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魂の継承  作者: 宮藤 隆
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第一章

連載1回目です。3~4回で完結予定です。

私がこうして手記を書いていられるのも、主人が就寝中の為である。


私は鎖で繋がれてはいないが、主人の支配力は肉体と精神に及ぶ。私に残された時間は少ない。主人の影響力は日に日に増している。主人が寝ている間はその力がわずかに弱まり、自意識を取り戻す事ができる。


私が仮にここから逃げ出せたとしても、束の間の自由を謳歌した後は惨めな死が待っているだろう。


それにしてもある少年との約束を果たせず残念だ。自ら命を断つ事も考えたが、救援が来る可能性を捨てきれず決断ができないでいる。何しろ私自身がその救助隊員だったのだから。話を数週間前にさかのぼる事にしよう。


私の名前は岬翔吾。宇宙飛行士だ。私の乗った宇宙船から、私以外の生命反応が消えた。最後の乗組員は大空そら。日本の柴犬だ。他の乗組員はみんな死んだ。大空そらはもともと私の犬ではなかったが、次第に心を開いてくれた。孤独な私に寄り添い、慰めてくれた。かけがいのない友人だった。


大空そらは宇宙飛行士仲間の野々村の愛犬だった。野々村達を乗せた宇宙船が行方不明になり、私たちが捜索に行く事になった。その際、大空そらも一緒に連れていく事にしたのだった。


野々村達が消息を経った星域は謎に包まれており、今まで何隻もの宇宙船が行方不明になっている。私はそこにたった一人で向かおうとしていた。


大空そらは生命維持装置に入れてある。まるで眠っているかのようだ。死んでなお、私の心に安らぎを与えてくれている。


生命維持装置はボタンを押せば船外に射出できるようになっている。宇宙で隊員が死んだ場合は宇宙葬とするのが慣わしである。


大空そらを入れている生命維持装置は本来、私の物である。しかし、操船には最低一人の人間が起きていなければならず、この装置はもう必要がない。


だが、私は射出ボタンを押す事が出来なかった。誰だって地球から遠く離れた場所で、一人ぼっちでいる事に耐えられはしないだろう。


問題の星域に到達した。ここには二つの太陽があり、私はアルファとベータと名づけた。それぞれが惑星を従えている。生命の存在する星もあるかも知れない。

わたしは地球型の星を選んで、順に探査してみる事にした。その星が肉眼でも捉えられるくらいに近づいた時に大きなアクシデントが起こった。


宇宙船が大きく揺れた。警報が鳴り続けている。私は飛ばされねようハッチの手すりにしがみついているのが精一杯でなすすべもない。

宇宙嵐だ。二連星の活発な太陽フレアが強力な磁気嵐を巻き起こしている。今まで消息を断った宇宙船もみなこれにやられたのか?

私は懸命に操縦席に這い寄ろうとしたが、船内を飛びかっていた機器が頭を直撃して気を失った。


目が覚めると私は見知らぬ部屋にいた。ここはどこなのだろう?何はともあれ助かった事だけは確かだ。頭には包帯が巻かれているが、まだ激しく傷む。


この部屋には窓がなく、ベッドの他には簡素な椅子とテーブルが置かれている。

私は気を落ち着かせ、頭のなかを整理してみる事にした。私は磁気嵐に見舞われる前、目指す惑星の目前まで迫っていた。とすると、その星に知的生命体がいて助けてくれたと考えるのが自然だろう。


だが、あらためてベッドから起きあがって、この部屋をながめると自分の考えに自信がなくなってくる。

ここが地球でよく見られる病室のような部屋だったからだ。私は救助され、長い時間をかけて地球に戻ってきたのかもしれない。


ドアがノックされると私は緊張した。初めての異星人との対面となるかもしれない。たとえ相手がどんな姿かたちをしていようとも、私を助けてくれたのだから絶対に不快な感情をおもてに出してはならないと肝に命じた。


だが、私の心配は杞憂に終わった。病室に入ってきたのは白衣を着たどこから見ても普通の女だったからである。

たったひとつ変わった事があるとしたら、犬を連れている事だ。それも女の手首と犬の首輪を革紐リードで繋いである。なぜ病室に犬がいるのだろう?


「ここはどこなのですか?」


私は質問を発したが、女は答えなかった。言葉がわからないのだろう。私は知っている限りの言語で話しかけたが、いずれも反応がなかった。女は私の体を検査して出ていった。


しばらくすると別の女が食事を持ってやって来た。この女もやはり犬を連れている。この女にも同じ事を聞いてみたが、無反応のまま出ていった。


食事は肉料理と煮物と野菜とで病院らしい簡素なメニューだった。ところが、肉をひと切れ口に含んだ瞬間、大量の胃液が逆流し、私に早くその異物を吐き出せと指令を出してきた。私はかろうじて嘔吐を免れ、肉を吐き出した。


なんの肉か、まずい以前に体が受けつけない。毒かと思ったくらいだ。しかし私は強烈に腹が減っているので、恐る恐る残りの料理にも手をつけた。こちらはなんとか口にする事だけはできた。


先ほどの女が食器を下げにきたので、身ぶり手ぶりで残した肉を示してこれは無理、食べられないとジェスチャーをした。意外な事に女もわかった様子で、翌日からはうまいとまでは言わないが、喉を通すのに苦痛を伴わない物が出されるるようになった。


私の体が少し回復すると、今度は検査攻めだった。医者や学者と思われる人々が入れ替り立ち替わり現れては、徹底的に私の体を調べた。彼らは時折、感情をおもてに出すことはあっても一切、言葉を発しなかった。そして一人の例外もなく犬を連れていた。


ドアがノックされ、また検査かとうんざりしたところ、中に入ってきたその男は言った。


「はじめまして。私はこの研究所の統轄責任者のナイトハルトと言います。この星へようこそ。岬翔吾さん、あなたを歓迎します」


続く

数日後に次話投稿予定です。

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