怠け者と呼ばれる所以
俺は部下によると理想的な大将なのだそうだ。
無理難題を部下に背負わすどころか、部下を的確に適材適所に配置し、尚且つ彼らの実力が発揮できるように自由に動かしてくれる人だと評判なのだ。
そんなの、前線で死にそうだったら当たり前だ!
みんな!全力出して一緒に生き残ろう!
それだけである。
平時においては、仕事が出来ない俺が余計な口出しをするよりも、有能な部下達に仕事を投げた方がうまく回る。
それだけである。
よって、俺は今回の仕事を会場警備の責任者に投げようと考えた。
いや、だってさあ、ニーナが見つけた誘拐犯を軽く小突いて吐かせてみたら、会場に爆弾を仕掛けました、なんて告白をするなんてベタすぎるだろ。
「と、言うわけで、俺は世界で一番大事な婚約者と婚約者と同じぐらい大事な妹を安全に守って逃がさなければいけないので、あとはよろしく頼むね。」
会場警備責任者のアロイス・カンタール中佐は、俺の言葉を聞くや、俺の部下がするような笑顔を俺に向けた。
言っても無駄だな、と彼らが俺以上に俺を理解したときの笑顔だ。
カンタール中佐は俺と年がほとんど変わらない若い男であるが、国家威信をかけたこの広大な万博会場の警備主任というならば、かなり有能な男なのだろう。
しかし、頬骨の高い骨ばった顔付は影のある孤高の戦士っぽくて格好よく、焦げ茶色の艶やかな髪色にエメラルドグリーンの瞳という最高の組み合わせを持つ彼に、俺は何となく反発心も抱いていた。
いや、危険察知能力が働いたのだ。
この見栄えの良い男をミアに会わせてはいけない。
栗色の癖毛に水色の瞳という坊ちゃん外見の俺が霞んでしまうじゃないか!
「閣下、ご協力を願えませんでしょうか。」
彼は現場を無邪気に走り回れる少佐でもなく、現場から離れてどっしりと椅子に座っていられる大佐でもない。
中間管理職的な中佐だけあって粘る根性があるようだ。
「俺はもうすでにかなりの貢献をしているでしょう。テロリストの実行犯の捕縛にテロ内容も吐かせた。あとは君の仕事だ。君に全てを頼もう。」
「頼まないでください!あなたの撒いた種でしょう!」
「俺は撒いてないよ!巻き込まれただけの人でしょうよ!」
「テロなんか証言させなければ単なるガス爆発ですませたものを!」
「うっわ、お前は最低な奴だな!さすが中間管理職だ!」
「そうですよ。最低な男です。みんなが浮かれ騒ぐ中、地べたを這いずり回って仕事をしなければいけない貧乏くじの哀れな男です。そんな男がどうにでもなれと考えてしまっても仕方が無いと思いませんか。あなたもこの万博の来客達には何の感慨も無いようですし、お互いに何もなかったで済ませませんか?」
「何もなかったで済ませられるか!」
「では閣下。ご協力をお願いします。」
「うっ。」
カンタール中佐の笑顔は俺のリーブスが浮かべるものに似ていた。
やったぞ、という表情だ。
あいつだけは俺を働き者に出来る男なのだ。
ああ!そんな奴は世界に一人でいいのに!
「ああ!もう!」
俺は頭を乱暴に掻くと、カンタール中佐の事務机の後ろの壁に貼ってある広大な万博会場の全体地図を見返した。
爆弾を仕掛けたらしい個所はたった六つでも、会場は広すぎる。
「――人手がいるな。万博で閉めている美術館から警備兵を……。」
「閣下?」
俺はこれからする事と、爆発が起きてしまった場合を考えたのである。
「あ、美術館が空になったらヤバイ。ここは信頼できる君の隊だけで済ませた方が良いだろう。代わりに美術館の連中には絶対にそこを動くなと伝えろ。死んでも国の財宝は守れってね。」
中佐は俺にいぶかしんだ表情を見せたが、すぐに両目を輝かせたところを見るに、彼は俺が考えたことを理解したようだ。
「さすがです。」
「いやいや。火事場泥棒はよくあることだからね。」
万博が騒ぎになれば周囲に詰める兵隊は全て人命救助などでこっちに動く。
空になった王立美術館の秘宝は誰が守るのだろうか。
それこそ狙いだったらどうするのか、だ。
「爆弾を仕掛けたらしい六つのパビリオンは今すぐに閉める。客は誰も騒がせるな。君の外見を武器に使って客を誑してでも、全員を静かに外に追い出せ。」
カンタール中佐は俺の命令に神妙に頷いていたが、外見という単語で頬をピクリとさせて不興の気持ちを表した。
「何か気に障ることが?」
「いいえ。皮肉には慣れています。私は泥臭い田舎者の外見ですから。」
「君が泥臭いって?誰がそんなことを言うの。君は恋愛小説の好きなご婦人の好きそうな美丈夫じゃない。俺は君のその外見で頑固なおば様方も素直に避難誘導してもらえるかなって思っただけなのだがね。」
「かっか!では、今すぐにおっしゃられた事を実行してまいります!」
なぜか頬を赤らめた中佐は、俺に敬礼をすると部下を引き連れて主任室を飛び出て行った。
俺を残して。
「中佐の外見を褒めて下さってありがとうございます。中佐は地主階級出身だという事で、貴族階級の方々に田舎者やら肥溜めの臭いがするなど、ずっと酷い事を言われてきた方です。仕事がおできになるのに卑屈になられていて。あんなに溌溂な顔をなさった中佐は初めてですよ。」
「う、うむ。」
いや、事務方というか、中佐の副官は残っていた。
事務方らしき軍人というには丸っこい仔犬のような男は、俺へのお茶菓子の用意をせっせとしながら俺に親しみのある気安い笑顔を見せた。
「閣下、どうぞ狭苦しい所ですいませんがお座りください。有名な閣下に陣頭指揮を取って頂けるなんて光栄でございます!」
そしてカンタール中佐に忠誠をかなり抱いている風の副官は、中佐の詰所を「俺の爆弾処理対策本部」へと変えようと動き出しているようだ。
これはやばいと俺が逃げ出そうとそろそろと戸口へと一歩踏み出したが、なんと戸口の左右に立つ警備兵が持っている長い棒を戸口でバッテンに交差させた。
「外は危険ですから、閣下。」
俺は警備主任室に軟禁されてしまったらしい。
「わかったよ!じゃあ、誰か!俺のミアとニーナに今すぐお家に帰るように伝えてちょうだいよ!」
「中佐が絶対に婚約者様を守りきりますからご心配なく。閣下のお陰で自信を取り戻されて、あんなにも輝いているのですから大丈夫ですよ。」
「尚更心配だよ!」




