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ヒューマン・エラー。

作者: メロ

Hello. Hello.

聴こえますか?


ハロー、ハロー。

届いてますか?


はろー、はろー。

アナタのナカに、ワタシはいますか?



感度良好。


system all green.


セカイは今日もせいじょうに巡っています。

 その日はいつもよりツイていたと思う──



『今日一番運勢が良いのは魚座のあなた──』


 朝のニュースの占いで一位になって、

 缶ジュースを買ったら当たりが出て、

 大好きなソシャゲのガチャで推しキャラのSSRを二枚抜きして、


『おっはよー、阿部くん!』


 昇降口で好きな女の子と挨拶して、


「ッ‼︎ 白……ムフ♡」


 衣替えのおかげで彼女の透けブラまで拝めた。

 やはり、清純そうな彼女には飾り気のないブツがベストマッチだと思う。だが、この手の話をクラスメイトに振ると黒だの、レースだの(以下略 派手でギャップのある方が良いに決まっていると言われる。その意見はよく分かる。俺だってあの豊かな身体つきに真っ赤な彩りを加える事によって生まれる高揚感には逆らえない。それをドロドロにする背徳感には思わずヨダレがドバドバ出るだろう。悲しい事に男はどこまでいってもスケベな生き物なのだ。仕方ない。

 だがしかし、こうは考えられないだろうか?

 自身が女の子だという自覚があまりなくて『それ、お母さんが買ってきたの?』と聞きたくなる素朴なブツを着けている彼女が初めて他人に見せる事で、それに恥じらいを覚え、頬を染める。真っ赤に。

 その姿、なんと尊い事か。あまりの眩しさにニヤけが止まらないに違いない。

 さらに、その後から見られる為のブツを着け、あわよくば真っ赤に染まっていれば……俺は尊死してもいい……。



 ──バカな事を考えれているうちは幸せだった──



 いつから? どこから狂い始めた?

 いつもなら左から履く靴を右から履いた時か。購買でコロッケパンを買おうと思っていたのに気まぐれでカレーパンを買ってしまった時か。

 屋上で午後からの授業をサボったせいか。何となく気分が乗らず部活をサボったせいか。親友からの誘いを断ったせいか。

 ガムを踏んだから。赤信号を無視したから。タバコを吸ってる不良を避けたくて迂回したから。普段通らない道から帰って、たまにはこういうのも悪くないなんて前向きになったからか。

 いや、違う。どれかじゃない。些細な積み重ねが──



 ──ドッ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎



『きゃぁぁぁぁぁあッ』


『お、オレは悪くない……そいつが……』


『人が──ってのに!』


『きゅ、救急車っ、救急──』


『バカっ、警察だ! 警察を──』


 目の前でパンッ、て弾けた。


「あ、っっっ……‼︎」


 駆けた。

 いつもはランニングだって嫌なのに。

 逃げた。

 あの人達も、根掘り葉掘り聞かれるのも怖くて。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ」

 必死に、必死に。

 過去形にしたくて、過去形にしたくて──



 ──俺は、迷子になった──



『あら、随分遅かったじゃない』

「部活で遅くなった」

『何よ、そんな辛気くさい顔して』

「別に」

『あっそ。 じゃあ、ちゃっちゃと手ぇ洗ってきなさい』

「夕飯、いらないから」

『はぁ? アンタが食べたいって言うからオムライスにしたのに──』

「…………」

『────』

「…………」

『────』

「…………」

『────』

「だからっ──」



 ──誰も、悪くない。何も──



 落ち着かない。

 まるで自分の部屋じゃないみたいに。

 固く、冷たい。

 いつもは離れたくないと希うベッドが。

 うるさい。

 頭の中から止めどなくウジが湧いて。



 ──分かってる──



 このセカイは死のうえで胡座をかいてる事くらいいつも嬉しそうに食べてる肉は死骸だ野菜も同じ大好きな卵だって産まれてる産まれてないなんて関係なく命だったモノが食卓に転がっているアイツもそれと変わらない命だったモノが命じゃなくなって転がっただけ部屋にゴキブリが出たら殺虫剤で殺す殺してきただから見慣れてる命も殺しも死だって願ってきたじゃないかあいつがうざいあいつさえいなければいちいちムカつく死ね死ねる死んでくれまたハズレかいらないボタンひとつで消してきた先に進むため都合で殺してきた死を尊いものだと言ってきたなんで分からない口から簡単に出てくるなんで何も言わなかった何もしなかったただ見て十分だって何が俺は何を思ってそんな分からない知らないヤツのために気持ち悪い俺は俺は?


「ゔっ、お゛ぇ゛……」



 ──神経が細い──



 あれからどれくらい時間が経ったか分からない。

 今、どんな顔をしてるのだろう。

 真っ赤な目になっているのだろうか。

「……っ……」

 そうだとしたら、どんなに。

 残酷な事か。あまりの苦しさに笑いが止まらない。

 このまま死ねたら。



 ──されど──



 悲しい事に朝は来る。

 悔しい事に腹は空く。

 嬉しい事に日常セカイは変わらない。


『おっはよー、阿部くん!』


 はぐれているのは俺だけ。


「なぁ、佐藤。 放課後、ちょっといいか?」


 ああ、きっと俺は──


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


 -放課後-


『ごめんなさい』


 ──あの"真っ赤"を忘れる事が出来ない。



 fin.

【コメント】

最近『呪術廻戦』にハマってて死を題材にして書きたいと思っていたところで良い刺激をもらいました。

おー、ヒューマン・エラー。

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