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ジョゼリーンの秘密

 私は金髪のカツラを被ったジョゼリーンへと足を踏み出していた。

 私に対して悪感情らしきものを抱いている彼女であったが、ベロニカがエンバイルの人達に騙されて殺されていたのだ。


 何もしないで逃げて、フォルスに彼女の事を伝えるべきなのだろう。


 でも、私はあの日、父を見殺しにしたのだ。


 意識を失った父の足が船長室のドアから消える映像は夢の中で何度も蘇り、その夢の中では怒りに顔を赤くした父がドアを開けて戻って来る。

 私は夢の中の死人をこれ以上増やしたくないと思った。

 ベロニカの死を知ってから、ドアを開けて戻って来る死体は父だけではなくなったのである。


「ミア、どこに行くの?」

「知っている方にご挨拶よ。」


 私は数歩歩き、ジョゼリーンの真後ろに立った。

 そこで見えた光景は、太り気味だが人の良さそうな男性が五歳くらいの男の子の手を引いて、ジョゼリーンに次はどこを見ようかと笑いかけた場面だった。

 彼女は軽やかな声で笑った。


「ねえ、リュカはどこに行きたいかな。」


 すると、リュカと呼ばれた少年は父親の足元に隠れた。

「ねえ、お父様。この人は本当に僕達のお家に一緒にくるの?本当にこれからずっと一緒なの?僕は嫌だよ。」

「これ、リュカ。」

 男性は息子の無作法な言葉にすまなさそうに目線を下げると、自分の足元に隠れる息子を抱き上げた。

 それから寂しそうな顔をジョゼリーンに向けた。

「君は全てを捨てて良いのかい?私達と一緒になったら君のご両親は路頭に迷ってしまう。私は君への恋心は一生忘れない。今までどおり手紙だけの関係でも私は構わないんだよ。」

「何をおっしゃるの、アラン。あなたは私と一緒になって下さると言ってくださったでは無いですか。私はそれだけを望んで伯爵家を飛び出してきましたのよ。」


 私は盗み聞いている自分への恥ずかしさに一歩後ろへと下がった。

 後でフォルスに伝えよう。

 きっとフォルスだったら兄嫁の幸せを一番に考えてくれるだろう。

 あの夜、ベロニカとジョゼリーンの不幸を、全て至らない自分のせいだと言って落ち込んだあの人なのだもの。


 私はもう一歩ジョゼリーンから遠ざかった。

 幸せになろうとしている彼女の邪魔をしたくなかったから。


「ミア、ご挨拶は良いの?」


 私の隣へとミュリエルが歩いてきており、彼女の呼びかけてジョゼリーンが私達に振り向いた。


「まあ、あなたはどちら様なの?」


 私こそ無作法な言葉が口を突いて出てしまった。

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