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最初の仮定こそ正しい事が多い

5/22 法則名違いかもしれないのでサブタイトル変更しました

オッカムのカミソリ→最初の仮定こそ正しい事が多い

 私は気恥ずかしいどころではない。


 後ろ姿はジョゼリーンにしか見えない服装と体型であったが、私達に振り向いた彼女は見ず知らずの女性だった。


 他人の空似、名前が同じなどよくあることではないか!


 私は自分の無作法を慌てて謝った。

「まあ、ごめんなさい。ご挨拶をと思ったら、私の人違いだったようだわ。お邪魔して申し訳ありません。」


 アランと呼ばれていた気の良さそうな男性が私の慌てぶりに目を細めた。

「いいえ。私達も人違いをしないように扮装していますから、それは仕方が無いでしょう。ふふ、彼女は目印に物凄い金髪のカツラを被り、私はね。」

 彼は息子を下に降ろすと、ジャケットのポケットから派手なスカーフを取り出して自分の頭に巻いた。


「ほら、プンジャブの王様みたいだ。」


 私とミュリアムは偶然に出会った男性のお茶目さに笑い出していた。

 そんな私達を割って入る声があった。


「アラン・リリュー先生ではありませんか?私はスウェイン・メルキュールと申します。お会いできて光栄です。」

 農業オタクのスウェインである。


「わあ!メルキュール殿か!私の開発した肥料であなたが成果を出してくださったから、私はこんな先生と呼ばれるようになったのですよ!」

「ご謙遜を!」


 彼はアランのようにニーナを床に下ろす気持ちは全く無いようだが、会えて良かったと目を輝かせるほどにアランとは話がしたいらしい。

 スウェインの腕の中のニーナが私とミュリエルに顔を向けると、物凄くうんざりしたように顔を歪めて見せた。


「ミュリエル様。ポーラは今のうちから絵本も玩具も農業系にすべきですわ。普通に育てたら、朝から晩まで農業の話しかしない父親にはうんざりしてしまうこと確実ですもの。」


「まあ、うふふ。ニーナ、あなたにスウェインの相手ばかりさせて申し訳なかったわ。ねぇ、スウェイン。私達女性陣はお菓子とお茶をしてくる。あなたはこちらの尊敬している先生とお話をされたらいかが?」

「いや、君。それは先生に迷惑だよ。」

「いやいや、私こそメルキュール殿の農場についてお聞きしたい事も多くありますが、それでは皆様にご迷惑でしょうから。」

 夫の喜びが一番のミュリエルは、物凄い笑顔を学者に向けた。

「全く迷惑じゃありませんわ。ごゆっくりどうぞ。」


「何をおっしゃるの!汽車の時間もございますでしょう。リュカをもっと色々な場所に案内してあげたいじゃないですか!」


 ジョゼリーンは物凄く焦った声をあげた。

 そうだ、この人達は駆け落ちの予定の人達だった。


「行きたいんだったら一人で行って!僕はこの人は嫌だよ。ジョゼリーンじゃないもの!」


「これ!リュカ!」

「だって、違うもの!ジョゼリーンは僕にもお手紙くれたもの。僕におもちゃを持ってきてくれるってお手紙をくれたもの!」


 スウェインの腕から抜け出したニーナはアランの足元にしゃがみ込むと、アランの足元に隠れるリュカに微笑んだ。

「ここでおもちゃを買って頂いたらどうかしら。」


 凄い。


 まだほとんど坊主の頭であるが、これでもかと花を飾ったベレー帽のような物をニーナは被らせられている。

 そのため、今のニーナは髪の毛を失う前の美少女っぷりを失ってはいない。

 だからか、まだ五歳くらいの幼児にも関わらず、ニーナの笑顔でリュカは真っ赤になって、さらにもじもじとし始めたのだ。


「でも、ここには無いもの!有名なしょうしょうさまのお馬はここには売っていないもの。」


「ハハ。仕方が無いよ、リュカ。」

 アランは息子の頭を優しく撫でた。

「ジョゼリーンの義理の弟様が軍で少将をされているのですよ。そのお方の馬のお人形が子供達に人気じゃないですか。ハハ、手紙だけの付き合いなのに駆け落ちを私達は計画してしまいまして。ただでさえジョゼリーンは大きな荷物を担いで来ることになったのに、子供の玩具まで持って来れやしませんよ。ねえ。」

「いいえ。持ってこれなくて申し訳なかったわ。本当に不覚。」


 私はやっぱり驚いていた。

 偶然て物凄くあるのね、と。


「まあ!私の婚約者のアルマトゥーラ少将様にもジョゼリーンという兄嫁様がいらっしゃるのよ。偶然て怖いのね。」


 アランは一気に血の気を失って、ひゅうっと息を吸い込んだ。

 ジョゼリーンは鶏が絞殺されるような声をあげると、私をグイっと自分に引き寄せてナイフを私の首元に突き出した。


「ああ、台無しにして!」


「ああ、き、君はジョゼリーンじゃなかったのか!君は何者なのだ!いや、本物のジョゼリーンはどうしたんだ!」


「静かに!この女を殺されたくなかったら私と一緒に来るのよ。アラン・リリュー。あなたはわが国で好きなだけ研究させてさし上げますから!」


「我が国?あなたもエンバイルの工作員なの!」


「失礼な!あんな戦争屋のならず国と一緒にしないで!クランベールは先生の発明を世界平和のために活用するのですから!」


「まあ!こんな殺伐とした行動をされて、平和ですって。」


 ニーナは憎たらしいお喋りをすると、口元に手を当ててコロコロと笑い出した。

 そこで偽ジョゼリーンの意識がニーナにほんの少しだけ移り、すると、スウェインという元近衛兵で数年外国で傭兵をしていた今は農場主が、偽ジョゼリーンのナイフを持つ手をひねり上げた。


「ありがとうございます。スウェイン様。」

「いいえ。ご無事で何よりです。」


 そこで今度は会場が爆発した。


 私達がいる部屋と続いていた部屋から、大きな爆発音と大きな煙が噴き出したのである。

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