「マモルくん、逃げて!」


サクラは右手を庇うように後ずさる。

だがマモルはガタガタと震えて立つことができなかった。


「クソッ。」


それを横目で見たサクラは右手の血を振り払いダッシュで女に襲いかかる!


「うぁああああ!!!!!」


殴った。ただひたすらに殴った。だがその女はいとも容易くサクラの拳をいなす。

そして最後、サクラの攻撃をかわしたその瞬間腹に強烈な膝を入れナイフで腕を切りつけた。


「くはぁっ!!!」


サクラは膝から崩れ落ち倒れた。


(何やってんだ、俺は。立てよ!早く立てよ!!!)


「うぉああああああああ!!!!」


マモルは震える足を抑え立ち上がり必死に女に掴みかかった。だが子供の相手をするかのように突き離され、腹に重い蹴りを食らった。


「ぐぁはぁあっ」


そして追い討ちをかけるように女は暴力を振るった。

マモルは殴られては立ち上がり蹴られては立ち上がりを繰り返したが、ついには倒れたまま意識を失ってしまった。


「やめてぇ!!!!」


サクラは泣きながら女に掴みかかった。


「なんでこんな酷いことするの!私たちが何したって言うの!!………きゃぁああ!!」


女は無言でサクラを殴り蹴り飛ばした。


「…ちっ。」


倒れたサクラを見下し舌打ちをした女は動かなくなったマモルの方へ歩み寄った。

そしてナイフを取り出しマモルを刺し殺そうとしたその時!


「殺させない。。」


泣き声とも近い微かなサクラの声に女はナイフを止め振り向いた。


「絶対殺させない。。」


サクラはふらふらとした足つきで立ち上がりゆっくりとこちらへ振り返った。

気づけば空はどす黒い雲に覆われあたりは暗くなっていた。

サクラを取り巻く空間は渦巻くように荒れていき、髪は下から吹かれるように靡いてバチバチと稲妻が散っていた。


「マモルくんは、…死なせない!」


震えた声でそう言い放ったサクラはもう先程までの優しい顔つきではなかった。

眉ひとつ動かない冷徹な表情。淡いピンクの瞳は紅く染まり、鬼のような怒りを内に秘めていた。


?!?!


女は危険を察し10メートルほど素早く引き下がりすぐさまナイフを構えた。




「ソードツー」




左手を前に突き出し、そう呟くと太刀のように長い日本刀がサクラの前に出現した。

サクラはその鞘を左手で掴み、右手で柄の部分をぎゅっと握ると右足を前、左足を後ろにして腰をグッと低く落とし居合いの構えのままゆっくりと目を閉じた。

あたりは静寂に包まれゆっくりと開いたその凍った瞳は女を睨んでいた。




「あなたは私を怒らせた。」




サクラが呟いたその時、静寂だった世界に突風と共に地を割るような轟音と切り裂く音があたりを響かせた。




「ぎゃぁああああ!!」




叫び声の方を見ると女の右手は粉々に爆散するように散っていた。そして右手を押さえながら膝をつきサクラの方をギッと睨んだ。


「あんた、いったい何をしたの。。サクラ・ニルヴァーナ。。なんてこと。想像以上だわ。。。」


一歩も動いていないサクラを目の前に彼女は混乱していた。

そして女はダラダラと流血する右手を押さえながら少しずつ後ろへと下がった。


「去りなさい。」


サクラは凍てつく瞳で女にそう囁いた。

すると女は腰につけた無線機を左手で掴み口元に近づけた。


「今すぐ回収にきて!」


無線に向かってそう叫ぶと上空からヘリがやってきた。

よろよろとそのヘリに乗り込むと女はドアを閉めずにサクラに向かって人差し指を差し叫んだ


「サクラ・ニルヴァーナ!今度はこうは行かないわよ!覚えてなさい!!」


女はそう言い残すとヘリと共にどこかへ飛んでいってしまった。

そしてそれを見届けた後、力無く座り込んだサクラは倒れているマモルの元へ駆けつけた。


「マモルくん!マモルくん!!」


泣きながら体を強く揺するとマモルは意識を取り戻した。


「いってぇ。。。。」


「マモルくん!?よかった。。よかったよぉ。。。」


サクラは倒れているマモルの胸に抱きついて泣き喚いた。


「そう言えばあいつは?!どこに行った?!?!」


マモルは焦って上体を起こしあたりを見渡したが女の姿はどこにも無かった。


「大丈夫だよ。。もう大丈夫だから、、帰ろ?」


彼女はそう言いながら袖で涙を拭き取りマモルにもう一度抱きついた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ